PandoraPartyProject

SS詳細

語られるもの

登場人物一覧

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵

 陽光は暖かく。
 世界が平和になったことを思わせてくれる。
 目の前の子供達は、そんなことを理解してるのだろうか。
 或いは――そんなことも忘れて、或いは知らないのかもしれない。
 最後の戦いから、幾年かたって。
 あれほど大騒ぎした世界は、いつものように静まりかえり。
 いや、それでも、どこかで大騒ぎが起きているのは、実に混沌の名を冠した世界にふさわしいのだけれど。
 当たり前の日常に埋没していくのならば、小学校の子供達にとっては、ずっと昔の物語のように、忘れていくのかもしれない。
 それでもいいものだ、とシャルロットは思っていた。いや、厳密に言えば、あの戦いを忘れてほしくはない。だからこそ、小学校で歴史を教えることをシャルロッテは選んだし、その想いは、子供達も理解してくれてるようだった。
 ただ、世界が終わるかもしれないという、あの悲しさと苦しさは、いつまでも覚えているべきではない、とは思うのだ。それでも、歴史に学び、あの戦いに立ち向かったもの達を覚えていてほしいと願うのは、それもまた我が儘だろうか。ただ、絶望の果てに立ち向かったもの達がいたことを、或いは英雄譚のようでも良いので、覚え居てほしかった。
 それは多分、希望に間違いないからだ。どれだけ絶望的な状況においても、戦い、立ち向かったもの達がいるのは、希望になり、勇気になり、彼らが立ち向かう勇気になる、と、シャルロットはそんな風に思うのだ。
「ああ、シャルロッテ先生。今日はよろしくお願いしますね」
 そう、小学校の校長が言った。老爺であり、あの戦いを知っているものの一人でもある。シャルロッテは、非常勤講師、という立場だった。週に一度、前述の思いから、子供達に歴史を教えていた。本業は――なんなのだろう。校長もよく知らなかった。たまに、司書だとか、探偵だとか――ただの奥さんですよ、等と、本人が笑いながら言う。ミステリアスなところは変わらず、でも、何処か険がとれたような、穏やかなところを感じさせるのは、シャルロッテ自身が、先の戦いで変わったところなのかもしれない、と、シャルロッテ自身も思うものだ。
「せんせー、きてる!?」
 と、子供達の声が響いた。職員室の入り口から顔を出すのは、これから受け持つ教室の子供達だった。
「お、きてる! いらっしゃーい、先生!」
 そう言って、子供たちがわらって、シャルロッテにまとわりついた。
「ああ、危ないよ。今は車椅子だからね」
 そう、シャルロッテは、穏やかに笑うのだ。子供達を少しだけ離れさせて、車椅子を動かした。
「それじゃあ、今日の教材を持ってくれるかい?」
「はーい!」
 机の上の書籍を、子供達は抱えた。よい子達だな、とシャルロッテは思う。そのように思うこと自体が、シャルロッテの心の変化であるのかもしれないと考えると、少し不思議な気持ちにもなる。騎兵隊で過ごした時期は、自分にも色々な変化をもたらしたものだ。それはきっと、良いことなのだろう。
 子供達を伴って、小学校の廊下を、車椅子で歩いた。背中に立って、きゃあきゃあと車椅子をおしてくれる子供達は、親切心半分、お遊び半分と言ったところか。
「ああ、押してくれるのは嬉しいのだけれど、怪我には気をつけてね。
 こういうのは、意外と危ないものだから」
「はーい!」
 元気よく返事をする子供達には、きっとちゃんと伝わってはいないのだろう。まぁ、それも良いか、と思う。今は、それでもいいのだろう。
「今日も、イレギュラーズの話をするんでしょ?」
 子供達が言うのへ、シャルロッテは頷いた。
「そうだね。今日は少し、思い入れのある所ではあるね」
 シャルロッテが微笑んだ。
「先生がいつも言ってる、騎兵隊ってやつ!?」
 子供達が目を輝かせる。そんなにいつも言っていたかな、と、小首をかしげた。言っていたかもしれない……そう考えると、なんとも気恥ずかしいものだった。
「そうか……そんなに話していたかな」
「たくさん言ってたよ~! 前の時も、そろそろ騎兵隊のお話だね~って!」
 にこにこと微笑んで、そう言われるのだから、やっぱり気恥ずかしいものだ。そう考えれば、あの戦いの日々の中、騎兵隊として生きたひびは、間違いなく、自分の中に未だ息づいていて……それで、もしかしたら、それを伝えたくて、こうして歴史の授業なんてものをしているのかもしれない、とすら思う。
「ふむ。
 そう言われると……少しばかり恥ずかしいものだね。
 まるで、ボクがはしゃいでいたみたいだ」
 あはは、と笑うシャルロッテへ、子供達も楽しげに笑った。
「でも、先生の授業、楽しそうだから好きだよ?」
「そうかい? なら、きっと、それはそれで良かったのだろうね」
 シャルロッテが笑う。そのように言われたのは、もしかしたら初めてかもしれなかった。いや、子供達の楽しそうな笑顔があったことは事実で、改めて今、その事実を理解したものなのかもしれない。

 教室に着くと、子供達の騒ぎ声が聞こえた。
「先生連れてきた~!」
 と、一緒に来た子供達がそう言うので、シャルロッテは自分の手で車椅子を動かした。教壇の前に立つと、ゆっくりと杖を使って、立ち上がる。まるで、自立した、というような気持ちになる。リハビリのためのそれであったけれど、少しずつ、でも確実に――自分は、一人で立ち上がるための力と、勇気を、得ているのだと、そう思った。
「さて、今日もイレギュラーズ達のことについて話そうかな?」
 シャルロッテがそう言った。子供達に運んでもらった教材の本を開いて、そこに記されていた文字を目でなぞる。そうなると、まるで、あの時の自分がすっかり、目の前によみがえるような気分になった。あの頃の、幾ばくも残酷で、嫌味っぽくて、斜に構えていたような自分だ。思い返せばなんとも恥ずかしいものだが、そう、恥ずかしいと思うそれが、一つ成長なのかもしれない。
「その中でも、今日は騎兵隊の話をしよう」
 書物の言葉に指をなぞらせ、想い出を思い返すように言葉を紡ぐ。
「イレギュラーズ時代の歴史は覚えるべき組織も多いが……今日の授業はお待ちかね『騎兵隊』だ。
 そうだね、舞台劇や小説の題材にもよく見かけるあの騎兵隊だ。
 騎兵隊。イレギュラーズ達の中でも、特に群に特化した集団だった。
 数と言うものは、シンプルに力でもある。
 だが、それを統率するだけの能力があるものが先頭に立たなければ、烏合の衆、となってしまうけれどね」
 ゆっくりと、板書に、メンバーの名前を書いていく。たくさん居並んだその中には、シャルロッテの名前もあって、その隣に、騎兵隊の先導たるもののながあった。なんだか、随分と大人げないことをしているな、という自覚はある。まるで、相合い傘を描く子供のようだ。とはいえ、今の自分を、シャルロッテは嫌いではなかった。
「彼女は――戦場では勇ましく皆を率いるが、普段はかわいらしい女性でね」
 ふと、懐かしむようにそういう。言葉を付いてでるのは、歴史上の偉人を語るそれではなかった。今も懐かしき、遠き友を思い、それを語るかのような、そういう口ぶりだった。
「男女問わずに、多くの人が、様々な意味で彼女を好いていた。ボクも――」
 好いていた。
 好いていたのだろう。
 当たり前だ。彼女を好きで居なかった人間なんて、騎兵隊には、きっと居ない。
「先生は、きへいたいで何をやっていたの?」
 と、子供の一人が手を上げた。シャルロッテは、ふむ、と唸った。
「そうだね。軍師……なんというかな、先生みたいなことをしていたんだよ。戦うことに関する、ね」
「先生って、昔から先生だったんだ」
 へー、と子供達が声を上げるのへ、シャルロッテは苦笑した。
「いや、あの時は探偵だったのだけど……まぁ、いいかな。
 ボクも……完璧ではなかった。時に過ちを犯し、仲間とぶつかり合い……それでも、共通の目的のために戦った。
 あの時のボクは、世界を救うとか、そんな大それた目的のためには戦っていなかったのだろうけれど。
 それでも――そう、勝って、生き残る、ということに関しては、皆一致していた」
 懐かしい、と思った。今も、その息づかいすら思い出せる。あの時傍にいた仲間達。記憶に焼き付いて消えない、もしかしたら、自分自身の黄金時代ともいえるそれ。
 騎兵隊のことを語るたびに、自分の内面を開示するような気持ちになった。それは、ある意味で、何らかの告白に近い気持ちだった。それを子供達にするのは、なんとも奇妙なことであろうが――いや、それでも、誰かに聞いてもらうというのは、悪いことではない。そうなれば、これは一種の自慢話だったのかもしれない。だったら、すごいすごい、と素直に喜んでくれる子供達などは、丁度良い聴衆であったか。いやいや、少しばかり斜に構えているな、と自分でも思う。懐かしさに浸ってしまったからだろうか、あの頃の残滓が、シャルロッテの中でくすぶるような気持ちでもあった。
「ああ……傷つき戦い、しかし仲間達と笑い合い……輝かしい時代だった。
 勿論、ボクはまた次の、生徒の君達と過ごす輝かしい時代を過ごしているがね」
「それって、どういうこと?」
 子供達が訪ねるのへ、シャルロッテは笑った。
「つまり、アレだね。先生も悪くない、ということさ」
 はは、とシャルロッテは笑った。
「でも、先生は、騎兵隊に戻って~、っていわれたら、戻るの?」
 その言葉に、シャルロッテは僅かに逡巡した。
「そう……そうだね。
 戻るかもしれない。
 いや、きっと戻るのだろう。
 ボクの力が借りたい、何て時はね。そのときは、君達だって大変なことになっているかもしれない。
 だから、そういう意味でも、ボクは騎兵隊に戻るだろうね」
「そうなんだね! そのときは、皆で頑張って、って言わないと!」
 そう、子供達が騒いでくれるのが、なんともくすぐったい気持ちだった。ただ、なんというか……自分が騎兵隊に呼ばれることは、きっともうないだろうと、そうも思う。世界はきっと、騎兵隊を必要としていない。あの、勇ましい女隊長のことも。或いは、あの女隊長は、『そうなるように』、今もどこかでぼやいているに違いないのだ。
「先生、先生にとって、その、隊長さんって、どんな人なんですか?」
 ふと、そう、子供達からそんな質問が届いた。
「どんなひと、か」
 そう、シャルロッテは小首をかしげる。
「そう……そうだね。
 さて。愛しの旦那様、なんて所はどうかな?」
 そう、シャルロッテは茶化すように応えた。その心の機微は、きっと子供達には伝わらなかったけれど……ただ、子供達は、シャルロッテがずっと、その人のことを好きなのだろうな、とい、そんな風に思った。

 授業が終わって、車椅子に深く座り込む。子供達は当たり前のように、シャルロッテの車椅子を押して、資料を抱えた。
「職員室まで送ります!」
 と、元気よく言う子供達にお願いして、シャルロッテはゆっくりと歩き始めた。
「もうすぐ夏が来て、その後は秋だね」
 そう子供達が言うのへ、シャルロッテは頷いた。
「あの頃から何度目だろうね。まぁ、君達にとっては、いつだって新鮮な新しい季節なんだろう」
「? そうだよ? 新しい、夏!」
 えへへ、と笑う子供達に、シャルロッテは頷いた。多分、これが未来を守った、ということなのだろうと、そう思った。小学校の歴史教師という職業も、なんだか悪くないと思えた。さっき、子供達に言った、輝かしい時代、というのは、心からの本心に違いないのだ。
「また、君達と新しい夏を過ごすのも悪くないね。
 その先は、秋で。その先に冬があって。
 日常は、この混沌世界でずっと続いていく」
 シャルロッテが、ゆっくりと窓の外を見つめた。変わりゆく季節は、それでも変わらない明日を保証してくれるようだった。変わらない世界は変わらないまま、そして終わらないままに、きっと未来の先へと続いている。花芽吹く季節が終わって、少しずつ緑の葉が世界を彩る。その先の景色を夢想しながら、シャルロッテは、その先にたたずむ騎兵隊の先導を幻視した。
「ああ、ボクは頑張っているよ、イーリン」
 そう、小さくつぶやいた。子供達が押してくれる車椅子の感覚が、少しだけ心地よく、自分はここに居て生きてくのだ、と、そう優しく教えてくれるかのようだった。

  • 語られるもの完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別SS
  • 納品日2026年07月03日
  • ・イーリン・ジョーンズ(p3p000854
    ・シャルロッテ=チェシャ(p3p006490

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