PandoraPartyProject

SS詳細

神様だって、ここにいる

登場人物一覧

建葉・晴明(p3n000180)
中務卿
建葉・メイメイ(p3p004460)
繋いだ意志

 あの人は、何時だって臆病だった。
 獄人と呼ばれて、迫害を受け、父親をも殺された。世を恨んだって仕方がないその人はそれでも食いしばって生きてきたのだろう。
 様変わりしていく混沌世界で、それでもと我武者羅に生きた彼の事がメイメイは愛おしかった。
 手を離せば直ぐにでも崩れてしまいそうなその人をメイメイはぎゅっと抱きしめてやりたかった。
 愛しているなどと言う言葉が出ない程に、彼の人生は捨てたようなものだったのかもしれない。
 ――おのれは、恵まれた生ではなかった。
 青年は、望まれずにその場に立った。何時の日か、自らの脚を引っ張る者はその命を奪うのではないかとさえそう考えていただろう。
 故に、彼とその心を酌み交わすことはきっと難しかった筈だ。
 それでも。
「メイメイ」
 ――この人が、自分を選んでくれたのだから。
 そばを歩いていきたい。愛していると囁いて抱きしめてあげたかった。
 それがメイメイ・ルーが選んだ青年の生き方だった。
 強いふりをして臆病で。冷たいふりをしていて優しくて。何時だって、悲しみに寄り添いながらも真っ直ぐに前を向く自己犠牲の人。
 その悲しみも、苦しみも抱きしめてあげよう。臆病で、優しい癖に手を伸ばせないならばその手を引っ張ってあげればいい。
 それが、季節を渡り歩きながら過ごす遊牧民の生き方でと呼ばれたただ一人の可能性が出来る唯一の事だった。

「ふふ」
 メイメイは楽し気に笑みを浮かべてから慣れない洋装に身を包んだ青年を眺める。
 困惑した様子の晴明の背後では少しばかり笑みを含んだままのそそぎが立っていた。
「覚悟すれば?」
「覚悟なんて言葉、似合わないだろう」
「晴明は臆病だから覚悟した方が良いと思うけど。これから、皆に盛大に突かれる」
 そう笑ったそそぎを晴明はやや困惑した調子で見つめた。練達は希望ヶ浜に留学をしている少女は幻想王国でメイメイと晴明が行う事にした結婚式に顔を出していた。
 この後、豊穣で行う祝言の席にも向かう予定ではあるがガーデンウェディングを企画していると告げたメイメイに「私、そっちも行きたい!」とそう告げたのだ。
「そそぎ」
「何?」
「ドレス、良く似合っている。豊穣ではまた別の物を仕立てよう。今度はつづりと揃いの物を」
「~~~~……あったりまえでしょう! 似合うの! だって! 練達の子になったもの!」
 褒められたことが少し気恥ずかしかったのだろう。メイメイはくすりと笑う。晴明は自らの妹の様に双子の巫女を可愛がっていた。
 双子巫女のかたわれであったつづりは今も豊穣でその責務を担っているが、そそぎは練達と言う遠き国に出てからは故郷の者との関りも久しくなってしまった。
 晴明はそんなそそぎがさみしくない様にと賀澄達とも話し合い、彼女に幻想王国で行う式用のドレスを用意しておいたのだ。
「でも、良くお似合いです。そそぎさま」
「メイメイはまだ着替えないの? ドレス、見たい」
「はい。もう少ししたら。けれど、晴さまが、あんまり慣れていらっしゃらない、様子だったから」
 ちらと見遣ったメイメイに晴明が少しばかり気恥ずかしそうな顔をして「本当に慣れやしない」と呻いた。
「洋装慣れをしてきたと思ったのだが、この服はそれとも少し違うのだな。メイメイのドレスもそうなのだろう。
 重量がそれなりにあるとも聞いた。ある国もコツがあるとも。幻想王国の者は凄いのだと改めて思い知らされた」
「幻想、ですか?」
「ああ。謁見した海洋の女王などは、ドレスでも海種としての利便性に合わせられており然程に可動域を制御されていない印象であった。
 天義なども、聖職者の外套を思わせ、ドレスなどではなかっただろう。ラサなどは動きやすく、鉄帝国は戦装束だ。
 ああ……深緑も聖職者の外套であったのか。覇竜領域などは冒険装束であったから、幻想貴族の文明であると……ああ、すまない……」
「いえ、晴さまは、混沌世界を、しっかり見て、回ってくださったのですね」
「ああ。特に幻想は。メイメイの国だ」
 晴明はそう頷いた。そそぎは扉を叩く音に気が付いて「メイメイ、着替えの時間」と呼び掛ける。
 慌ただしく出ていくメイメイを見送った晴明と、その横顔をじっと見つめていたそそぎがしばしの間無言を貫いた。
「…………晴明」
「何だ、そそぎ」
「胃が痛いの? 緊張した顔してる。緊張、するとおもう。だって、私もしてる。って、こういうもの?」
 晴明はじっと彼女を見た。きっと晴明の抱えている不安を払う様に彼女はそう言ったのだろう。この少女はつんけんとしているが、認めた人間には甘い。
 豊穣の民に対して、怒りを覚え、つづりこそを唯一と思っていた時とは違い、賀澄や晴明に家族とも呼べる親愛の感情を抱いてくれているのか。
 そんな彼女が自らを兄と呼んだのは珍しい。それに、メイメイを大切な家族の一員と呼ぼうとしている事だって。
「そそぎが来てくれていて良かった」
「……神威神楽に帰ったら、みんなに言いふらしてあげる」
「それは、手酷いな」
 年齢の差もあった。種族の差も。生き方にだって違いがあった。
 故に、彼女と言う人間を自分に縛り付けるのは恐ろしかったのだ。指先に触れる事も、その頬に触れる事だって躊躇う事があった。
 戸惑いが大きくなるのは自らの中に恋情が芽生えている証拠だと知りながらも晴明は知らぬふりをしていたのだ。
 それを知ってしまえば彼女と言う存在を自分に結び付けてしまって、誓いの言葉をも口にしてしまうのかもしれないと。恐ろしかった。
「晴さま」
 呼ぶ、その声に晴明は「メイメイ」と彼女の名前を呼んだ。
 麗しき花嫁は少しばかりの照れくささをにじませながら笑っている。
「似合います、か」
「……ああ、とっても。この世に咲き綻んだ春の花の何れよりも、きっと貴女が一番に綺麗であろう」
「ふふ」
 メイメイは唇にうっとりとした笑みを浮かべた。共に、手を結び招待客たちの前へと歩いていく。
 咲き誇らんだ花々の中をゆっくりと歩く羊の娘は、初めてローレットへと向かった道を歩いた頃とは随分と背格好も違う。
 いたいけなままではいられぬと、前を向き歩き出した彼女へと差した光は眩くて、少女の行く先をしっかりと照らしてくれていた事だろう。
 花々の中を行くメイメイはそっと傍らの青年を見た。射干玉の髪、黒曜の角を有する凛とした青年。
 視線を向けたならば、緊張したような視線がそうと下ろされた。

 ――ねえ、知っていますか。わたしは、貴方の事をこれほどまでに、愛していたことを。

 たくさんの人々の前で、このひとと結ばれますと表すのはメイメイにとっての少しだけので意思表示だった。
 美しいドレスに身を包みたかったわけでもない。ただ、このどこまでだって真面目で頭の固いこの人が人を愛し、幸せに生きていくことを世界中に教えたかった。
 苦しい事も、哀しい事も、何もかもを抱きしめてあげたかったから。
 不器用な、あなた。何時までだって前を向いて笑ってくれる大切な――
「メイメイ」
「はい。晴さま」
 誓いの口づけは、まだぎこちないものだった。それでも、あなたがくれるひとつずつの全てが。
 メイメイにとっては幸せだったのだから。


「わたしもいきたかった」
 拗ねた様子で黄泉津瑞神がそう言った。
「いきたかった、いきたかった。晴明、どうしてんでくれなかったのですか。
 あなたを遣えばわたしだっていけたでしょう。いきたかった。お花が嫌いだったのでしょう。ドレスを着たのですよね。わたしも、わたしも見たかった」
「瑞さま、神威神楽でも、お式は行います、し」
「でも、お色直しではありませんか。それでは」
 少し拗ねた様子でそう言った瑞神にメイメイはくすくすと笑った。式の日取りを決定し、双子巫女の揃いのドレスのオーダーも終わっている。
 洒落者の黄龍が自身と瑞神用のドレスなどを用意したと知った頃からそれならば幻想にも行きたかったと瑞神と賀澄が暴れ始めたのだ。
「賀澄殿。自覚を持ってくだされ。貴方はこの神威神楽の天子。おいそれとは国を空ける事はできますまい。
 他国の式典に呼ばれてのことであらば致し方ないが、神威神楽にても祝言を上げる事が分かっていて幻想にまで来ることは認められないだろう」
「いや、よく聞け晴明。こういうのは気持ちの問題だろう。俺はいきたかった。それは瑞も同じだ。
 混沌世界を救ったんだから多少は、そういうの赦してくれても構わないだろう。いや、赦してほしかった。
 俺も洋装を着て、共にガーデンウエディングを楽しみたかった……ッッ!」
「こちらでも祝言をあげるのに?」
「場所が違う……! 晴明は兄に泣く機会を二度与えてくれないのか」
「兄ではないが……」
「父か!?」
「父、でもないが――……」
 晴明は困惑していた。おいおいと泣いている賀澄は自らの子や弟の様に育んだ中務卿の婚姻が本当にうれしくて仕方がないのだ。
 彼がこれから幸せになろうとしている。その傍には賀澄もよく知る羊の子が居てくれる。それはどれ程に喜ばしいか。
 必ずは晴れの日を与えようと告げる瑞神に「エスコートせよ」と賀澄にねだり続けている黄龍。楽し気に準備を整える四神たちと、神威神楽は中務卿の婚儀に向けて大騒ぎだ。
 此処までの騒ぎになるとは思わなかった。これではまつりごとが滞ってしまうではないかと頭を抱える晴明の様子だっていつもの事だっただろう。
 メイメイはそんな日常がなによりも愛おしくて仕方がないのだ。
「晴明。幸せになれよ。ところで、俺は父の役割をしても構わないのか? メイメイの両親とてこの豊穣は遠いだろう?」
「はい。両親は、幻想での式に……」
「ならば、豊穣でのメイメイの父は俺ではないか? 俺しかいないだろう」
「吾でもいいが」
「黄龍ではなくて俺だろう」
「吾は男の姿にもなれようが」
「俺でいいんだ、黄龍……! 後で、お前にも美しいドレスを着せてやろう。祝言ごっこをしていい。だからメイメイの父の座を譲ってくれ……!」
「賀澄、どうかしたのですか……」
 黄龍を押しのけて行こうとする賀澄を瑞神が困惑したように見つめている。共にドレスの採寸を終えたつづりとそそぎはその奇妙な光景をじっと眺めていた。
 なにこれと言いたげなそそぎにつづりは最近はいつもの事だと視線だけで合図をする。
「え?」
「……最近はずっと、こうで……。賀澄は泣いてばかりで……」
「賀澄どうして……」
「二人が結婚する時も俺は泣くだろう」
「ええ……」
「泣かないで……」
 双子は愛が強い今上帝のその発言に困惑を隠せなかった。彼は異世界よりやってきて、この豊穣に辿り着いてしまった。
 幸運であったのは四神の全てが彼を愛した事。不運であったのはそれこそが帝となりうる証であったことだ。
 今や、その立場で長らく存在している賀澄ではあるが孤独な身の上であった事には違いはなかっただろう。
 そんな孤独な人が、漸く大切な家族を得た。それでも、大切に大切にし続けている彼の心を蹴破ったのは特異運命座標たちがこの国へと介入した時だった。
 踏み込む事の出来ないままだった男が、自らを曝け出し他者を愛する機会を得た。それはなんと素晴らしい事であっただろうか。
 他者を我が子の様に愛する事の出来る深い愛情を持った男にとって、この祝言の席はどれ程に大切なものかをメイメイも、そして晴明だって分かっていた。
 ――が。
「メイメイの父にはならないでもよいのでは」
「どうしてだ、晴明。やはりこうした席には父が必要だろう」
「めぇ……」
「いや、必要はないでしょう。賀澄殿」
「いや、必要だ。晴明。父の涙というのは花嫁をより美しくする――」
「ああ! そういうことでしょう? 晴明。賀澄はあなたの父親でよいではないですか!」
「瑞神」
「メイメイの父では無くて、あなたの父となってもらいましょう! 寂しそうな顔をしないで、愛らしい晴明。
 幼い頃からそう言う所は変わっておりませんね。いつだって、自分の言いたいことを言い出せないでやきもきするのですもの」
「瑞神」
「かまいません。わたしはよくしっていますし、メイメイだって納得してくれましょう。
 それに、メイメイの家族が必要だというならば、わたしでかまいません。この黄泉津の守護神なる瑞神。
 瑞兆をこの国に与え、国産みの祖なりえる神の再来として、異国よりやってきた花嫁を祝福しましょう」
「……瑞神」
「有難いと思うでしょう? わたしは、神ですよ」
「瑞神……! ちがう、その、メイメイの家族は俺で良いでは――」
「まあ。ひとりじめなんてさせません」
 拗ねたようにそう言った瑞神に晴明がむっとした。ああ、本当にに他の誰かが納まる事を余り是としていないのだとメイメイは感じてならない。
 祝言より前にこれでは、ここから先どうなってしまうのか。
 そう思いながらもメイメイは「わたしも、みなさまには、晴さまの家族として見守って欲しいです」とそう囁いた。

「……すまない。我が国者たちが」
「いいえ。晴さまは、愛されていらっしゃいます、ね」
 建葉の屋敷はしんと静まり返っていた。神霊たちも祝言の準備があると賀澄と共に御所に籠りきりだ。
 双子巫女も自身らの家に帰り再会を喜んでおり、数少ない使用人も祝言に招くが為に今日は準備をしに帰って構わぬと晴明が休暇を与えてやった。
 身の回りの事はある程度自分で出来るという晴明がそそくさと夕餉の準備を続けている様子をメイメイは見つめていた。
 手伝いたいとは申し出たがメイメイはお客様にあたるのだと彼が固辞したことでこのような現状になっている。
「あ、の……やっぱりなにか、お手伝いを……」
「いや。メイメイ。座っていてくれ。俺も浮かれているんだ。
 賀澄殿があれだけ喜んでくれたのだ。……明日が楽しみで、仕方がない。俺にとって、あの人は天であり唯一だ。
 されど、そんな人が自らの傍で泣いてくれる。幸福だと言ってくれる。それが、俺と貴女のことだというのが何よりも嬉しい」
「……はい」
「貴女がこの国に受け入れられ、愛されている事だって嬉しかった」
 晴明はそう言いながら手際よく夕餉を作っている。メイメイは彼が落ち着かないから炊事をさせてくれと言っている事に気が付いて、ついつい可笑しくなって笑ってしまった。
「晴さま。わたしも、たのしみです」
「ああ、とても」
「……夫婦、になりますね」
「ああ」
 メイメイ・ルーではなく建葉・メイメイに。その名を改めれば彼の傍で生きている証のように感じられて仕方がなかった。
 この国で生きていくという証のようで、メイメイは幸せで仕方がない。ふと、彼を見れば晴明は「苦労を掛けるかもしれないが」とそう告げる。
「苦労、ですか?」
「……ああ、俺はこの通りだから」
「ふふ、存じています」
 くすりと笑ったメイメイに晴明はふにゃりと笑った。
 ――きっと、触れるのも躊躇う様なゆっくりとした時間だ。それでも、これまで長らくそばにいたのだから、緩やかに緩やかに、変わって行けると信じている。
 夕餉の用意を終え、のんびりと語らう二人の時間はゆったりとしたものだ。ふと、晴明はメイメイの頬に触れてから「明日が楽しみだ」とそう言った。
「はい」
「……貴女にとって、この国の全てが幸せにあふれるものであればよいのだが……」
「この国は、もう、わたしの宝物になりました。だから、大丈夫、ですよ。晴さま。
 ……なにも、こわいことなんて、ありません。わたしは、この国が、大切で、だいすき、です」
 涼やかな眼差しでそう告げるメイメイに晴明はくすりと笑って「ああ、そうだな」とそう告げた。
 ゆっくりと唇を重ねる。ぎこちのない口づけの後、メイメイは少しだけ揶揄う様に「おしまい、ですか」とそう囁いた。
「俺は鬼人だから」
「はい」
「……貴女を傷つけてしまわない様にしなくては、ならない」
 ――仲睦まじい両親の様に過ごしたい。そう告げた我儘に沿う様に彼は毎日の口づけをくれる。
 その指先を絡める様な甘い時間はまだ慣れやしないのだろうけれど。これからゆっくりと、その日々を重ねていけばよいだけなのだ。
 善処するだなんて告げてくれていたころよりも、もっと、もっと、距離は近づいた。
「ふふ」
 メイメイは可笑しくなって笑うのだ。傍らのこの人は、なんて臆病で愛おしいのだろう――と。


 翌朝、すっかりと目覚めたメイメイは何故か機敏に朝餉の用意をしている晴明に気が付いて思わず笑ってしまった。
 どうしたことか、彼は味噌汁を作る名人になっていた。出汁をこだわっているということだって初めて知ったが、それもすべては気落ちする事があった賀澄の為に培われた知識や技術だったのだろう。
 それを今朝がたから披露してくれる男は相当に緊張をしているし、落ち着かないのだろう。賀澄や黄龍、瑞神の嬉しそうな顔を見てしまったから、とは言っていたが。
(わたしも、同じ……)
 自分を受け入れてくれる彼らあの表情を見てしまってからはやはり、どうにも落ち着いてやいられなかったのだ。
 そそくさと朝餉を終えてから、行くべきその場所に辿り着いてからすぐ様に誘拐犯よろしくメイメイの身柄を確保してしまった瑞神が彼女を着飾らせていく。
 それだけはやらせてくれと告げる神様は本当に自分を愛し、慈しんでくれているのだろう。
「瑞さま」
「すこぉし、動かないでください。わたしの加護ですよ」
「よろしい、のですか?」
「勿論。メイメイのためですもの。……メイメイ、きれいです。とっても、とっても。やはり、いまからでも家族役を」
「いいえ、瑞さま。瑞さまは、晴さまの、ご家族として」
 ぎゅっと小さな神様の身体を抱きしめたメイメイは「ありがとう」とそう囁いた。
 美しい空。眩い空には虹の橋が架かっている。可愛らしく微笑んだ神様は、自らの加護こそがこの場所に満ち溢れているとそう言った。
 麗しき神の手を引いてやってくるこの国の天上人は「メイメイ」と呼ぶ。
「善き日を」
「ありがとう、ございます。賀澄さま」
 春の日を愛する様に、蓮の花が花開く。美しきその時を抱きしめるかの如き時間がそこにはやってきた。
 メイメイはゆっくりと振り返る。歩いてやってくる晴明を見つめてから、華やぐように笑うのだ。
「晴さま」
「メイメイ」
 この場所は、彼らにとって愛するべき場所だ。神々が居て、家族と呼ぶべき人々が居て、そして、何よりも、自身らを愛してくれているとこの空で、花で、風で伝えてくれている。
 晴明とメイメイが並んだその姿を見ただけですぐにも泣き出してしまった賀澄もそれをなだめながらも困った顔をしているつづりとそそぎも。
 可笑しそうな表情を浮かべている黄龍も――すべての祝福を神として授ける瑞神も。
 幸福そのものだった。
 メイメイは「ねえ、晴さま、しあわせです、ね」とそう笑う。
「ああ。貴女が居なかったならば、きっとこの光景は見られなかった。
 ……どれ程に善き時間だろうか。俺にとって、貴女が幸福であることが一番だと思っている。
 俺を、そしてこの国を愛してくれてありがとう。貴女がいなくては、俺はきっと立ち行かないだろう」
「ふふふ、晴さま、こそ。わたしの手を取って下さって、ありがとうございます。
 わたしだって、あなたが居なくては、光もみえません。だから……ずっと、ずっと共にありましょう」
 この場所には神様が居る。二人を祝福してくれる眩い光のような。
 その心地のよい空間でメイメイはそっと晴明に寄り添うのだ。
 神威神楽に咲いた瑞兆の花を眺めながら、此れよりも未来が更なる幸運に溢れていますように、と。
 ただ、ただ、そう願いながら――


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