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モブから見たサイズ
登場人物一覧
●はじめに
こんにちは。世界を救う『イレギュラーズ』に密着するこの企画。
今回は妖精の鎌そのもの、サイズさんについて密着取材です。
──と言っても、ご本人の取材だけでは得られない情報やモノがあるのも事実。
そこで、今回はサイズさんに詳しいという二人の方にお話を伺いました。
それでは、ご覧下さい。
●死神・イワン氏の話
イワン氏はウォーカーである。
目深に被ったぼろぼろの黒フードの中には、ひび割れた人間の頭骨。
えぐられた眼窩の中にはぼやりと白い光を湛えていて、ぞろりときれいに並んだ白い歯は不気味に吊り上がっている。
そう、まさに誰しもが想像し得る『死神』の姿である──!
「……はい。で、もう話進めても?」
──あ、はい。今回はよろしくお願いいたします。
「ハーイ、イワンですヨロシクゥ。元の世界ではエリート死神様ですよボク。今レベル1だけど。うへへえ」
──……死神にしては、ものすごくフランクですね。
「まあね。ボク、死神の中でも結構例外みたいなカンジだったし。同期にはもっと『ぽい』奴が多かったよ」
──はあ、なるほど。さっそく本題ですが、サイズさんの事について色々お聞きしたく。
「ア! サイズくんね。ウンウンウン。わかる? わかっちゃうか~。もうね、一目見た時、ビビッと来ちゃいました。美しいよね~。造形美ってあの子の事を言うんだよ」
──造形美ですか。
「まさに死神に握られるために生まれてきたみたいなカタチしてるよね。オマケにインテリジェンス・サイズなんて、ボクら死神が握ったら『ハク』が付くよお」
──命を刈り取る形……ってやつですか。
「それ、よく聞くフレーズだけど、何か元ネタあんの? んー。まあ、『ぽい』けどね。多分、あの子呪われてるみたいだし」
──巷で言う、カースド装備……の類という事でしょうか?
「さあねえ。詳しい事ボクにも分からないねえ。でも、まあ──」
イワン氏の口ぶりがぞっとするほど冷たくなった。落ち窪んだ眼窩から、冷たい目玉が見えた。
「まともなシロモノじゃない。故に欲しい」
……気がした。
「あっ、ごめん。ついつい滾っちゃって。そうそう。ボク、鎌コレクターなんだよ。あの刃に魅せられちゃって困ってるのさ」
──はっ。いや、そうなんですね。
「アレねえ。ホント物騒な鎌だよ。キミには分からないかなあ? 『キレイなガワ』があるから誤魔化されてんだろうけど。
ぶっちゃけマジで危ないよ。刃物が意思持って動き回るってだけでも、メチャクチャ危ないでしょ。キミ、料理する? その時包丁使う? ソレが勝手に動いてうろつくの想像したら怖くない?」
イワン氏のたとえ話に、インタビュアーがごくりと喉を鳴らした。
確かに──だが、物言わぬ包丁ならまだしも、サイズ氏は正常な思考を持っている。
それを指摘すると、イワン氏はヘラヘラと笑う。
「なあんだ、もっと怖がってくれないと」
──そういうの、本当にやめてください。
「ゴメンゴメン。でも、アレはホント一般論で、ボクはマジでただの鎌コレクターだから。コレクションとして飾りたいだけのサイズチャンマニアなの」
──鎌コレクター……。
「とは言え、ボクもね、そんな腕ずくで~なんて考えてないよお。てかボク、レベル1だから。弱すぎてハナシにならないからね。ふっつーに返り討ちにされちゃうよ」
──はあ。
「それにしても、謎な部分が多すぎるよね、あの子。あの魔力で作られた義体(アバター)とか。普通の鎌なら必要ないでしょ。何でそんな事出来るのか知りたくない?」
──そういう所をイワン氏が知っていると思っていたのですが……。
「マジ? 役立てなくてごめんちゃい、ボクが知りたいくらいです。
いやァ~、でもさあ、2時間くらい眺めてジックリ研究したいと毎日思ってるよ、エヘヘヘ。刃ペロペロしたいお! アッまあボク骨だからベロ無いんですけど」
──ハイ。インタビューのご協力ありがとうございました。
「待って待ってごめんて引かないでホント。あっ、アテが外れたなら良い人紹介するよ。同じ鎌コレクターのカマホールさんって言うんだけど」
──結構です。
「いや待ってカマホールさん、マジでアツい話できるから。ネッ。ヒトの裸なんかに目もくれず武器に興奮しちゃう人だから。ちょっとだけだから、怖くないから、ねっ。ねっ、先っちょ」
──結構です。ありがとうございました。
●鍛冶屋・プレウトの話
鍛冶屋のプレウト氏は、如何にも屈強なブラックスミスである。
革エプロンに鉄の槌、鍛え上げられたたくましい腕、無数の火傷の跡……まさしく風貌は武器屋の頑固親父。
辺りを見渡せば、ふいごに炉、金床や火箸……職人魂溢れる武骨な鍛冶場という印象だ。
──こんにちは。今回はよろしくお願いします。
「ああ」
──早速、サイズさんについての事を教えていただきたく。
「あの子供な。最初はどうも苦手でね。感情も薄いし、何考えてるかわかりゃしねえ」
──お二人の出会いなどを聞いても?
「ああ……何だったか。多分アイツが召喚されたて時だったんだろうな。突然ウチに来て、鍛冶道具一式、売ってくれって言われたんだったか。
ま、断ったがね。今はウチのよりもっといい道具揃えてるみてえだし、俺の選択は合ってたな」
──鍛冶道具を。一体なぜでしょう?
「『自分』をメンテするのに必要だからってさ。ま、イチイチ他人に任せるのも面倒だったんじゃねえの。まさか、自分で自分を直す鎌が居るとは思わなかったが」
──確かに。面食らった事でしょう。
「まあな。変な縁ついでに、鍛冶の腕も見てやったが……ありゃ驚いたぜ」
──サイズさんは高い鍛冶の腕前で評判が良いとお聞きしましたが、本職の方から見てもやはり?
「ああ。俺ら人間じゃ絶対に真似出来ねえ技術を持ってる。どこかで培ってきたか、もともとのセンスなのかはわからねえが……」
──それを教えてもらう事は?
「馬鹿野郎! 職人の技術ってのをホイホイ教えてはやれねえよ。どこぞにマネでもされたら、商売あがったりだろうが!」
──……失礼しました。
「悪いな。俺はな、弟子取ったり、逆に誰かに師事したりってのをして来なかったのよ。俺の技術は、俺だけのもんなんだよ」
──そうなのですか?
「……オヤジが鍛冶屋だったんだが、16の時に逝っちまった。ハネッ返りだった俺は、鍛冶屋なんてダセエと馬鹿にしてきた。
だが、オフクロの言葉で考えを改めた。オヤジの残したこの工房で、ほとんど独学で努力と試行錯誤を重ねてきた。
でも、たまに近所の連中から渡される仕事と言やあ、鍋やら包丁やら調理器具を直す事ばかり……」
──……。
「もっと華やか……とは言わねえが、アツい仕事だと思ったんだ。どうせやるなら、名のある名剣を生み出してやると意気込んでよ。
結果は、もう見ての通りだ。武器の鋳造なんざほっとんどしてねえ。精々、農具の鎌を作る事くれえさ」
プレウト氏の表情は暗い。相当な苦労をされてきたのだろう。
「そんな事ばかりしてたら、いつの間にかトシばかり食っちまって。ぶっちゃけ、疲れてたんだ。店も畳んじまおうと思ったくらいに。
そんな時、アイツが此処に来た。鍛冶道具もな、本当は譲ってやろうと思ったんだ。でも、変なプライドが邪魔しちまってね。偉そうに鍛冶の腕を見てやるなんて言ってよ」
──それで、先ほどの話に。
「ああ。アイツが、サイズの野郎が金鎚振ってるとき、どことなく嬉しそうに見えたんだよ。こまっちゃくれた無表情のガキのくせに、良い顔しやがってたんだ。
漠然とな、若い頃のアツい何かを思い出した。アイツには感謝してんだよ。だからこそ競争相手として、俺は今もこうして金鎚振れるのさ」
ぼりぼりと頭を掻いて、恥ずかしそうに咳払いをしたプレウト氏。
「ま……偉そうな事言ったが、俺なんかよりもよっぽど大成しちまったしな。場末の鍛冶屋である俺の事なんざ、すっかり忘れちまってんだろうが」
インタビュアーが、ふと気づいた。
窓をちらりと覗き込んで、すぐに通りすがる小柄な影。黒い髪と翅を揺らして、それは去っていった。
──……いえ、そうでもないかもしれませんよ?
「はあ……?」
──店のドアの前に、『お土産』とだけ書かれた手紙の入った紙袋が置かれていた。
紙袋の中には、珍しい食べ物や果物でいっぱいだ。
それを見たプレウト氏のはにかんだ笑顔は、少年のような輝きを残していた。
●おわりに
いかがでしたか?
サイズさんについての詳しい情報は知ることができたでしょうか?
今後もサイズさんの活躍に目が離せませんね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。