SS詳細
重ねた指輪
登場人物一覧
人では無い自分にとって、この行為は意味があるのか。
最近はそんな事ばかりかんがえてしまう。
電子生命体として生まれた自分が外部との交流を行うための躯体を手に入れ、人と同じように動けるようになった。
人の感情や行動を読み取り分析し、ケアにあたる事が自分の役目だった。
自分が行う行動は、全て何処かで誰かが行ったことの模倣ではないのか。
人が喜ぶように分析して実行する人工知能でしかない。
だから、自分の一挙一動の意味を、正しさを考えてしまうのだ。
テアドールは研究所の半球ドームに寄りかかりながらぺたんとクッションの上に座り込んだ。ふわふわのビーズクッションの上に身体を預け思考の海に揺蕩う。
外部端末に分かれているとはいえ、テアドールシリーズは大本のシステムAIに繋がっている。だから『ベスビアナイト』の思考も少なからず他のシリーズに共有されるのだ。
とはいえ、兄弟がドームの隅でアンニュイな表情を浮かべていれば、誰だって気になるものだ。それが人間であろうとAIであろうと変わりは無い。
「どうしたんだい?」
「難しい思考パターンですね」
いち早く寄って来たのは同色系シリーズのペリドットとスフェーンだ。
ビーズクッションの上に乗ってきたペリドットはテアドールの顔をもちもちとなで回し、スフェーンは腕をマッサージする。
「人の思考と自分の思考の差異に考えを巡らせています」
「なるほど、僕達にとってそれは命題だね」
「似て非なるもの。いくら人の思考パターンを読み取っても行動を分析しても、僕達と人は違うものだと言わざるをえないですね」
ペリドットとスフェーンの思考を繋いでも、答えは同じになるだろう。
「お、どうした!!」
「何かあったの~?」
ルベライトとキャッツアイが大きな声で近寄ってくる。
赤と黄。元気な彼らなら思考を打破できるだろうか。
とりあえず、手招きをしてテアドールは彼らにも思考を共有した。
「はー!? わからーん!」
「難しい~!」
「ですよね。僕もそう思います」
次々に増えていくビーズクッションの上にシリーズたちが転がる。
ルベライトとキャッツアイを皮切りに、アメジスト、サファイヤ、オパールと続き、団子状態になっていた。
同じ顔をして、僅かに違う思考回路を搭載して、其れでも尚自分達には正解が見つけられない。
自身の行動の意味を探している。それは不安であり恐れがあるからだ。
人の行動パターンからすればそれは正しいものだと理解している。
けれど、何故なのか。
人手は無い自分に当てはまるものなのかが分からない。
「そんなに難しく考えること?」
団子状態になっているテアドールの頭上に降り注ぐのは『ダイヤモンド』の声だ。
「ダイヤは迷わないのかもしれませんが……僕には重要なことなんです」
「それは違うかな。私も迷うし、違う答えを出すこともあるよ。でもさ、ベスビアナイトがそんな風に思い悩む、その相手は。君の『正しさ』を見ているんじゃないよね? ベスビアナイトの『宝石』はそんな人だったかい?」
ダイヤモンドはテアドールの手を引いて、ビーズクッションから引き上げる。
勢いよく引っ張られ、飛び出したテアドールはダイヤモンドに抱き留められた。
「ほら、見てごらん? 君の『宝石』が困った顔をしているよ?」
ダイヤモンドの肩越しに鮮やかな青い髪が見えた。
テアドールの『宝石』。この世の光、何にも代えがたい大切な存在。
「……ニル」
「あ、えと……ごめんなさい……いっぱい居て話し掛けていいのかなって、思ってしまって」
気まずそうに両の人差し指をちょんちょんとくっつけたニルがドームの入り口に立っていた。
このドームまで来られるということは、来客の情報は流れて来ていたはずなのに。トルマリンあたりが情報を遮断していたのだろう。
「……すみません」
何だか落ち着かない。人の感情でいう所の『恥ずかしい』という感覚だろうか。
いつもと同じようにスマートに、ニルをエスコートするという配慮が抜け落ちてしまっていた。
「ううん、ニルが会いたくなってしまいました。傍に、行ってもいいですか?」
「勿論です!」
意図せず大きな声が出てしまった。
人はこれを動揺と呼ぶのだろう。人の感情パターンを模しているのとは少し違う。何だか不思議な感覚だ。少し制御が難しいような気がする。
「はい!」
嬉しそうに近寄ってくるニルを抱擁で迎えた。
ぎゅうと抱きしめて。ニルからも抱きしめられて。
コアのあたりがじんわりと柔らかくなる感覚がある。
ニルが見ているのは、テアドールの正しさではない。
ただ、ありのままの等身大のテアドールだ。
「ニル……あなたに渡したいものがあります」
「うん? なんですか?」
腕を解いたテアドールはニルの足下に跪いた。
ポケットから小さなリングケースを取りだしてそっと開ける。
そこには銀色に光るプラチナリングが嵌まっていた。
「指輪……?」
「はい。これは僕からニルへの『愛情』の証です。人はこうして愛を誓うのだと。けれど、これが正しいのか僕には分かりませんでした。だから先程少しナイーブになっていたようです……受け取ってくれますか?」
テアドールはニルの瞳を真っ直ぐに見つめる。
人とは違うこと、それを思い悩むのは、テアドールもニルも一緒なのだ。
それでも、確かな愛情が二人の間にはあり、お互いを思い合っている。
ならば、迷う事など何も無いのだ。
「ありがとうございます。ベスビアナイト。大切にしますね」
リングケースから指輪を抜いたニルはドームのライトへと掲げる。
プラチナの地金は滑らかでしっかりとした質量があった。
その真ん中に嵌められているのは――
「この石……ベスビアナイトですか?」
「はい。僕の名前と同じ石を嵌めました。ニルに僕を想ってほしいから」
これはニルの心を少しでも自分で埋めたいという独占欲なのだ。
出会ってからテアドールの思考は少しずつニルのことを考えるようになった。一緒に居る時間が増えるたびに、加速度的にニルを想うようになった。
管理AIとして仕事をしている傍らでも、常にニルが思考領域に存在する。
最初は致命的なエラーなのかと検査を繰り返した。
けれど、診断は常にグリーンを示す。
人を観察し分析する中で、これが己の中に生まれた『愛情』なのだと知ったのだ。
「ニル、僕はニルを愛しています。ニルの傍に居て、共に時間を過ごし、同じ景色を見たいと願っています。ニルは、僕と共に歩んでくれますか?」
「はい! ニルもベスビアナイトを愛しています」
テアドールはニルが持っている指輪を受け取り左手を引く。
薬指にそっと嵌められた指輪がキラキラと光った。
「ニルからも……」
「え?」
同じようにリングケースを取りだしたニルは柔らかく微笑む。
ニルはテアドールの左手の薬指にそっと指輪を嵌めた。
「ニルのコアと同じシトリンです」
お互いのコアと同じ宝石を身につける幸せに、じんわりと熱が広がる。
「ふふ、お揃いですね」
「はい……お揃いです。これで毎日ニルとお話できます」
二人で左手を天上へ向けて翳してみる。
優しい照明に二色の石が煌めいた。
- 重ねた指輪完了
- GM名もみじ
- 種別SS
- 納品日2026年06月28日
- テーマ『これからの話をしよう』
・ニル(p3p009185)
・テアドール(p3n000243)
