PandoraPartyProject

SS詳細

変わらぬ日々

登場人物一覧

テアドール(p3n000243)
揺り籠の妖精
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ


 揺れる蝋燭の明かりが銀色の瞳に反射する。
 金の装飾に彩られたテアドールとニルはお互いの手を握り寄り添った。
 古代文明の『秘宝』と呼ばれる二人は、幾人もの人の手に渡り、ついに『暗黒卿』オルキット・ブライトレスの手に渡ったのだ。
「ああ、この時を待っていました……」
 オニキスの瞳でニルたちを見つめるオルキットは恍惚とした表情を浮かべる。
「こちらは透き通る湖のような美しい髪と冴え渡る月の光を写した瞳。こちらは儚い金細工のような柔らかな髪と陽光を受けた若葉の緑を抱く瞳。どちらも魅力的で美しく、私のコレクションに相応しい……」
 薄いヴェールを指先で撫でたオルキットはニルとテアドールを舐めるように見つめた。
「そんなに不安そうな顔をしなくても良いのです。私は貴方たちに危害を加えようなんて思っていません。これまでの持ち主は貴方たちを愛玩道具にしていたかもしれませんが私は違う。貴方たちの価値を知っているのは私だけ。
 だから、そうですね。貴方たちが愛し合うところを見ているだけでいいんですよ。
 ねえ、分かるでしょう?」
 ヴェールの縁をなぞられ、テアドールはニルを庇うように抱きしめる。
「ニルは傷つけさせませんよ」
「子猫がいくらにゃぁと言った所で可愛い鳴き声にしか聞こえないんですよ」
 オルキットがテアドールのヴェールを剥ぎ取り、その白い肌に――

「はっ! 夢、ですか……」
 珍しく覚醒状態が高かったのか、テアドールはバッと目を見開いた。
「ん? どうしました? ベスビアナイト?」
 明け方の薄明がカーテンの隙間から入り込む時間。テアドールが起きた気配に、ニルも目を開ける。本来睡眠を必要としないニルは、テアドールの覚醒と連動して起きるようにしていたのだ。
「何だか不思議な夢を見ました。僕とニルがラサ辺りの民族衣装を着せられて、オルキットに愛でられていました」
「……それは、かのうせいが、絶対ないと、いいきれない、ですね」
 オルキットの執着は嫌というほど見てきたから。
「でも、今頃どうしている、でしょうか」
「そうですね……でも、会い行くのは、また別の機会にしましょう」
 夢の中のニルは装飾に彩られ美しく可憐であったが、オルキットに会えばそれに引き摺られ警戒をしてしまうかもしれない。
「それよりも今は、このニルのもふもふきぐるみパジャマを堪能します」
「えへへ……」
 ベッドの中でニルに抱きついたテアドールはふわふわのパジャマに顔を埋めた。

 ――――
 ――

 ふわふわのパジャマから着替えたニルは、研究所のシリーズから借りたマンガをぱらぱらと捲る。
 その中で恋人同士の二人が棒状のチョコ菓子を両端に咥えているのが見えた。
 どういう状況でそうなったのかは分からないけれど、お互いが何だか恥ずかしそうにしているから、これは人間にとっては恥ずかしいことで、それでも恋人同士でするものなのだとニルは受け止める。
 それはそれとして。
「きょうのあさごはんは、なんですか!」
「ふふ、今日は和食に挑戦してみました。普段はコーヒーとパンが多いですが、たまにはニルにも和食を食べてみてほしくて……練習をしました」
「れんしゅう、してくれたですか……うれしいです」
 自分の為に頑張ってくれたテアドールの心遣いが純粋に嬉しい。
 テーブルの上に並べられたのは焼き鮭と味噌汁と卵焼きと味海苔とお漬物とご飯だ。
「納豆というものもあるのですが……すこし粘り気と匂いがあるので、ニルが和食を気に入ってくれたら挑戦してみましょう」
「はい! これも楽しみです!」
 箸の使いかたに苦戦しながらも二人は上手に朝の定食を平らげる。

 ソファで先程のマンガの続きを読んでいたニルの隣にテアドールが並んだ。
 パタンと本を閉じたニルがテアドールに向き合いじっと視線を合わせる。
「ベスビアナイト、ニルとしょうぶをしましょう!」
「はい。どんな勝負でしょうか」
「なんと、ここに……チョコがあります。ながくてほそいのを、かってきました」
 赤いパッケージのチョコ菓子をテーブルの上に置くニル。
「このはしとはしを口にいれてしょうぶをするのです」
「なるほど」
 ニルは自分の口に棒チョコを咥え、テアドールの前へずいっと寄った。
 テアドールは向けられた棒チョコの先端を唇で押さえる。
 ニルの銀色の瞳が近くにあって、可愛いという感情が溢れ出てきた。
 膝が触れ合い何だかそわそわしてくる。
(……ここから先、どうしたらいいのでしょう……?)
 ニルは何だか頬に熱が上がってくるのを感じた。
 テアドールが近くに居て、その上棒チョコを咥えてじっとしているのは、どういう勝負なのだろうか。
 けれど、楽しい気もする。
 こうしてずっと楽しいが続けばいいなと思った瞬間、真ん中あたりでぽきりとチョコが割れてしまった。
「ふふ……」とお互い笑い合って勝負は引き分けとなったのだ。



 ――――
 ――

「ベスビアナイト、みてください! 空がちかい、かんじします!」
 遺跡の上に飛び乗ったニルは大きく手を広げた。
 ここは空飛ぶアーカーシュの精霊都市レビカナンだ。
 中枢区画は古代文明の叡智を集結させた作りになっているが、この上空庭園は朽ちて行くままの場所も多い。
「何だかダンジョンみたいで楽しいですね」
 普段は整備された練達の塔の中に居るから、こうして他国の『本物の空』の元で冒険するのはテアドールにとって新鮮であった。
「このあたりは、いせきのまま、ですね」
「そうなのよ! そっちの方が風情があっていいでしょ!」
 草木の影から飛び出してきたのはレビカナンを管理する精霊マイヤ・セニアだった。
「綺麗にするのもいいんだけど、年月を経て良い感じになったレビカナンも素敵よねってことでこの辺りは保全されているのよ……ちょっとした自然も味わえて憩いの場って感じね……というわけで、ようこそレビカナンへ! 歓迎するわ!」
 元気の良いマイヤの声が庭園に響く。
「じゃ、私はお仕事に戻るから、楽しんでいってね!」
 バイバイと手を降って飛んでいったマイヤはまるで嵐のようだった。
「ふふ、にぎやかでした」
「そうですね……ニル、もしかしてお腹が空いていますか?」
 先程からニルのお腹がくうくうと鳴っている。
「はわ……バレちゃいました」
 頬を染めて恥じらうニルに「可愛い」という感情がテアドールの中に溢れた。
 近頃は以前にも増してニルを愛おしく可愛いと思う瞬間が増えている。
 このまま増えていけばどうなってしまうのか。想像もできない。
「この辺りでお弁当にしましょうか」
「はい!」
 広げたお弁当はおにぎりとウィンナーと卵と、サンドイッチにフルーツと彩り豊かである。
 ニルは卵焼きをフォークでさしてテアドールの口元へ差し出す。
「はい、ベスビアナイト……あーん」
「あーん」
 目を瞑ったテアドールの口にニルは卵焼きを入れた。
 こくこくと頷いたテアドールは美味しそうに卵焼きを咀嚼する。
「じゃあニルにも……」
 サンドイッチを一切れ掴んだテアドールはニルの口へと運んだ。
「ふぐ……」
「わっ、少し大きかったですね」
 一口で入りきらないサンドイッチを咥えニルは頬を膨らませる。
 ぷっくりとした頬も可愛くて。テアドールはニルの頬を愛おしそうに撫でたのだ。



 ――――
 ――

 パライバトルマリンの波が寄せては引いていくシレンツィオの夏。
 ゆらゆらと波に揺蕩うテアドールとニルは燦々と輝く陽光に照らされていた。
 滑らかな肌に海水がさらさらと流れていく。
「ニルの水着……今年も可愛いですね」
「はい。ベスビアナイトとおそろいです」
 セーラーデザインの水着は、襟の部分と胴の部分で、反転した色になっている。
 ぷるりとした頬をつんつんと指先でつつけばニルが恥ずかしそうに笑った。
 眩しい陽光の下で見るニルの姿もこの上なく可愛い。
 頭の上にちょこんと乗っている帽子もニルの可愛さを引き立てている。
「ベスビアナイト?」
「はい。ニルは可愛いです」
「え!?」
 唐突に告げられる言葉にニルは驚いた。
「もう少し深い所へ行ってみますか?」
「えと……ベスビアナイトがいっしょなら、いいです」
「勿論ずっと離しません」
 ニルをお姫様だっこしながら、テアドールは水深の深い所へ泳ぎ出す。
 すると、白いイルカが二人の前に現れた。
「わっ、イルカさん?」
「ふふ……遊んで欲しいんですかね?」
 よく見れば、普通のイルカではない。ヒレが大きく進化しているようだ。
 キュイキュイと二人に頭を擦りつける羽イルカの背に乗る。
「じゃあ、海の中を散歩してみましょうか」
「はい!」
 イルカの背に乗って二人は海の中へと潜り込んだ。
 ぶくぶくと泡の音が聞こえ、二人の周りに空気のヴェールが現れる。
 海底に反射した光と水面に揺れる陽光が神秘的で、二人は「わぁ」と声を上げた。
 ひょろりと長いキンイロの魚が二人の横を泳いでいる。その背にはオレンジ色のまあるい何かが乗っていた。
「ふふ」
 不思議な海の生き物たちは、二人を歓迎するように周りを泳ぐ。
 魚の群れはキラキラと太陽を反射し、海底のたこはにょろりと動いていた。
 ニルは隣のテアドールの手を握りにっこりと笑う。
「ぷはぁ!」
 しばらく海の中を堪能した二人は水面に顔を上げた。
 水面がキラキラとしていて、隣のテアドールも煌めいているきがして。
 ニルは心の奥から楽しさが溢れ出す。
 同時に「くうぅぅ」とお腹が鳴り出した。
「上がったら何を食べましょうか」
「せっかくのシレンツィオ、だから……はまやきたべたいです!」
「浜焼き。いいですね。海で食べる海鮮はとても美味しいとききます」
 早速試してみなければとテアドールはニルを抱き寄せ浜辺へと戻ったのだ。


 ――――
 ――

 沢山の想い出を紡いできた。
 幻想国の貴族の屋敷に泊まったり、鉄帝国の蒸気機関に乗ってみたり、ラサのマーケットで魔法のランプを買わされそうになったり、天義の大聖堂の大きさに驚いたり、覇竜領域のフェザークレスに会いに行ったり、海洋では海賊船に乗り、豊穣では着物を着て遊んだ。混沌を全部回って遊び尽くした。
 楽しかった。ずっと、ずっと続けばいいと思っていた。
 けれど、旅の終わりは必ずやってくる。

 少しでも長くテアドールとの時間を過ごしたくて、最後の帰り道は幻想国からの船にしてもらったのだ。
 潮風がニルの青い髪を浚う。
「えへへ……おみやげいっぱい買っちゃいました」
「そうですね。荷物は先に送ってたのに。お土産だけでいっぱいになってしまいましたね」
 キャリーケースいっぱいに詰まったお土産はシリーズにあげるものだ。
「あ、シジュウにもおみやげあります」
「ああ、そうですね。久しぶりに煌浄殿に行って明煌さんの腕のメンテナンスもしなければいけませんね……今煌浄殿に居るんでしょうか」
「燈堂家のほうですかね」
 役目から解放された暁月の傍にずっとくっついていると廻から聞いている。

 希望ヶ浜に降り立てば、一面雪に覆われていた。
 こんな冬の日はあたたかいものが飲みたくなる。
「あ、もみじ堂に寄っていきませんか?」
「おしるこ、ですね」
 テアドールとニルの行きつけの和菓子屋は、冬になるとおしるこを販売しているのだ。
 雪解けの水たまりに青空と遠くのビルが映り込む。
 二人分のおしるこを手にしたテアドールがふわりと笑った。
 キャリーケースの上に乗ったニルはおしるこを受け取り、「いただきます」と早速ひとくちぱくりと口に入れる。
「はふ、はふ」
「熱いですから、ふうふうしてください」
 言いながらテアドールは息で冷ましてからニルの口に餅を入れてくれた。

「ねえ、ベスビアナイト。『おいしい』ですね」
「はい。とっても美味しいです。ニルと一緒だから、本当にすごく美味しいです」
「もっといっぱい、おいしいをわけあいましょう、ね」
「勿論。これからも、ずっと……一緒ですよ」
 
 染み渡るのは温かさと優しさと。
 旅の終わりの寂しさと。
 とびっきりの甘さ。

「愛してますよニル」
「はい。ニルもベスビアナイトを愛してます」

 甘くておいしいをいっぱい紡いで。
 ニルとテアドールは、また歩き出した。
 晴れ渡る青い空を見上げ、二人手を繋いで――




PAGETOPPAGEBOTTOM