PandoraPartyProject

SS詳細

約束

登場人物一覧

リュミエ・フル・フォーレ(p3n000092)
ファルカウの巫女
クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者

「約束だからな。改めて答えを聞きに来た」
 どうやら、世界は平和になったらしい。らしい、というのはクロバにとっては然程に平和を実感し享受できるような心境ではなかったからだった。
 混沌世界の平和よりも、自身の中での一大事がそこにある。クロバは息を飲み、真っ直ぐに目の前の女を見た。
 リュミエ・フル・フォーレは深緑の巫女であり、アルティオ=エルムにとっては指導者そのものだ。そんな彼女に愛を伝えたのは随分と前に思えて仕方がない。

 ――貴女が幸せであることが――いや、惚れた女の幸せを願うのが、男ってもんだろう?

 クロバが求めたのは、この滅びを越えた先にリュミエが何をしたいのかと言う問いかけだった。
 愛を乞うでもなく、恋を願うでもなく、ただ、ただ、慈しむように彼は彼女の幸せを願っていた。それが、リュミエという女にとって一番必要なことだろうと、そう感じていたのだ。
 リュミエに今一度どうしたいのかを聞きたかった。クロバはそう告げてから目の前の女のかんばせを眺める。
 美しい、淡く揺らいだエメラルド。穏やかな彼女が「クロバさん」と呼ぶその声音だけで心臓が跳ね上がる。
 きっと、様子だ。余裕なんて何処かに擲って、そこには等身大の、まだ少年のような心地の男が立っている。
「あの時”あぁ”は言ったけど。やっぱりさ、俺は我が儘を言いたくなった。――共に生きてほしい。見守るんじゃなくて、傍で」
「……私は……」
 リュミエがそうと視線を落とした。クロバは「困らせたくはない」とそう告げる。
「けれど、自分の気持ちにも嘘を吐きたくはない。自分自身の幸せにだって向き合わなくてはならないと思った。
 それは、リュミエ・フル・フォーレと言うその人の将来を聞くんだからこそ、自分の事を考えるべきだって思った。
 だから、きちんとクロバ・フユツキは自分の目指す先を考えたんだ。……考えて、真っ先に浮かんだのが君の顔だった」
 リュミエは驚いたように目を瞠る。それからクロバを見てから可笑しそうに小さく笑った。
「どうして、私の事なんか」
「どうして、なんてみなまで聞いてくれるなよ。……でもさ、浮かんだんなら仕方がないだろう?」
「ええ。そうですね。浮かんでしまったというならば、それを否定する術を私は持ちません」
 クロバは一先ずはそれを受け入れてくれたのだとほっと胸を撫で下ろした。されどそれは、否定でも肯定でもない、ただ、事実を受け止めただけだと知っている。
「ファルカウのお節介なのか、多分俺は他の人間よりかは寿命は長い。
 考える時間はあると思う。――もう一つの本題があるんだが、一緒に外の世界を見に行かないか?」
「……」
 慈しむ愛は美しい。リュミエがファルカウを、アルティオ=エルムを、同胞たちを愛していることは知っている。
 クロバはそんなリュミエが好きだ。愛情深く、責務を胸にし、向かう先が暗くとも立ち向かえる人。ただ、暗鬱とした生となろうともファルカウと呼ぶべきに寄り添う事が出来る人。
 そんな人の、そんなところに惚れたと、思えども命がけで戦ってきたのだ。
 その愛を自分にだけ向けてほしい、独り占めしたい。そんな一つくらいたった一人の人生を変える様な我儘だって言ってみたい。
 クロバは緊張しながらも真っ直ぐにリュミエを見た。
「クロバさんの、お気持ちはとても嬉しいのです。ですが、私はやはりここを離れようとは思えません」
「リュミエ……」
「まだ、この国は落ち着きません。世界が平和になったというならば、その分やるべきことが増えたというべきです。ファルカウの事だって――」
「……ああ、そうだな」
 ファルカウにだって変化が生じたことをクロバはよくよく理解していただろう。緩やかに頷いた青年を見つめてからリュミエは「ですから、私は私が成すべきを、成したい」とそう言った。
 まるで、彼女が自らの責務に駆られて言うのではない。自身の考えのもとで口にしたように、そうはっきりと、しっかりとした口調で。
「私は、自身が向き合うべきに向かい合いたいのです。ですから……貴方の人生はまだ長い。幸いにしてはお節介を焼いてくれたようです。
 この地で共に、過ごしませんか。私はこの場の指導者です。その口添えを英雄と呼ぶべき貴方にもしてほしい」
「はは、それはとんだ我儘だな?」
「ええ。私も、我儘を言われましたから」
 揶揄う様にそう言ったリュミエに「ああ、俺の人生はどうやら長いらしい。付き合ってくれよ、リュミエ」とそう微笑んで見せた。
 ――これから、まだまだ人生は長い。今から、彼女と積み重ねるべき日々もあるだろう。
 その閉ざされた心に触れる事が出来るように。青年は一歩一歩、ゆっくりと進んでいくのだ。


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