SS詳細
XXXX年6月30日
登場人物一覧
なんだい? またお話をしにきたのかい。
キミはこう、もう少し妖精らしく過ごした方がいいよ。花蜜を呑んで過ごしたり光る苔でお洋服を作ったり……
そっか。そこまで聞きたいなら幾らでも話してあげるよ。この地に纏わるお話を。
この地は妖精郷アルヴィオン。妖精たちや、妖精に心を惹かれた心の正しい人たちが最後にたどり着く常春の都。そう、外では言われてる。妖精たちはみんな長生き。好きに空を飛んで、水を泳いで、地面を掘って、夜は蛍の光につられて集まって……そうやって暮らしてる。たびびとたちはそれを眺めて、時間を忘れていつまでも心穏やかに過ごす。
誰もが好き勝手に生きているのさ。この世の楽園を一つ挙げるとするなら、きっと妖精郷の名前があがるだろう。
ただ、それが何時までも続いていたわけじゃない。
もう、ずっとずっと昔の話だ。ここには二度、大きな冬が訪れたという。
初めに起きた方はおとぎ話で語られて誰もが知ってる勇者の物語さ。二度目はそう、欲望に歪んだ男が齎した悲劇の物語。造られた偽りの命の材料にされて多くの妖精の命が……
かつては救世主たちが救ってくれたけれど、時間が彼らのほとんどを押し流してしまった。冬の恐ろしさも、失われた命の尊さも、皆
今やここは
心優しい人しかここに来ることはできないけれど、いつまた、何があるかわからない。世界はハッピーエンド、永遠に続くといっても、平和がいつまでも続くかわからない……滅びこそしなくとも、内乱の一つや二つはあってもおかしくない。
少なくとも彼はそう考えた。だからキミたちが厄介を背負う事になったのさ。
「この春を、永遠に。
そう言い残した、彼の言葉の通りにね。
器用で不器用な武器妖精と、彼の愛した妻たちとの子孫たち。
蒼い蝶の翅を持つキミたちは、他の妖精と違ってこの妖精郷を護る使命を生まれながらに背負ってる。
理不尽だと思うかい? ……そっか。大体の子は聞かれたらそう答えたよ、気にしないってさ。
なに、使命といっても深刻に考えなくていい。他の妖精と同じように過ごしながら、日々何か身の特訓になることを探して鍛錬をしていればいいんだ。
キミの得意な事をしたいようにすればいいんだ。探検をしたり、魔法を磨いたり、器用な手先を生かしていろいろ生活を豊かにしようとしてる子もいる。中には何を受け継いだのか随分と好色な子もいたけれど……とにかく私は何十、何百。もしかしたら、何千と、そういうキミたちを見てきた。そして、本当にその技術をこの国のために尽くさないといけない時がきたのなら、嫌でも使命感が芽生えるだろうしね。だってみんな、彼の魔力を深く受け継いでるんだから――妖精の困ってる姿には逆らえない、そしてそれを苦に思うこともない。心当たりはあるだろう?
それで、キミはどうしたい?
なるほど……外の世界に行きたい、ね……笑わないのかって? まさか。妖精それぞれの意志は尊重されるべきさ。私の知る限りじゃ他の世界を救いに行って、その時の知識を元にレベル1からまた叩き直した子だっているんだ。他の世界を救って、この都の危機にも帰ってきてさっそうと現れる。それもまた乙なものじゃあないかい?
あるいは妖精のいない夢も希望もない世界に降り立って、そこでアダムとイブになって少しばかしのメルヘンを広めてやるのさ。へへっ、それも悪くはないね。
それにそうさね、アイツの最初の子たちも……ああ、
とにかく、それは冗談じゃあないんだね? 生きて帰れないかもしれない。永遠にその世界に縛られるかもしれない。世界が滅ぶ危機に立ち会うかもしれない。そもそも、ほんとは外の世界なんてなくて魔力も魂さえも消滅してるだけかもしれないんだ。それでも行きたいかい?
その目は真剣な眼差しだね。わかったよ、なんで外の世界に行きたいのかは聞かないよ、妖精それぞれだからさ。ただ方法を教えようじゃないか。
最初に生を受けた蒼い翅の妖精たちが通った、底なしの泉。この無垢なる混沌の加護を抜けてどこかへと消える方法がある場所を。
それじゃあ、場所と手順を説明しようか。実は何十年かに一度の今宵だけだけど、行く方法があるんだ。
かつてキミの魔力の起源になった妖精が全てを諦めて自らの半身を埋めた、誰も行くことのない妖精郷の辺境にある雪原。そこは数十年に一度、1日だけ雪が溶けて深い空色の泉ができる伝説がある。それはまるで、その妖精の無念を晴らして欲しいと言うかの様に、ね……
一度しか言わないからよく心に留めておくこと。今から場所を教える丘にあるその泉に飛び込んでから息を止めて100歩歩いていくんだ、そして――
覚えたかい? そうか、キミは実に賢い。メモなんて取ったって泉の中でふやけちゃうからね。
あの三人の様に、その賢さと冒険心と根性があれば……外の世界でもやっていくことができるだろう。もしかしたら外の世界でも妖精の様な存在を見つけて、キミはそこで尽くしていくかもしれない、彼の様に。
うん、お別れの時間までもう少しある。どうせだしお茶も出すからゆっくり話そうじゃあないか。うん。冷たい緑茶だよ。暖かい飲み物は苦手なんだ、私。溶けるわけがないと知ってても溶けてしまいそうでさ!
……さて。
これから消える妖精と話す事には、いつも困るな。
キミが年長として面倒を見ていた子供達は立派になったかい? ふふ、そうか。羨ましいよ、手が焼くほど可愛いって言うじゃないか。
子供達が立派に育って、遠いお母さんたちもきっと嬉しいと思うよ。折角だ、なんで君達がほとんどの妖精と違って人間の様に赤子から育つか教えてあげよう。
かつて、武器妖精を愛した二人の乙女がいた。
一人は、好奇心を逸脱した変わり者だった。
もう一人は、不屈の意思を宿した幽霊だった。
変わり者の名前はメープル、幽霊の名前はハッピー。
叶わぬ望みを追い続けて心が折れた武器妖精に対して、幽霊は優しく彼の傍に寄り添ってあげていた。そんな光景を遠くから見つめていた変わり者の妖精は、己が無力を呪った。
彼女は、彼の心は自分の言葉や行動ではどうすることができない事に気が付いてしまったのさ。故に禁断の果実に手を伸ばしてしまったのさ。その妖精は遥かに長い時を生きた大樹から生まれた妖精だった、大樹の嘆きとしての姿を身に降ろしたのか、あるいは魔力の成長がその変化を齎したのか。とにかく彼女は、愛する夫も、もう一人の妻も堕として蕩かしたいと願ってしまったんだ。
胎に子を宿し育てる人の様に、二つの魔力を掛け合わせる事のできる器官を。その代償として、常に欲を曝け出した姿になろうとも。快楽によって彼の心を紛らわせようと、ね。
さあ、それで彼が幸せになったかは知らないよ。答えは彼の心だけが知る事だろう。だけど、肉体的な快楽が気晴らしになったのは事実だろうさ。
そんな妖精と乗り気になった幽霊のせいで今の妖精郷には蒼い翅の妖精が満ちてしまったんだからね! 私らの寿命で人間種と同じペースで増やせばそうもなるよ!
というわけで、その魔力を受け継ぐキミたちも、大体は雌雄という概念を持っているはずさ。中には無性だけれど時が来たら……つまり、好きな人ができたら発現する子もいる。まったく、困ったものだね。
……もっとも、これも彼の計算のうちだったかもしれないけれど、ね。
妖精ってのは正しい事よりも楽しい事を重視して生きる本能を抱えてる、けれど彼の子供は個人差はあれ皆生真面目だった。そうじゃなくても恋をして子供を宿し育てれば、少しは責任感ってのが生まれる。
いくら寿命が長くても、未来永劫一つの存在がとどまり続けることはできない。
自分が寿命を迎えた後、自分たちの後の妖精郷を護る存在は何人いたっていい。
あるいは、自分が諦めた夢を子供たちの誰かが叶えてくれる――そんな無念を、託したのかもしれないけれど。
まぁ、昔話はこれくらいでいいだろう。今の3人は……どこに行ったのか知らないけれど、きっと楽しくやってるだろうさ。何せ飽きることなくずーっといちゃついてたからね。
ああ、もう飲んじゃったのかい。
悪いけれど、新しい緑茶をティーカップに注いであげることは、ない。
キミの目は、もう外の世界に対する不安と期待でいっぱいに光り輝いている。
実に妖精らしい、いい目だ。だから無粋なことはしないよ。ここを出たら行きたい所へと行くがいい。
次はもう会えないかもしれない。
だから、最後にさ。何か聞きたい事はないかい?
……え?
私が肖像画で見たご先祖様の妖精に似ている? そう、きっと何かの間違いだろうさ。
私はただの壊れたコピー。怒りと悲しみの果てにバグに蝕まれて翅も朽ち果てて、今は人形の身体に閉じ込めたデータで動いてる秘宝種に過ぎない。……ああ、生きたくもなかったのに、私のサイズと一つになれたらそれでよかったのに、余計なお節介で生かされたばかりにキミたちにこういう事を教えなくちゃいけなくなったのさ。まったく、バグ一つ浄化するために何十年もかけたキミのご先祖様には参ったものだよ――
余計なお世話って何って? 帰り際に質問が増えるやつだなキミは。教えたいところだけれど、悪いね、話してる時間はないんだ。何せかの天才の気まぐれな発明品もなしに混沌を抜けるんだ、今を逃したら次は何十年後になるかもわからない。キミが旅先で好きに想像して考えてくれ。それに、こればかりは恥ずかしい思い出だしね――
そろそろ時間だ。キミの遠いお父さんたちの言葉を最後に伝えて置こうじゃないか。
「奇跡なんてものは起きなかった」、ってね。
あの人は間違いなく英雄で勇者だったし、最後には妖精並みの幸せを得れたけれども……挫折をしなかったわけじゃない。奇跡を祈れば、期待をすればするほど裏切られた時のショックも大きい。きっと、そんな感じだったんだろう。
でも、最近の蒼い翅の妖精たちは違う解釈をするのもいるんだ。奇跡が起きないからこそ、努力を重ねて必然になるように努力しようって。特に幽霊妖精の子孫は前向きな子が多いからね。キミがどっちに取るかは、キミ次第さ。それに起きないとわかっていても手を伸ばしたくなるのが奇跡ってものだし、ね。
前向きな言葉が欲しいなら、お母さんたちの言葉も知っておくといいだろう。
「世界はきっと楽しいよ! お友達もいっぱい作ればなおさらハッピーさ☆ミ」
「世界救うだけじゃなくて、たまには恋でもしてみようじゃないか、どろっどろに蕩かしてあげたくなるような、ね」ってさ。
……前者はともかく、後者は忘れてもいいんじゃあないかなあ。あはは……
それじゃ、またね。忘れ物はしちゃだめだよ?
……グッドラック。それじゃ、いい旅を。
盟主ロドの血を引く妖精たち。
……
…………。
あの子は、外の世界で、幸せになれるかな?
あの3人は、私のこの仕事に、満足してくれるかな?
わからないな。人生を悔いたことはないけれど、結局私は
やっとたどり着いた妖精郷は、私には暑苦しくて仕方なかったってさ!
……はは。さて、と。
じゃあね、みんな。
私はずっと、ずっと、キミの思いも寄らない遠くから、キミ達の事を見守ってるよ。
ロド、メープル、ハッピー。そしてその大地の魔力を受け継ぐ妖精たち。
それじゃあ、いい夢を。
おまけSS『最後の手紙』
やあ、サイズ。
遠くに住んでた頃からちまちま続けていた手紙だけれど、今度からは直接お話するようにしようじゃないか。
いい加減二人目も生まれて忙しくなりそうだし、これを機に、ね。
思えば遠くまで来たものだよ。
ただの妖精の一人として終わりそうだった私が、キミと付き合う事になって、お嫁さんになって。
まさか毎日の様に愛し合うほどに溺れちゃうなんて。
まるで夢が現実みたいになったみたいで、楽しかった。
……胸の大きさに関しては、譲る気はないけどね!ふふん!
どうせ最後になるんだ、口で直接いうのは恥ずかしい事も一つ、伝えて置こうと思う。
私とのえっちな写真はいくらでも撮っても構わないよ。どんな物だろうと、キミの欲望のままにするといい。
そもそも、キミを蕩かせて幸せにしてあげたいのが、私の望みだしね。
ただし! できれば! 恥ずかしがらず! 私の見れるような状態でおいておく事!
私はこれからもこっそり、キミの事を応援してみておくからね?
いいね? ふふん。
じゃ、またな!
あ、そうだ。
ハッピーも、ありがとうね。
正直私は白馬の王子様に憧れてたタイプの妖精だったけれど、まさか女の子も行けるようになるなんて思っちゃいなかったよ。
実に罪深い幽霊だ。私の過酷な踊りにもHP1でついてくるしな。
大丈夫かい? そろそろ気力とか枯渇したりしないか?
しない。 しないか。 さすがは私のハッピーだ。
それじゃあ、子供が生まれて落ち着いたらまた誘ってあげるから、体を清めて待ちたまえよ?
これからも、よろしくね?