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はじめのいっぽ、希望の船出

登場人物一覧

清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
清水 洸汰の関係者
→ イラスト

●蒼海に夢見て
 海で生まれたカモメの子は、自然と海に憧れた。
 船乗りの父親や、その仲間から聞く航海の土産話、とりわけ多くの船乗りが語る『絶望の青』に強く焦がれて。
 いずれ自分こそが制覇する。そう強く思ったのだ。

●青空と出会う
「うーん、さすが海洋!」
 今から1~2年ほど前、ある夏の話。
 一所に留まる事を知らない、複数の意味で『旅人』の洸汰は、海洋のある港町を訪れた。
 元居たと語る世界でも、これほど深く鮮やか、それでいて広大なエメラルドやインディゴの海は、そう無かっただろう。これを見たかったのだ。
 手前の港には、出航を待つ船がずらりと並ぶ。海に船、同じものでも興味深い。あちこちと見て回っていると、開けた堤防でひとり、膝を抱えて座る赤毛の子供を見つけた。遠目で見ても分かるほど、拗ねた様子が見て取れる。
 子供の傍まで駆けて行き、いつも通りに「よっ!」と挨拶。
「!?」
 赤毛の子から見れば、声の主は知らない子供。突然声をかけられて、驚きと不信の目線を向ける。
「俺は清水洸汰ってんだ! お前はなんて言うんだ?」
 いつものように名乗りつつ、いつものように無遠慮に、赤毛の子の顔を覗き込む。たじろぐ子供。しかし、害意はまったく感じない。それに、名乗られたなら返さなければと、子供はしどろもどろに口を開く。
「え、えと……リーベ」
「リーベかー。ん、リーベ! こんないい天気なのにションボリして、どーしたんだー?」
「べ、べつに! 何でもないよっ」
「いーから、いーから! 何があったか、にーちゃんに聞かせてみ?」
 同年代に見える何者かからの年下扱いに少しむくれながらも、何故だろうか、不思議と悪い気分がしない。海洋の人じゃないみたいだし、ちょっとぐらい零してもいいだろう。そう思って、リーベは話してみる事にした。
「……父ちゃんが船乗りでさ。おれもそろそろ船に乗りたい! って、お願いしたんだけどさあ」
「うんうん」
「お前にはまだ早い、子供なんだから待っていなさい……って言われちゃって。おれだって練習はたくさんしたのにさー」
「なるほどなぁ。うーん、でも。心配なんだぜ、それきっと」
「でもー……」
 ぐずっているリーベ。なかなか手ごわそうだ。ならば……
「よし! こういう時はあれだ! パーッと遊ぼう!」
「遊ぶって、な、なにを!?」
「いーから! にーちゃんに着いてきな!」

●さあ、イカリを上げろ
 洸汰に引きずられたリーベがやって来たのは、港近くの浜辺だった。砂遊びをする子供や、岩場で佇む釣り人の姿がまばらに見える。
「こ、こー……た! はやっ! てか海!? 何するんだ? 船も無いのに」
「そりゃあもう、こうやって……」
 洸汰の視線の先には、かなり大きな流木がある。よいしょ、と持ち上げ、大雑把な汚れを払って波打ち際にどすんと置いて。
「ほら! こっちこっち!」
 流木の上に乗って手招き。子供なら、もう一人は乗れそうな余裕がある。
「えー、と……これってつまり」
「そゆこと! ほら、キャプテンが居ないと出航できねーぞ!」
「きゃぷ、てん……!」
 良い響きだ。リーベの目が、たちまち輝きだす。先程まで力なくしょげていたカモメの子は、音頭をとるべく颯爽と乗り込む。
 子供の遊びと思いきや。流木の船は結構な高さがあり、そこから眺める沖の風景や、足下に打ち付ける波の感触もかなり良い。
 こほん、と咳払いをして。

「ヨーソロー!」
「ヨーソロー!」

 洸汰も掛け声に続く。少し高い波が寄せてリーベの船を揺らし、高い飛沫を上げた。
「……っとと! この木、海でも浮かぶかなぁ。キャプテン、どう思う?」
 部下の質問に、船長は空と沖、波打ち際付近を順番に見て答える。
「うーん。この感じなら、ちょっとぐらいなら……あの岩場までは行けそうかな!」
 行ってみよう! と洸汰は言う。すっかり気を良くしたリーベは、短い航海に出る事にした。
 浅い場所を手足で漕ぐだけ。急造の船は当然ながら不安定で、波がくればぐらぐら揺れる。言い出しっぺの洸汰はバランス取りでいっぱいだが、リーベは意に介さずに舵を切っていく。
「潮の流れがちょっと変わってきてるから、逆らうより少し迂回するぜー」
「アイアイサー! ……そういうの、どうやったら分かるんだ?」
「ほら、あそこ! 地形とか風向きで大体予想できるし、魚の動きを見ても分かるぜ!」
 そう言って指さしたのは、少し離れた水底だった。どれどれ、と洸汰も覗き込んでみるが、魚の影は見えない。
「あ! 見てみて、向こう! キレーな魚!」
 続けざまにリーベが指さしたのは、遥か遠い水平線。洸汰には微動だにしない真っ直ぐな境界線にしか見えなかったが、船長曰く、虹色に光る魚が跳ねたとか。
「はぇー……キャプテンは、やっぱりキャプテンだなー!」
「へへっ」
 海の知識は勿論のこと、尋常でない目が備わっている。その様子に何か得心がいった洸汰は、内心で「ははーん」と顎を擦った。

●初航海、戦果は上々
 目標からは少し逸れたものの、無事、岩場への上陸を果たした。
「ふぇーっ……お疲れ様だぜー! すごかったなあ」
「どーだい? これなら合格、でいいよな!」
「ああ! バッチリだぜ! ……それにやっぱり、リーベ! オマエ、才能あるよ!」
「まじ!?」
 現在地や目標、時間や方向の感覚の多くを目視に頼る船上において、海底や遠くの目標まで見渡せる彼の目は、さぞかし重宝する事だろう。
 ……だからこそ。
「最初言ってたけどさ。リーベの父ちゃん、やっぱり、オマエの事がすごい大事なんだと思う」
 繰り返すまでもなく、航海には多くの危険が伴う。きっと、向いているから。向いているからこそ、余計に心配なのだろう。
「ん~……そういうもんかぁ」
 リーベとて、うすうす気付いてはいる。それでも突っ張ってしまうのは、こういった年頃ゆえの。
「そういうもんさ! リーベだって、大人になったらちゃんと分かるぜ」
 まだ幼い船乗りの頭を、『兄ちゃん』はぐしゃぐしゃと撫で、リーベが照れくさそうに首を傾ける。
「うう、洸汰……兄ちゃんだって子供じゃん?」
「いや? オレ、これでもおにーちゃんだし? お酒だって飲めるぜ?」
「……マジで!?」

 水平線を見つめれば、日が傾いて空は茜と金に染まり、海はそれを映して輝く。
 日没。帰投するいくつかの船影が、眩い海面の上を進んでいく。どの世界でも、何度見ても、やはり見入ってしまう。
「いつかオレもあんな風に、自分の船を持つんだー!」
「すいへいリーベ僕の船! ってやつだな!」
「??」
「オレの居た場所で、ゲンソキゴウを覚える時の語呂合わせがあって……あ、ゲンソキゴウっていうのはなんかこう、難しいやつ!」
「へー! 兄ちゃんの世界には、色々あるんだなあ!」
『水兵』で、リーベで、自分の船。いい響きだ。気に入ったようで、上機嫌に何度か繰り返して。

「えっと、洸汰……兄ちゃん! ここには、しばらく居るの?」
「そうだなー、まだ決めてないけど。もうちょっと見て回ろうかなって」
「あの、よかったら! よかったら、また明日も!」
「おう! じゃあ、お昼食べたら港に集合な!」
「おー!」

 幼いカモメも、飛び立つ日がやがて訪れる。
 この思い出があれば、どんな海にでも乗り出していける。きっと、どんな絶望があるとしても、あの絶望の青だって――
 そう思ったのは、決してリーベだけではないだろう。

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