PandoraPartyProject

SS詳細

貴女を想い続けるから

登場人物一覧

結月 沙耶(p3p009126)
怪盗乱麻
トール=アシェンプテルの関係者
→ イラスト
トール=アシェンプテル(p3p010816)
つれないシンデレラ


 混沌としたこの世界に訪れた滅びの運命は無事に過ぎ去った。世界はやがて少しずつ穏やかな日常へと戻っていくことだろう。
 そんな中でトール=アシェンプテルと結月 沙耶が真っ先にやってきたのは練達に存在するとある研究室だった。
「あれほどの死闘だったのだから当然だが、随分と派手に壊れたな」
 椅子に座ったまま、表示されるデータを眺め見たルーナ=フローラルナがそう呟く。
 AURORA、トールと沙耶の扱う異世界の兵装たる其れは混沌のこれからを決める戦いで激しく損傷をきたした。
 それの修理が出来るのはそれらを弄り調整した本人――即ちルーナぐらいしかいない。
「……おや」
 仮想キーボードを叩きながら表示される情報を眺めているルーナが不意にそう呟き、手を止める。じ、と静かに記される文言を見つめた少女は「ほぅ」と驚嘆の吐息を漏らす。
 それっきりルーナは2人の存在を忘れたようにじっと眺め、小さく独り言を呟きながら整理をし始めたか。
「ルーナ様?」
 トールは少しばかりそれを眺めてからちょうど良さそうなタイミングを見計らってそう声を掛けようか。顔を上げたルーナは「あぁ、すまない」と短く呟いて座っていた椅子に深く座り直す。
「修復は完了した。どうやらその時に一緒にAURORAにある秘匿情報システムーー簡単に言えばブラックボックスの一部が解放されてるようだ」
「ブラックボックスが、かい?」
 沙耶が驚きながらに言うとルーナはこくりと頷いて2人に視線を投げかけた。
「どうやら――」
 そう口火を切ってから、ルーナはAURORAが何たるかを説明し始めた。
「……さて」
 暫く説明を続けたルーナはちらりと時計を見やってからそう呟くとトールに視線を向けてくる。
「トール、沙耶に話がある。少し外に出ていろ。子供達もそろそろ来る頃だ、適当に相手をしておいてくれ」
 腕と足を組みそう続けたルーナの仕草はトールへと有無を言わせない為のそれであるに違いない。「わかりました」と応じるしかないまま、トールが踵を返して部屋の外へ向かっていく。
 その背中を追っていた沙耶は「沙耶」と短く己の名を呼んだルーナに視線を戻す。頬杖をつきながらこちらを見ていたルーナの威厳ある視線に沙耶の意識は少しばかりひり付いただろうか。
「これから先、どうするつもりだ?」
 そう言って、ルーナは沙耶の方へ微かに身を乗り出すようにして近づき言う。
「――それは」
 もちろん、これからもローレットと呼ばれる組織に依頼自体は舞い込んでくるだろう。それでも世界は救われ、平和となった。これから先は誰しもが考える道だった。
「いや、此処でそれを聞くつもりは特にない。AURORAをキミに預けた時の事を覚えているだろう?」
「トールを想い続ける覚悟があるのなら、これを託すって」
「あぁ、そうだ。その上で、これからのことだ。キミが望むのならばこのままAURORAをキミに預けよう。
 私も鬼ではない。キミの心情はわかっているつもりだ。初恋の男を一生思い続けろとは、随分な話だろう」
 静かにそう続けたルーナに沙耶は視線を合わせ、ちらりと一瞬だけ背後を――トールの消えた扉を見た。
「たしかに恋愛では負けたかもだけど、別にトールを諦めたわけじゃない……怪盗は執念深いですから」
 真っすぐに自分よりもずっと幼いはずの人を見つめてそう沙耶は言葉を作ろう。
「……勿論言いたいことも分かります。何れトールを超えるような新しい可能性が出る確率は零ではない。
 でもその時は、AURORAも力をなくすか変な方向に捻じ曲がるでしょうけど、その時にはもうAURORAなんていらなくなってるはずですから」
「……それで」
「だから……それまでは、ずっと、彼を想い続けます……なんなら可能性が生まれず墓に行くまでも。
 私はトールを過去としても現在いまとしても、想い続けますから。彼女が弱気になったら怪盗らしく奪ってもいいかもですしね」
「……そうか、それではこのままそれと共に進むと言うのだな?」
「もちろん。本心ですよ――それはルーナとの約束だろう」
 此方を見つめるルーナの疑念を含む視線に沙耶は真っすぐにそう言葉を重ね続けよう。じっと交じり合った2人の視線、少しすればルーナが小さく「ふ」と笑って深く椅子へと座り直す。
「――分かった、お前がそういうのならば」
 ちらりと視線を仮想モニターに戻してからキーボードを叩く彼女に「ありがとうございます」と短く沙耶は礼を紡いだ。


「……平和な時代が来るんですね」
 研究所を後にしたトールは練達の街並みを眺めながらそう呟いた。
「あぁ、そうだな」
 短くこくりと頷いてから沙耶はちら、と隣を見た。世界の滅亡に抗う戦いはついに終わりを迎えた。此処から先に仕事があるとするならばそれはきっと、よくよくと有り触れた者となるだろう。
「沙耶さんはこれからどうするんです?」
 そう言われて沙耶は顔を上げトールを見た。
「私か、私はイレギュラーズとしての仕事がある限りはそれを続けるだろうな。もちろん、怪盗としての活動もまだやめるつもりなんてない……それから」
 小さく笑ってから沙耶は少しだけ視線を別の方へと向けた。
 練達と呼ばれる小さなこの都市国家。此の外に広がる大きな世界では沙耶と同じような――あるいはそれよりもずっと辛い境遇で生きる子供達がまだまだいる。
 それは世界の滅亡とは何ら関係のない、この世界がこれから変えていかねばならない事であるのだろう。
「私みたいな辛い境遇の子達の為に、孤児院とか開きたい。少しでも多くの子供を救い上げられたらと思うんだ」
 そこまで言った沙耶は目を伏せてこれまでの事を思い起こす。
「ずっと凄惨な目にあってきたから師匠しか信じられるような男はいなかったけど……トールに出会って自分の中でかつて固く覆った心がまた蕩けてきてるのを感じるんだ。
 少女っぽさを感じると言われることも増えてきたし、どうせならそっちでいなよと求められることも多くなった」
 瞼を上げれば、隣で立ち止まってくれた彼の姿が合った。
「トールのおかげだ、ありがとう」
 だからこそ、沙耶はそうして、彼と真っすぐに目を合わせ告げよう。そうすれば、自然と口元に笑みが零れだした。
 それを受け止めてくれたトールが柔らかく微笑む。
「怪盗の時の凛々しい沙耶さんも好きだけど、やっぱり今の本当の沙耶さんのほうが可愛くてもっと好きです」
 そう言われて嬉しいようで、でも少しだけちくりと胸に刺さるような感覚がした。
 その好きですは、沙耶がほしい好きとは違うものであると分かっているから。
「……それに、お礼を言うなら僕もです。僕も沙耶さんと出会えてよかった。
 初めて一緒に出かけて、一緒に飲んだメロンソーダの味は今でも忘れていません」
 沙耶の事を見つけるトールは懐かしむように目を細めてそう続けた。
「今となっては初めて女装がバレた相手が沙耶さんで良かったと思っています。
 本当の僕を受け入れて嬉しかったし、それからはすごく気楽で、一緒にいてくれた時はとても安心できたから」
 そうして、少しだけ顔を上げたトールはまた笑顔の質を変えた。
「そう言えば、その髪飾り、今も着けてくれているんですね。
 懐かしいな……まだ僕が女の子のフリをしていた時に贈った物だ」
 そう言われてから、はっとしたように沙耶はオーロラの髪飾りに触れた。純白の宝石が埋め込まれたオーロラ色に髪飾りには親交を深めようとした彼から贈られたものだ。
「……うん」
 コクリと頷いた沙耶に対して、何か思いついたようにトールが手を取った。
「トール? 何処に行くんだ?」
「そういえばちゃんとお礼をしてなかったと思って。
 今度はちゃんと男として、大切な友達の沙耶さんに贈り物をしたいなと」
「友達として、ね……」
 ちらりと沙耶の方を振り返ってトールがそう言った。それに沙耶は少しだけ目を瞠って。
 歩を進めて辿り着いたのは、宝飾品店だった。そっと手を離したトールにエスコートされて沙耶は一歩を踏み込んだ。少しだけ暖房の効いた店内から「いらっしゃいませ」と声が掛かる。
「ふふ、ありがと」
 選んでもらったのはブレスレット――そっと着けてもらったそれを見下ろして沙耶がそう呟き笑う。未だ想い続ける相手から贈られた、友情の証。
 チクリと痛む心はなるべく隠して、けれど嘘ではない感謝の気持ちを彼へと向けた。
「お揃いですね」
 そう言ってトールが自分の手を見せてくれる。
 そこに付けられた若草色の宝石が埋め込まれたオーロラ色に輝くブレスレットは沙耶の方からトールに贈ったお返しのブレスレットだ。
 友達として、沙耶との縁を忘れないでほしいと、そう想いを籠めたブレスレット。
 小さく、笑みが零れ落ちる。
「そうだね、お揃いで――何より、どんな宝より、綺麗だ」
 見せてくれる彼に向けてそう言って沙耶はそっとブレスレットに触れた。
 これから先、世界は変わっていく――きっと、色々と変わっていく。その果てに何があるのかは、まだ分からないけれど。
「トール」
「はい、なんでしょう」
「いや……プレゼントありがとう」
 そう彼の名前を呼んで、けれど何を言おうとしたのか分からずのまま、沙耶はそうもう一度お礼を言った。
「……そういえば、そっちはこれからどうするんだ?
 私の事は言ったが、トールがどうするのかは聞いていないぞ」
「僕ですか? 僕もイレギュラーズとしての仕事があるのなら続けようと思います。
 結婚をしたら生活環境は変わると思いますが、その後のことは結婚してから改めて考えようと思います」
「……ならまたいつかイレギュラーズとして同じ仕事をすることになるかもね。その時はよろしく」
「はい、こちらこそ」
 そう沙耶が言えば、トールはコクリと頷いた。
 店を出ればまだ陽射しは高く――未来を祝福するように輝いていた。


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