SS詳細
「おまえったら、強欲ね」
登場人物一覧
開口一番、彼女は堂々と言い放った。「おまえったら、強欲ね」と。
スティアはぽかんとした様子で彼女を見つめる。なんてことを言うのか。この混沌世界で一番に清廉潔白な女に対してその様な言い草、神が御許しになる訳がない。
「んえ」
「んえじゃないわ。強欲なスティア」
「だ、だって、強欲って、いきなりいうから」
「ええ、強欲だわ。それに、傲慢。だって、おまえは私からの愛情を疑っていないもの」
ネメシス聖教国の教皇の座に座る女、スティア・エイル・ヴァークライトの正式なるパートナーである
堂々とそんなことを言われてしまったならば、スティアだって困惑してしまう。
自身は清廉潔白、神に身を捧げた存在。時にトラブルメイカーとなることがあろうとも、その信仰にゆるぎなし。
堂々と自身は正しい存在であると告げる事が出来てしまう様なそんな女に、今、目の前の聖女は何と言ったか。
「で、でも、ルルちゃんは」
「おまえを愛しているわ。多分、この世界で一番」
「た、たぶん」
「エミリアが対抗馬ね」
「あー……」
そこで叔母の名前が出てしまうとスティアとて否定はできなかった。世界で自分の事を一番に愛していそうな人間こそが叔母であるエミリアだからだ。
自分だけでも生き残れるようにと他の家族を処刑する事を受け入れて仕舞えるだけの愛情の持ち主だ。大事にされているという自覚があった、が、それはそれ。
家族愛と恋愛感情なんてものを同一に並べられては困るのだ。困った顔をするスティアを眺めてからカロルは「もう一度言ってみなさい?」とそう言った。
「おまえは私とどうしたいって?」
「え、いや、あのね……み、みんなね、結構、ほら、いちゃいちゃというか……」
「ええ。おまえと私の距離感も結構そうよ」
「そ、そうっていうか、そうじゃなくってね?」
「おまえ、自覚がないのかしら? だって、私とおまえって一緒にベッドで並んで眠るし、手を繋いで歩くわよ。
それに距離も何時も近いから耳打ちだってできるような間合いに生きているでしょう。もし殺意を持っていたら死ぬわよ」
「そう言う殺意の話とかでもなくってぇ……」
スティアは視線をあちらこちらに揺らがせて、緊張した様子でじいとカロルを見た。
それから、その挑発的な視線に気が付いてから「ああ、この様子だと何が言いたのかは理解をされているんだ」と見当がつく。
つまり、カロルはスティアを揶揄っている。本当に、おかしそうに、自信満々な表情で。
「ええ」
「……いじわるしてる?」
「勿論。おまえをいじめるのは楽しいわ。面白いわね、スティア」
「ッッ――も、もう、面白いとか、そう言うのじゃなくって……!」
ソファーに並んだ状態で菓子を黙々と食べているカロルを見つめているとスティアは拗ねかえる事しかできない。意地悪な人だ、本当に。
唇をつんと尖らせたまま待っていたならば、スティアはカロルが「これ美味しいわね」なんて当たり前に話しかけてくることにさえ気が付くのだ。
掌の上で転がされて遊ばれている。本当に、それが事実であることがよく分かって悔しくもなる。
「うぐぐぐぐ」
「なんだか潰れた蛙みたいになっているのね」
悪戯めいて笑った彼女をちら、と眺めてからスティアは肩を竦めた。
もう、これ以上揶揄われるのは止めにしよう。本当に、遊ばれているだけだ。もうここいらで降参をしていつも通りのアフタヌーンティーを楽しもうか、と。
そっと菓子に手を伸ばしかけた指先をするりとカロルが巻き取った。
「ルルちゃん」
「あら、降参?」
悪戯めいた様子で彼女がそう告げてから立ち上がる。片腕は巻き取られたまま、スティアの隣についてからカロルがスティアの長く垂れ下がった耳に唇を近づけた。
「私の勝ちね」
「悪戯がで、―――」
それ以上の言葉は繋がらなかった。不意を衝くように重ねられた唇と、離れたかと思えばしてやったりの顔をした彼女が見える。
スティアは呆然としたままにカロルを眺めてから微動だにする事も出来なかった。
「さあ、お茶が冷めるわよ。さっさとアフタヌーンティーをおしまいにしなくっちゃ。仕事がまだまだ溜まっているんでしょう?」
「そ、そう、だけど」
「この休憩時間だって無理を言って作ったものなのだからね、さっさと片づけましょう」
「う、うぐぐぐ……ル、ルルちゃん……!」
顔を赤らめてから彼女を見遣れば、本当にやってやったぞという顔をしたカロルが楽しげに笑っていた。
「おまえったら、強欲ね。まだ、欲しがり屋さんなの?」
「そんなこと、言ってないってば――!!!」
- 「おまえったら、強欲ね」完了
- GM名夏あかね
- 種別SS
- 納品日2026年06月17日
- テーマ『これからの話をしよう』
・スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
・カロル・ヴァークライト(p3n000336)
