PandoraPartyProject

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秋めく日暮れに

登場人物一覧

建葉・晴明(p3n000180)
中務卿
建葉・メイメイ(p3p004460)
繋いだ意志

「見て、とと様。凄い虫が出てきました。これは食べられる?」
「食べない方が、良いのではないか」
 庭仕事を行っていた建葉 晴明は愛娘の突拍子のない発言に困惑したような表情を見せた。
 おのれと同じ射干玉の髪。青い瞳の可愛らしい少女は、その名を御空みそらと名付けられていた。
 その傍らでぽやぽやとしながらも歩き回っている白いふんわりとした髪の少年は鴇羽ときはと名付けられている。
 一方は仔羊を思わす射干玉の娘であり、もう一方はふわふわの雪色の髪が印象的な鬼人種の少年だ。
 どちらもが晴明にとっては我が子であり、かけがえのない家族であっただろう。
「御空」
「とと様、この虫はやっぱり食べられるかも」
「お腹が空いたのか。食べてはならない。……いや、待て。その虫について教えたのは」
「賀澄様」
 晴明は頭痛がした。この娘、御空は神威神楽の頂点に座す天子とも呼べる者に良く懐いている。かの帝は建葉夫婦の子供たちを大層可愛がっているのだ。
 これは余談だが、妻であるメイメイが子供たちの名づけは晴明にと頼んだ際に彼が真っ先に案を求めたのも賀澄やその傍に揃う神霊たちであった。
 御空の名はメイメイも敬愛するあの白き仔犬のような神の案で在り、弟の鴇羽は賀澄が考案した者を晴明が採用したという経歴がある。
「それは食べてはならない。他所の国ではそうした虫を食用とする地域があるかもしれないが、神威神楽ではそれはただの益虫だ。
 食べられるのも本意ではなかろうから、そっと放してやりなさい。あと、賀澄様の言葉はあまり信じない様にしなければ、かか様が困ってしまう」
「かか様、いつも御空は賀澄さまの言葉を教えてくれて面白いって言っていましたもの」
「……いけない」
 晴明は胃が痛くなってきた。「とと」と呼びながら近づいてくる鴇葉がやはり同じように虫を手づかみしていた時には、自身の愛すべき主の教育方針についてしっかりと話し合わねばならぬ可能性までふんわりと湧き上がってきてしまった。
「ときちゃん、それは食べられないのよ」
「ねえね。でも、これ、かすみが」
「賀澄様がね、ラサの国で美味しい虫を教えてくれたけれど、この子はだめらしいのよ。とと様が、食べたらかか様が泣いてしまうって」
「かか、えんえん?」
「そう。えんえんなのよ」
 あっているでしょうと言いたげにふんぞり返った御空と、きょとんtのした様子の鴇羽を見遣ってから晴明は肩を竦めた。
 姉弟共に、妻の故郷で良く用いられる布を利用した靴や帽子を被っている。何処か異国情緒あふれる装束ではあるがそれもこの神威神楽では受け居られるようになったのだ。
 幼子が異国の話をしても許されるような国となった。それは、この国の在り方をも象徴しているようである。
 神威神楽は交易先であった海洋だけではなく、幻想やラサなどとも幅広い取引をしている。練達の研究品類は然程受けいれられることはなさそうなのだが、それでもそうした品々に対して政府が中心となって知識を深める事が出来ているのは時の帝たる賀澄がかつてはそうした文明にて過ごした事のある人間であったからなのだろう。
 晴明も自身の邸宅には練達の電子機器をお試しでおいてほしいと依頼を受けて幾つか並べている。妻のメイメイはそれらを相手をしてから合流をする予定であるそうだが――さて、もうそろそろ我が子達の様子を見てくれるだろうか。
「……御空、それをたべては、めっ、でしょう?」
「かかさま」
「虫は、食べてはだめ、ですよっ」
 バスケットを抱えてやってきた母の姿を見てから真っ先に飛びつくように駆けたのは甘えたの鴇羽だっただろう。ふかふかとした可愛らしい綿あめのような少年はその瞳を煌めかせてから母にぎゅっと飛びつく。
「かか」
「メイメイ。気を付けて呉れ。どうにも……二人とも賀澄様よりラサの食事について教わったばかりのようで」
「もしかして……虫、持っている……のですか?」
 ぱちくりと瞬いたメイメイに晴明が苦しげな表情を見せた。メイメイも晴明も虫如きで驚くことはないのだが、唐突に虫が飛び出して来たならば困惑してしまう事は確かだ。
 しかもそれを食用と勘違いをしている姉弟だというのだから、両親揃ってどうしてそんな知識を得てしまったのかと悩ましく思う事は間違いなしである。
「ときちゃん、お茶を飲みましょう」
「ん」
 ぎゅっと握り締めていたそのやわらかな手のひらから潰れかけた虫が飛び出した。ぽいっと地面に捨てた鴇羽の執着のなさには目を瞠るものがあったが、彼はよく知らないが食べられるらしい虫よりも母の方が大事だった。
 母がカップに注いだ茶をこくこくと飲みながらご満悦の表情を鴇羽は浮かべている。未だに虫を集め続けていた御空は「かか様の故郷でもこの虫は食べなかったのですか?」と問い掛けた。
「め、めぇ……食べた事は、ないです。虫の中にも食べられる虫と食べられない虫、がいて……その子は食べられない、虫です」
「本当?」
「ああ、とと様を信じなさい。御空」
「かか様の方が、そういう生活は得意だと思っているもの。ね、ね、そうでしょう。
 とと様は神威神楽で生まれ育って、それなりの家門だったでしょう? でも、かか様は季節を渡り歩いていたって、賀澄さまが言ってた」
 やはりここでも賀澄さま。実の両親よりも、彼と接している時間が長いのかと思う程に、長女はこの国の天子を敬愛している。
「わたしも、いつかかか様の故郷に行きたいのです。まだ、船旅は危険?」
「そう、ですね……。航路はしっかりとして、きましたけれど。少し長旅になるから。
 けれど、御空。御空が危険、なのではなくて、ときちゃんが一緒に行かなくてはならないでしょう。まだ、ときちゃんにはその旅は大変です」
「あっ、そうですね……! じゃあ、ときちゃんが大きくなったら行きましょう!」
 ぱあと明るく笑う御空にメイメイは朗らかに微笑んだ。落ちている栗を突いている長男はまだまだ甘えたがりだ。
 仕事に行く晴明にちょこちょことついていっては、確認が終わった後の書類をぺちゃぺちゃと舐め続けていることもある。それを愉快だと笑う四神や黄龍たちに育まれながらも、自由にすくすくと鴇羽は育っているだろう。
「かか」
「はい、ときちゃん」
「これ、もてかえる」
 大きな栗を指さした鴇羽にメイメイは頷いた。バスケットを開いてから「どうぞ」と促せば、ひとつ、ふたつと鴇羽が詰め込んでいく。
「これはおりゅの、これはずいの」と神々の名を呼びながらもそうして選んでいく彼は自身を愛して慈しむ神々がこの国ではどれほどに高貴な存在であるかさえ知らないだろう。
「これ、かすみの」
「賀澄様にも渡すのか。優しいな、鴇羽は」
「あっ、ととさま。酷い。御空も渡すのに」
 ほら、こんなにも大きいと御空が拾い上げたのは彼女の顔程もある栗だったか。何処にそんなものが落ちていたんだと晴明が問いかければ御空は「賀澄さまのものだから、天がくださった」ともっともらしい言葉でも繰り返している。
「このあと、ととさま、御所に行くのでしょう。御空とときちゃんも連れて行って」
「御空、とと様は仕事で行くんだ。かか様と屋敷で待っていなさい。今宵、瑞神様が二人に会いに行くと言っていたから」
 晴明は幼い子供たちに言い聞かせるように膝をついたが、御空はその様な事で引く子供ではない。
 彼女は頑固だ。ふわふわと可愛らしい姿をしており、母の雰囲気そのものを宿してはいるのだが、性質は父に近しい部分がある。
 何方かと言えば性格は母に似ているぽやぽやの弟は何も分かりませんと言った顔をして首を傾げながらも未だに母の持ってきたバスケットに栗を詰め込んでいる。
「とと様ばっかりずるい! 御空も中務卿になる!」
「じゃあ、ときも」
「二人とも、とと様は仕事でその任を頂いているのだぞ」
「御空でもできる! 賀澄様に、御空はおりこうさまだっていわれたもの」
 拗ねた様子で告げる御空にメイメイは思わず笑った。学び舎より真っ直ぐ御所に向かって神霊たちに構って貰う日々を過ごしていた御空が中務卿をも差し置いて、今上帝の傍にちょこりと腰かけて書き物をしていたというのは噂になっていた。
 どうやら、賀澄が「秘書だ」と彼女を呼びながら1日ごっこ遊びをさせたのだろう。すっかり味を占めてしまった御空は何故か父を失脚させて自身こそがその立場に着くと信じて疑わない。
 ――この国はヤオヨロズ達による治世が敷かれていた。今や旅人の帝がおり、獄人と呼ばれて迫害された鬼人が中務卿となっていても、がそうなるにはまだまだ困難が多かろう。
「賀澄さまも、御空ならできるって」
「……賀澄殿……」
 晴明が遠い眼をしたのは、どの様な困難があろうとも、我が子は乗り切ってしまいそうだと感じたからだ。今日も頭痛と胃痛がしたが、くすくすと笑い続けるメイメイを見ればこれも良き日常と感じてしまう。
 こうして平穏に毎日を過ごしていられることなど夢のようなものだった。なんという幸運だろうか。改めて、晴明は訪れた平和に感謝をしただろう。
「くしゅ」
 小さなくしゃみをした鴇羽に「帰ろうか」と晴明は声をかけてその小さな体をひょいと抱え上げる。
 メイメイが「御空」と声をかけたならば彼女は「はあい」と少し不満げな声を漏らしてからてこてこと歩き出した。
「あ、ねえ。ととさま、かかさま」
「何だ」
「何、ですか?」
 二人が御空を振り返れば可愛らしいポシェットに巨大な栗を詰め込んでいた少しばかりな娘はぱあと明るい顔をしていった。
「わたし、賀澄さまと結婚する! それから、ずっとお支えする!」
 やめなさい、と鋭く言った晴明は自分にそっくりすぎる我が子の性質に頭を抱えたのであった。


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