PandoraPartyProject

SS詳細

いつもの聖女と情報屋

登場人物一覧

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
杜里 ちぐさ(p3p010035)
PandoraPartyProject

「おほほほほ!
 さぁ、金ですわ! 金をお出しなさい!
 具体的に言うと、追加のお酒を飲むためのお金! 追加報酬を!
 いいんですの!? この幼気な情報屋の方があーんなめにあっても!?」
 と、ヴァレーリヤがぐいぐいとちぐさを羽交い締めにするので、ちぐさはなんとも、困ったような顔をするのみである。

 どうしてこんな目に遭っているのか、といえば、なんとも奇妙な……いや、いつも通りの話なのであるが。
 ちぐさは、いつものように、ローレットの情報屋(見習い)としての活動に邁進していた。いつもの仕事を終えてローレットに戻ってきたちぐさは、そこでいつも通りに暴れているヴァレーリヤと遭遇したわけである。
 ただし、このときは、ちぐさはなんとも、のんびりしたものであった。というのも、ヴァレーリヤの情報は知っていても、その本質はよく分からなかったからである。
 ヴァレーリヤの情報だけを見れば、鉄帝の聖女として名高いワケであるから、つまり鉄帝の聖女としてのヴァレーリタを思い浮かべていたワケで、でもそこに居たのはうらぶれた酒場でひっくり返っているような酒乱だったのだから、ちぐさの頭には「?」が何個も浮かんでいるような状況だったのだ。
「あれは……鉄帝の聖女ヴァレーリヤさんにゃ!
 でもなんか思ってたのと雰囲気違うにゃ……?」
 なんて小首をかしげていたものだから、さあ大変、である。ヴァレーリヤからしてみれば、そんなものは蛇の前のカエル、カモしょってきたネギ、いや、ネギしょってきたカモ、である。ヴァレーリヤは、にこにこと微笑みながらちぐさを手招きする。どうしたんだろう、とちぐさが近づいたところで、ブリッジの状態でどたどたどた、と這い回ると、そのままちぐさの背後に回り込み、がしっ、とロックをかけたわけである!
「おほほほほ、形勢逆転ですわねーーー!!
 お酒を山ほど持って来なさい!
 ちぐさがどうなっても良いんですの!?」
 などと、酒瓶をちぐさのほっぺたにぐりぐりしながら言うので、ちぐさは、
「なんで僕なのにゃ!?
 離すにゃ、どうなっても良くないにゃー!」
 と、ジタバタするわけである。

 冒頭に戻ってみれば、つまりちぐさはヴァレーリヤに人質に取られているわけであって、その理由も、なんともヴァレーリヤらしい、としか言い様のないものであった。
「あ、アンタそれでもローレットのイレギュラーズか! 世界救った奴のやることか?!」
「世界救ったから好きなことやるんですわよっ!!
 っていうか! お黙りなさい! そもそも、その世界救った奴に、貴方達があーんな少ない報酬を支払うのがいけないんですのよ!!
 私だって、頑張ったんですもの。おいしいお酒と食べ物を堪能するくらいの額は、あってしかるべきではなくて?」
「そうなんだにゃ?」
 と、ちぐさが小首をかしげた。
「報酬が不当だったにゃ? どれくらいもらったんだにゃ?」
「これくらい」
 と、ヴァレーリヤが耳打ちするのへ、ちぐさは「えー」と思わず声を上げた。
「相場から随分と上乗せされてるにゃ……!」
「当たり前でしょう! 私だって、頑張ってるんですのよ!!」
 がーっ、と吠えるヴァレーリヤへ、ちぐさが表情をしかめて見せた。
「そもそも、それだけもらっていて、お酒が飲めないのもおかしいにゃ……何を飲んだんだにゃ……?」
「そいつ、この間、めちゃくちゃ高い酒買い込んでたぞ!!」
 スタッフが声を上げた。
「ちぐさ、後ろを見て見ろ! そいつが飲んだ酒のラベル!」
 と、ちぐさが頑張って後ろを見てみれば、そこには目玉が飛び出るくらいの値段をした、それはそれはお高いお酒の瓶が、冗談のように転がっていたわけで、これにはさすがのちぐさも目を丸くした。
「ちょ、ちょっと!? 冗談じゃないくらいのお酒が転がってるにゃ!!」
「は? は? は? この私に安酒を飲めと!?」
 ヴァレーリヤが、わかりやすく憤慨してみせる。
「私が飲みたいのは! 安い奴じゃありませんの! そんなものでは、私の舌は満足いたしませんわ!!
 もっとこう、もっと高いのを持ってきてくださいまし!!」
 ヴァレーリヤがぎゃあぎゃあとわめくのへ、ちぐさは「うーん」と少し唸ってしまった。気持ちは分かる。分かるというのは、お酒はおいしいのが良いよね、というところであり、そしておいしいお酒というのは大概高いのであるからだ。高い=おいしい、では必ずしもないが、おいしいものは大体高い。高いお酒は高いお酒の味がするのだ。
 そうなると、ヴァレーリヤの気持ちも分からないでも兄のだが、しかし、だからといって、こうしてローレットで暴れていいわけではない。
「うう……スタッフさん、助けてほしいのにゃ……」
 と、ちぐさとしては助けを請うことしかできないわけである。ヴァレーリヤは、酒瓶をぐりぐり千種のほっぺたに押しつけ、酒臭い息をドラゴンのブレスのように吐き出した。
「よいのですの……? ちぐさがどうなっても……?
 思い出してくださいまし? このSSが、洗井落雲に依頼されているという事実を!
 よいのですの? 混沌世界最後の思い出が、本来は素晴らしい温かな日常が描かれるはずのそのSSが、洗井落雲がちぐさに「いいですね」「たすかります」とか言うような、そんなSSになってしまっても……!?」
「洗井落雲ってだれにゃ……?」
 酔っ払いの戯言である。だが、なんかその名前は、ちぐさの背筋に、何か恐ろしい感覚を抱かせた。なんかこう……最後のデジタル・タトゥーになるような、そういう気持ちを抱いてしまうわけである。
「うう……あ、洗井落雲の刑はいやにゃ……」
 ちぐさがうなだれるように言う。
「そうか……そうだな……オレも洗井落雲の刑だけは嫌だ……」
「勘弁してほしいよな……くそっ、ヴァレーリヤには血も涙もないってのか……!?」
 スタッフ達が苦しげにうめくのへ、ヴァレーリヤは「おーっほっほほ!」と笑って見せた。
「なんか思いのほかきいていますわね! そうですわ! 拷問の最先端は、洗井落雲の刑!
 皆様も、デジタル・タトゥーを刻まれたくなければ、私に頭を垂れるが良いですわ!!!」
 ヴァレーリヤがなんか胸を張ってみせる。そうなると、ちぐさの身体が、ぐっ、と引っ張られて、その肢体を見せつけるようなポーズになってしまう。少しだけ身体を引っ張られたちぐさが、思わず涙目を浮かべてしまう。「ううっ」と呻くちぐさが、その熱のこもった声を
「ヤバいぞ! 洗井落雲の刑が始まっている!!」
 スタッフが思わず声を上げた。
「分かった、わかった、ヴァレーリヤ! おちつけ! それはマジでヤバい!」
 そう、スタッフ達が慌てるのへ、ヴァレーリヤは満足げに洗井落雲へ視線を送った。
「洗井落雲の刑ってなんにゃ……?」
 困惑するちぐさは、自分が如何に危険な橋を渡ったかを理解していない。そう、それこそが、洗井落雲の刑の恐ろしいところであった。
「ええと、ヴァレーリヤさん。
 どうしてそんなにお酒が欲しいのにゃ?」
 なんとか説得しようと、ちぐさは対話を試みた。まずは、何故、テロリストがそれを要求しているのかを知るべきだろう。なぜなら、それこそがテロリストが暴力を行為した原因に違いないからだ。
 もちろん、テロに屈するべきではなく、テロリストの言い分などを真面目に聞くことはあってはならない。ならないのだが、まぁ、今回だけは許してほしい。なにせ、テロリストだが、ヴァレーリヤなのだ。
「お酒がないと、生きていけないのにゃ?」
「生きていけませんけれど……?」
 ヴァレーリヤが頷いた。
「あと、どうしてお酒が欲しいのって……?
 …………?
 お酒って、欲しいから欲しいのではなくて…………?」
「…………」
 ちぐさが黙った。
「……それもそうにゃ」
 対話終わり。
「いや、いかんでしょ」
 スタッフが吠える。
「そこはこう……なんとか、説得すべきでは!?」
「で、でも、こう言われた何もかもがおしまいにゃ!!
 ちぐさが、うえーん、と声を上げた。
「こう……場末の酒場の酔っ払いの論理に期待したのが失敗だったにゃ!
 あの人達、「酒は飲みたいから飲むんですわ!」以外の事なんて考えてないのにゃ!」
「おーーーっほっほほほほ! その通りですわ!!」
 場末の酒場の酔っぱらいがなんか言った。
「さて、いい加減、皆様も諦めたらいかがかしら?
 ちぐさも、そろそろ突っ込み疲れたはず。
 私は、また洗井落雲を召喚してもいいんですのよ!?」
「くっ、なんて奴だ……それでも世界を救った英雄か……!」
 スタッフが怯えたように声を上げるのへ、ヴァレーリヤは、ちぐさをつれて、どん、とテーブルに腰掛けた。
「さぁ! どうするんですの!?
 お酒を持ってくるのか、お酒を買えるだけのお金を持ってくるのか! あるいは、このままちぐさをあーん、なめに合わせるのか!?」
「うう、もうお手上げにゃ……」
 ちぐさが肩を落とすのへ、スタッフが悔しげに呻く。
「仕方あるまい……酒を持ってこい! なるべく高い奴!」
「なるべくぅ~~~~?
 なるべく、っていったかしら~~~~?
 一番高いのを持ってきてくださいまし!」
 ずけずけとヴァレーリヤが主張するのへ、くっ、とスタッフ達は呻いた。
「やむを得ん、一番高い奴を持ってきてくれ……!」
 そう、スタッフが観念する。程なくして、スタッフ達が、店内で最も高級な酒を一本持ってきた。とん、とテーブルの上に置く。
「一本~~~~~~~?」
 と、ヴァレーリヤが嫌そうな顔をしたので、
「ちっ、調子に乗りやがって……! おい、いいや、あるだけもってこい!」
 と、スタッフが自棄っぱちに声を上げた。すこしして、テーブルいっぱいのお酒が、ヴァレーリヤの前に提供されたわけである。
「ふふふ、」やればできるではありませんの! さぁ、ちぐさ。一緒に飲みましょう! 今日は私の奢りでございますわ-!」
 どの口が、と全員で壮大に突っ込みたかったが、ちぐさもスタッフも、疲れていたので無視した。そのときにスタッフは騎士団に連絡していたし、ちぐさはヴァレーリヤに、なんか肩を組まれていたのもあった。
「さぁ、飲みましょう! ちぐさ!」
「えーと……?」
 ちぐさが困ったような顔をするのへ、スタッフは「付き合っておけ」と視線を送った。ちぐさがうなづくと、ことこととグラスにお酒が注がれる。ちぐさが飲んでみれば、なるほど、高いだけあって、芳醇なフルーツのような香りと、アルコールの苦みがほどよく、実に飲みやすいものだった。
「まぁ。私は、もっとガツンと殴られるようなのがイイノですけれど」
 と、ヴァレーリヤが言う。
「……まぁ、突き合わせてすみませんでしたわね、ちぐさ」
 そう、ヴァレーリヤが笑った。
「……なんだかんだ、寂しいのですのよ。
 あの、騒々しい日々が終わってしまったのは……」
 ふと、遠い目をした。ローレットでの、世界を股にかけた冒険の日々。懐かしくも騒々しい日々は、今は遠い過去のことのようにも感じられた。
「……ヴァレーリヤさん……だから、つい無茶して、こんなことを……?」
「いえ……? ただお酒が飲みたかっただけですけれど……?」
 じゃあ今の会話なに? とちぐさは思ったが、冷静に考えてみれば、場末の酒場の酔っ払いの論理など、真面目に聞いた方が馬鹿なのである。ちぐさは諦めた。
「まぁ! そんなことはどうでも良いですわ!
 というわけで、ちぐさ、飲みましょう!
 今日は朝までグビグビグビですわ~~!!」
 と、ヴァレーリヤがグラスを持ち上げた瞬間、屈強な棋士の男が、ヴァレーリヤを捕縛した。
「…………」
「…………」
 ヴァレーリヤの視線が、騎士の男と工作した。またか、という諦めの気持ちが、騎士から伝わったような気がした。
「では、お願いします」
 スタッフがそういうのへ、騎士は頷いた。そのまま、ヴァレーリヤを羽交い締めにして、連行する!
「あっあっ、なんてことするんですの!? 不当逮捕! 不当逮捕でしてよ~~~!!」
「うるさい、暴れるな! 毎週毎週どこぞで騒ぎを起こしおって! いい加減に反省しろ!」
 引きずられていくヴァレーリヤの姿を見ながら、「今日も平和だったにゃあ」と、ちぐさは現実逃避を始めたりするのである。
 実際。
 今日も混沌は平和です――。


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