PandoraPartyProject

SS詳細

誓って、結んで

登場人物一覧

カロル・ヴァークライト(p3n000336)
普通の少女
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
ネメシス聖王

「ス~~ティ~~ア~~!!!!!」
 勢い良く呼びかけてくるカロル・ルゥーロルゥーをスティア・エイル・ヴァークライトは振り返った。
 可愛らしい寝間着は桃色のリボンと花の意匠があしらわれている。堂々としている彼女を見ているとスティアは可笑しくなるのだ。
 濡れた髪はしっかりとメイドたちに乾かして貰ったのだろう。赤い頬は湯上りを思わせる。何処からどう見たって、彼女は風呂上がりですと言いたげな格好で仁王立ちをしているのだから。
「どうしたの? ルルちゃん。お風呂上がりに仁王立ちってすっごい変な様子だよ」
「いいのよ。私はいつでも変だから。それより、おまえ風呂は? ぎりぎりまで仕事しようって魂胆じゃないでしょうね」
「ええ? でも、忙しいものだよ。だって、叔母さまに政務官をお願いしていたって、叔母様だって人妻になっちゃう……」
「バカね、あの人妻はお前の事が大好きなんだから仕事を頼んであげなさいよ。その方が喜ぶわよ」
 スティアは困った顔をする。流石に、苦労性の叔母なのだ。これ以上の苦労をかけたくはなかった、が――
「おまえは明日何の日なの?」
「け、結婚式……」
「誰との」
「ル、ルルちゃん……と、です……」
「それで夜更かしィ? このわたしがおまえと結婚するのよ? 一番に可愛くって素晴らしい顔してないといけないに決まっているでしょう。
 おまえは私に何て言ったのよ。顔が良いって言ったでしょう。寝不足では顔の良さは半減するわ。さっさと寝ましょう」
「ルルちゃんがそう言うと説得力ある……」
 スティアはぱちくりと瞬いてから彼女を見た。本当に説得力の塊だ。
 何処までだって自らの在り方を忘れないシヴュラの乙女。偽の神託をでっちあげて皆に信じさせるだけの事はあるとスティアは関心する。
 ある種、彼女がヴァークライト邸に身を寄せて、政務官の真似事をしてくれるならば領地は上手く回っていくものだ。
 それにに対しても何ら不安なく受け入れる事が出来ると考えていた。
 この国を背負う事になる可能性。それは、ヴァークライト家が貴族である以上はあり得る話だった。と、言えどもそれは神官や聖女と言う立場での話であった筈だ。
 されど、驚くことに天義という国には変革が起きた。玉座に着く教皇がまるで嵐のように退位を行う事となったのだ。その手続きの最中に次代を任せるならば「天義貴族」であり、その名声轟かせる聖職者のひとりだとスティアの名が挙がった。
「スーティーアー?」
「うん、片づけたら今行くね」
 スティアはにんまりと笑ってから立ち上がった。
 彼女とならなんだってうまくいってしまう気がする。この混沌世界を窮地に陥れようとした稀代のだった元聖女。そんな彼女が傍に居ればなんだって叶う気がしてならないのだ。
 さっさと寝室に引き上げてしまったカロルは睡眠欲求を満たそうとしていたのか、それとも明日の式典に向けて肌の調子を整えたかったのかは分からない。
 ただ、ただ、ぐっすりと眠りについていたことは確かだった。スティアはそんなカロルの様子を眺めればなんだかおかしくなってしまって、ついつい揶揄うように笑う。
(……本当に、何時だってまっすぐだなあ、ルルちゃんは)
 彼女は嘘を言わない。全力で自身の想いを伝えてくれるし、それ故に分かりやすささえもが全身から滲んでいる。
 だからこそスティアから提案したパートナーとしての座を彼女が了承してくれたという事に何ら不満はない筈だ。不満があれば口にしている。
 それでも不安にはなる者だった。これがマリッジブルーというものなのだろうか、とスティアはベッドの中でごろごろと転がっている。
 ヴァークライトの跡取りはスティアがとしても構わないようにと叔母であるエミリアから養子を貰うという話が付いている。
 家門については何ら問題はない筈だ。寧ろ、幻想種である自分が即位してヴァークライトの管理を養子に任せたとて、自身が管轄を行えるならばそれ程の問題が起きるとも思いにくい。
 これから先の事を思えば、不安は山積みであるはずなのだが、スティアは自然とそれらを不快なものであるとは思えなかった。
 記憶喪失な少女が未来の事を考える事が出来るようになったのだ。それがどれほどに幸せであるか。スティアは深く息を吐く。
(ああ、なんだか、いろいろと終わったんだなあ)
 混沌世界での冒険が終わりを告げてしまえば、これまでは冒険者と言う自由な立場であった彼女もそれ程までに天真爛漫ではいられなくもなってしまうのだ。
 それでも、あまりに嫌な心地ではないのはきっと彼女が傍にいるから。
 カロルは自分の不安などすべて取り去ってしまう様な特別な存在であるとスティアは感じていた。
 本来の名前をカロル・ルゥーロルゥーと言うのだ。カロルと呼ぶべきなのかもしれない。されど、スティアは彼女と初めて会った時から同じようにルルちゃんと呼ぶのだ。
 滅茶苦茶な彼女との結婚式がやってくる。それはきっと、男女が結ぶような恋の契とは少しばかり違うのかもしれない。
 スティアの立場と言うものやカロルが聖女であることだってある。それでも互いが将来を結び合うための記念にそんな理由も何らかのこじつけも必要はなかった。
 眩い光の下に立つ彼女はきっと美しい。スティアはドレスを選んだ際に彼女が自らに似合うのはゴールドであると知っていることをよくよく理解していた。
 あの眩い光を一身に受けても美貌を霞ませることもなく明るく笑う彼女を、スティアは何よりも好ましく思っていたのだから。

 気がつけば眠ってしまっていたのだろう。早々に支度を整えているカロルがどこか自信満々な顔をして――いやあれは悪戯をするつもりだろうか?――ともかく、楽し気な顔をしてスティアを待っていた。
「着替えるわよ!」
「はいはぁい」
「だから寝不足は止めなさいって言ったでしょう?」
 可笑しそうにそう言う彼女にスティアはまるで母親のように彼女が言うものだからついつい、おかしくなってしまうのだ。
 あまりに楽しそうに彼女が笑う。それがスティアは楽しくて楽しくてたまらなかったのだ。
 丁寧に髪を梳いていくカロルがスティアに声をかける。
「おまえは、今日、一番美しいおんなになりなさい」
「ええ? それって、ルルちゃんじゃないの?」
「私は何時でもそうだからいいのよ」
 彼女がスティアの髪を優しく指で梳いて、おまじないのように囁くのだ。
 しあわせになあれ、と。
 母が居たならばそうやってくれたのだろうか。スティアはふと、亡き母親の事を思い浮かべる。
 エイルはどんな顔をして、この日を迎えるだろう。祝福のような時間が遣ってくるならばどの様な幸せをその心に留めておけるだろうか。
 母の気持ちにスティアはなったことがない。エイルがどの様に思うのかまでかは想像もつかない。
 けれど、彼女が抱くその思いが、誰よりも優しく心地よいものであればいいのにと、そう思わずにはいられなかった。
 厳かなる聖堂で、二人の聖女が生涯を誓い合う。そんなささやかな時間がやってきた。
 あまりにちっぽけな式典であったのかもしれない。それでも、スティアもカロルも関係はなかった。
 互いが存在し、互いが誓いあえるのであればそれで良かったのだから。だからこそ、この場に客人と呼ぶべきはさして必要はなかっただろう。
 ヴェールの向こうを覗けばカロルが待っている。何時ものようにドレス姿でも変わらぬ仕草で、自信満々にこちらを見て笑っている。
「スティア」
 弾むように、そうやって呼ぶ。楽しげな声が聞こえてからスティアは顔を上げるのだ。
「ルルちゃん」
 ゆらゆらと桃色の髪が揺らいでいる。鮮やかなる金色の瞳が楽しげに笑ってじっとスティアを見ていた。
 豪奢なドレスに身を包んだ聖女は彼女の言う通り何時だって世界で一番美しい。堂々としていて、自信満々で、何処で立っていたってその美貌は眩む事はないとでもいう様な。
 彼女の前で互いに誓い合う。
 これからの人生をお互いがお互いに捧げ合う様に。
 じっと、スティアがカロルのかんばせを見つめた。眩い金の瞳は楽し気に細められる。
「どう? 寝不足だった眠気眼の調子は」
「もうばっちり両目も開いているよ。ふふふ、ルルちゃんが寝ろって言ってくれたおかげだね」
「勿論、そうよ。私はよく分かっているのよ。おまえが無理をして可愛い私を見る事ができなかったら残念だったものね」
 くすくすとスティアは笑った。あまりに自信満々にカロルがそういうものだから、ついつい可笑しくもなってしまったのだ。
「ねえ」
 スティアを覗いた金の瞳がぐっと近くなる。勢いよく近づいて、彼女の声が明るく弾む。
「おまえ、私に誓いなさいな」
 悪戯めいて、彼女は言うのだ。天義の聖職者に、いや、その頂の人間に彼女は何てわがままを言うのだろうか。
「おまえが誰であったって、おまえの世界の神様はわたしよ。そのことには違いはない。解るわね? だから、私に誓いなさい」
 彼女は揶揄う様にそう言って指輪をスティアの前へと差し出した。
 ぱちくりと瞬くスティアは余りに可笑しくなってから「ルルちゃんに?」とそう問い掛ける。
「当たり前でしょう。神がこの誓いを拒絶したって私がおまえを連れ去ってあげる。
 おまえの前任者だってそうなったのよ? おまえがそうならないなんて保証はないわ。この国の神だって私が可愛くて仕方がないはずなのだから。
 だからね、証明なさい。私にね、おまえがというの」
「ルルちゃん。私、この国の一番偉い人だよ?」
「知っているわ」
「私、聖職者で、しかも教皇なんだよ」
「知っているわ」
「私こそが、この国の教義のような存在なんだよ?」
「だからなに? そんな存在が恋をしてはいけないなんてことはある?
 それに、おまえと私の誓いは神が厭う様なものではないわ。だって、私たちは神が御許しになる誓いの陽ざしの下に立っていられるのだから」
「無茶苦茶だなあ」
「無理くりな私が好きなんでしょう」
 そう言われてしまえば、スティアは可笑しくなって笑う事しかできないのだ。スティアがその指輪をそっと受け入れてから、カロルを見る。
「ほら」
 頬を指さした彼女が悪戯に自らの頬を指さした。ぱちくりと瞬くスティアは可笑しくなって笑った。
「勿論、誓うよ。ルルちゃん。私はね、ずっとルルちゃんと一緒に居るから」
「そうね、おまえと私の間にあるのは当たり前にあるべき幸福よ」

 ――くあ、と小さな欠伸を漏らしてからスティアは「ルルちゃんは元気だなあ」と笑った。
「なに? 当たり前でしょう」
 振り返った彼女はバラの花の中で楽し気に自信を見ていた。新婚旅行と言いながら、表向きには外交として各国を巡り続けている。
 今は深緑に存在する薔薇園の視察に訪れていただろう。馬車に揺られていたスティアは揺さぶり起こすカロルをちらと見てから肩を竦める。
 夢を見ていた。結婚式の、あの勢いばかりが良い彼女の夢を。
「私はね、いつだって元気だし好きな事をするの。おまえと薔薇園を歩くわ。
 さあ、手を出して頂戴? こっちよ。私はあの花を見に行きたいんだから。おまえが眠って居たら一緒に歩けないじゃない」
「ふふ、連れて行ってくれるんだ?」
「当たり前よ。おまえと私の新婚旅行なのでしょう。それとも、外交だけで疲れてしまった?
 そんなことなら教皇の座は私がもらってやろうか。今からでもやれると思うわよ。なんたって私、聖女ですもの」
「怖いなあ。ルルちゃんが国を盗ったらもう一大事だよ。まず、幹部は顔の良さで選びそう」
「ええ。顔の良さで選ぶわ」
「ががーん、イケメンパラダイスが出来ちゃう……」
「男女関係ないわよ。顔が良いなら」
 堂々と告げるカロルにスティアは楽しげにからからと笑い声を漏らして見せた。
 ゆっくりとその手を引いてくれるカロルに導かれて馬車を降りる。周囲を眺めたならば美しい庭園が広がっていただろう。
「さあ、行きましょうか」
 スティアの手をぐっと引いてカロルが走り出す。鮮やかに咲いた薔薇の中を彼女が駆けていく。
「転ばないでね、ルルちゃん」
「転んでもおまえがいるでしょう。私を起こすのはお前の仕事よ。さっさと行きましょう、ほら、こっちよ。スティア!」
 楽しげに笑って走っていく彼女の背中をいつまでこうやって追いかけていられるだろう?
 幸せな時間が流れていく。これから、沢山の場所をもっと一緒に見てみたい。
 海洋の浜辺を歩く事も出来るだろう。ラサの砂漠で身を寄せ合って星を眺める。鉄帝国の雪景色は、少し激しすぎだと彼女はきっと怒るのだ。
 には想像できなかった平穏がスティアの身体を包み込む。混沌世界にとずれた平和がその心に穏やかな光を与えてくれるようであったのだから。
「ルルちゃん、待って」
「ん? わ」
「ふふ、いたずらー」
 次にその手を引っ張ったのはスティアだった。くるりと振り返ってから「こっちだよ、いこう。ルルちゃん!」と走り出す。
 幼い子供のように、何時だって天真爛漫に駆けていくことが出来たなら、きっと、その心は乾くことはない。
 幻想種として、まだまだのだ。深緑の幻想種から見れば赤子のような時間しか過ごしていない少女なのだから、こうやって子供のように笑っていたってきっと叱られる事はない。
 大きな帽子を押さえて走っていく。母の生まれ故郷の空気をその胸いっぱいに吸い込んで。楽しいねと笑いあったならば、大げさな程にカロルが「あたりまえでしょう!?」と声を発する。
「だって、私が居るのよ。おまえと一緒に!」
「そうだね。ルルちゃんが一緒だから、何処まででも楽しいや」
 これからも、驚くような経験を彼女が与えてくれるのだ。
「ねえ、ルルちゃん。今度は銀の森に雪とか見に行こうよ。きらきらしていて、きっと綺麗だから」
「あら、いいわね。それだけじゃないわよ。練達で現代風のお洋服に身を包んでみるなんかも忘れちゃいけないんだからね」
「ふふふ、そうだね。ルルちゃんが好きな事を何でもしていこうね」
 手を繋いで走っていくその光景を夢想する。スティアを振り向いてからカロルがぱと明るく笑ってから「さあ行くわよ!」と勢いよく手を引いた。
「おまえを幸せにしてやるといったのだから、私がおまえのことをどこまでも幸せにしてあげるわ!」
「どれくらい?」
「天義で一番よ。だって、私って聖女だもの」
 ――の為に生きている。
 彼女がそう笑ってくれた。それだけで、きっと幸せなのだから。
「じゃあ、聖女さん。願いを叶えて?」
 ずっと、傍にいてほしいとそう願う様にスティアはその手を掴んだ。


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