PandoraPartyProject

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幸せな毎日へと

登場人物一覧

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
アルム・カンフローレル(p3p007874)
誓星

「フランスパンは使わないんだね?」
「何にでも使ってたら流石に飽きるだろ」
 庭に置かれたテーブルと椅子。
 『お呼ばれ』していたアルム・カンフローレル (p3p007874)はテーブルに並んだ料理とお茶を優しい瞳で見つめていた。
 目尻の皺は50とまるで変わらないが、その眼差しの優しさとゆったりとした雰囲気は、この平和な歳月を感じさせるものだ。
 料理を並べ終えて、向かいの席に座る零・K・メルヴィル (p3p000277)。
 テーブルに並んだのは日本でよく見る和食やら洋食やら海洋王国でよくみる料理やら、覇竜の伝統料理やら深緑の郷土料理やら何やら、なんだか世界の壁まで越えてごちゃまぜではあったが、不思議と統一感がある。
 実に零らしい食卓と言えるだろう。
 この世界にやってきて50余年。重ねた歳月から立ち振る舞いや顔つきに二十代程度の雰囲気を感じさせはするものの、見た目はやはりアルム同様50のままに見える。
 そして、この二人の距離感と、接し方も。
「零くんの出す『日本』の料理も、もうすっかり慣れちゃったね」
「この世界にも浸透して久しいからなあ。元々多少普及はしてたわけだし。最近は俺もフランスパンよりふつうにご飯って感じだよ」
「ごはん?」
「えーと、白米を炊いたヤツ」
 そういってパエリアを指さす零。
 未だにこういう、ジェネレーションギャップならぬワールドギャップがおこるのは混沌あるあるである。一応、混沌肯定の力によってネイティブに伝わってはいるのだが。文化性や価値観までそのまま伝わるわけではない。
 もとは『普通の男子高校生』と『創世神の見習い』である。ギャップどころの話ではないだろうに。それが、こうして、テーブルを挟んでお茶と料理を楽しんでいる。それも、何十年という時が経ってさえ。として。
「まぁ、何年たとうが俺としちゃ、アルムとこうして喋れるのは楽しいよ」
「俺もそう思う。それで、さ……ねえ、零くん」
 肉を不思議なソースでうまいこと焼いた覇竜料理をつつきながら、アルムがややぎこちなく切り出した。
「お嫁さんと、最近はどう?」
「え? まあ、いつも通りだけど」
 混沌生まれの嫁を持ったということで、結局元の世界に帰らず定住を選んだ零である。この夫婦の睦まじさは今更語るべくもないだろう。
「たとえば……どんなふうに過ごすのが好き?」
「んー、そうだな……」
 パエリアを自分の皿にもりつけながら、零はぼんやりと考えを巡らせる。
 こうして見ると、随分彼も変わったものである。
 混沌へ来たばかりの、色々ギリギリだった十代の若者という印象は、いまはもうすっかり消えている。
 『年相応』の落ち着きと、それに伴ってか大人びた顔つき。
 それこそメシにがっつくような歳じゃない。ゆるりゆるりと平和に生きているのが、彼の所作ひとつでわかるというものだ。
 ちなみにアルムが訪問するにあたって料理を振る舞ったのは、わりと『なんとなく』である。別に料理を趣味にしているわけではないのだが、思いついたらなんかやってしまうというあたり、昔の零っぽいといえなくもない。
 長い歳月で変わるものもあれば、変わらない芯もあるということだろうか。
「例えば一緒にのんびり過ごしてる時間は好きな一日だったと思えるし。外でデートしたり、一緒にご飯食べたり……もそうかな」
 それこそワールドギャップの話になるが、50年連れ添うとなったら地球世界の日本人基準で一生モノである。なんなら死ぬまで添い遂げているパターンだってあるだろう。
 だが相手は深緑育ちのハーモニア。歳月への価値観がケタで違うのである。
 落ち着きがあるのはハーモニアの基本っぽいとして、雰囲気だけで言うと彼等は50年近く新婚夫婦をしているようなものなのだ。
「な、なるほど……ね……」
「どうした。急に」
「いや、ちょっと」
 頭に手をやり、顔を赤くして、目をふわふわ泳がせる。
 アルムが目に見えて照れ始めたので、零は『ははーん』という顔になった。
「ステラか?」
「それは……うん、そう……。参考にしようと思って……」
「今更過ぎるだろ」
「今更過ぎるよね……はは……」
 更に照れるアルム。
 確かに、今更も今更。
 もう随分と前に彼等二人は結婚式をあげ夫婦になったのである。
 とはいえそうなるまでにやっていたことは殆ど夫婦みたいなもので、零をはじめ周りの友人達は『まだ結婚してないのか』と思っていたくらいである。
 ちなみに『まだ付き合ってないのか』の時と同じ感覚だったので、その時は静観を決め込んだ零であった。
「ま、俺もひとのことは言えないか。この世界で、『嫁さん』と同じ感覚で生きてたらなんかいろいろゆっくりしちゃうんだよな。参考になったんなら嬉しいけど。なるか? 参考に」
「う、うん。たぶん……」
 あせあせと料理に手を伸ばすアルム。
 なんというか、本当に今更すぎるのだが。
 一緒にのんびり過ごす一日も。
 デートに出かけた一日も。
 食卓を囲む一日も。
 みんな、アルムはもうすっかり経験してきたはずだ。
「今更、特別に何かを変えなくてもいいんじゃないかな。
 俺はいつも通りが幸せだし、好きだよ。アルムのところはどうなんだ?」
「え、っと……」
 お茶にちびちび口をつけて、アルムはよけいに照れた。
「同じ、だね」
「それでいいんだって。俺達はさ」

 幸せな毎日とはなんだろう。
 零はそんなことをよく考えていた。
 いまも、考えないわけじゃない。
 食べる物に不自由しないこと。
 住む場所に困らないこと。
 お金に余裕があること。
 好きな人がいること。
 お互いに好きだと信じ合えていること。
 友人がいること。
 何年たってもその友人が変わらぬ調子で訊ねてきてくれること。
 どれも、幸せの形なのだとおもう。
 世界の終わりと戦って、その先をつかみ取った劇的な瞬間だけが、幸福なわけじゃない。
 国をひとつ滅ぼしかねない竜に一撃くらわせた時だって、仮想世界に生きる命の幸せを願い抗った時だって、星を砕く怪物に挑みかかった時だって。
 きっとつきつめれば、こんな『幸せ』を願ったはずだ。

「なあ、アルム。今って……幸せか?」
「えっ?」
 急に何をという顔でミートボールをとりおとすアルム。
 お皿の上に運良く落ちたところで、アルムはふと空に目をやった。
 流れる雲。
 抜けるような空。
 少しだけ涼しい風と、暖かな陽気と、草と花の香り。
 広い広い庭の一角で、何十年来の友と茶を飲み交わし、当時と変わらぬような会話をする。
「多分、いまのこの瞬間も、幸せ……って言うんじゃないかな」
「だよな」

 二人の会話は、とりとめもなく、そしてゆったりと、しかし気付けば日が暮れ始めるほどに続いた。
 西が茜色になってきた頃、アルムは席を立つ。
「久しぶりに会えて、楽しかったよ。零くん」
「俺も。別に、また明日来てくれたっていいんだぜ」
「そうしたら今日と同じくらい料理を作ってくれる?」
「それはどうかな。フランスパンだらけになってるかも」
 あははとアルムは笑い、零もまた笑った。
 これは『ごくありふれた幸せの形』。
 そして、彼等が命を賭けて勝ち取った、幸福のすがたであった。
 さよならと手を振って。
 また、幸せな毎日へと。


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