PandoraPartyProject

SS詳細

平穏なる混沌の地で

登場人物一覧

エマ(p3p000257)
なきむし
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女


 あの長い長い戦い……信託によって決定づけられた混沌の滅びに抗う為の戦いが終わって。
 滅びから逃れて平穏を取り戻した混沌。
 激しい戦いを乗り越えた特異運命座標……イレギュラーズはそれぞれの行く道を進み始める。
 仲間と共に暮らす者、日々の仕事に邁進する者、変わらず各地を渡り歩く者、更なる鍛錬を重ねる者、人々の前から行方を眩ませた者……。
 イレギュラーズとしての個々の在り方も大きく変わった者、変わらない者と様々。
 では、今回の主役たる2人のイレギュラーズ達はどうだろうか。


 エマ……ピンクの髪にたれ目、太眉にオデコが印象的な女性である。
 幻想で生まれた彼女は天涯孤独の身の上であった。
 頼るべき大人がおらず、日々の糧を他人から奪いとる盗賊稼業に身をやつす。
 幼少時から、彼女は生きる為に何でもやった。
 高圧的な物言いにはすぐ謝り、身の危険を感じればすぐに逃げ、何か物をくれる相手にはこびへつらう。
 それは、対人恐怖症な部分があったからあろう。
 とにかく、人と話すのが怖いと感じていたエマは、恐怖を誤魔化すためにとにかく喋る。
「えひひ、えひひひっ」
 その上、不自然な笑い方が印象的だ。
 やや引きつったその笑いは、その場を取り繕う為であることも多い。
 そんな彼女はある時、空中庭園へと招かれることとなる。
 比較的早いタイミングでイレギュラーズとなった彼女は、生まれ故郷である幻想から、各地を巡りながらも様々な戦いに身を投じることとなる。
 それも、ローレットから出された依頼から受け取る報酬の為。
 度重なる戦いは、決して楽なものではなかった。
 己のパンドラを削ってもなお、互角とはいかぬようなバケモノに、エマは刃を手にして迫っていく。
 彼女のスタンスは変わらない。
 常に絶やさぬ笑顔を浮かべ、エマは命すら投げうち、まさに命がけのバトルを繰り返していた。


 イーリン・ジョーンズ……小柄で長い紫の髪、冒険者然とした出で立ちが印象に残る女性だ。
 他世界からの来訪者である彼女は、混沌においては旅人(ウォーカー)と呼ばれる。
 イーリンは、多くのイレギュラーズからは『司書』と呼ばれていた。
 それは、彼女にとっては呪い除けという目的もあったが、それはさておき。
 他にも、馬の骨だのお、紫苑の君、エリーンと各地で呼び名を変えていたりする。
 それらはいずれも偽名。
 彼女はその時々でそれらを使い分けている。
 そんなイーリンもイレギュラーズとしてこの地を西へ東へと奔走し、各地の抗争に多々顔を出す。
 そして、持ち前の魔眼、魔力蓄積体質による高まる魔力で魔種にも凛として立ち向かう。
 多くに司書と呼ばれるイーリンではあるが、その姿は様々。
 ある時は、騎士鎧に身を包んで。
 時には、巫女服姿で。
 また別の時は、シスター服を纏って。
 何故かバニーガール姿のときも。
 そして、時には妖精のような出で立ちで。
 如何なる姿をしていても、イーリンは戦い前にこう呟く。
「神がそれを望まれる」
 その一言を耳にしたイレギュラーズは数知れない。
 そして、率先して敵に立ち向かう彼女の姿を目にしたイレギュラーズもまた数え切れない。


 そんな生まれも境遇も全く異なるエマとイーリン。
 彼女達はイーリンがオーナーとなる『文化保存ギルド』にて顔を合わせていた。
 そのギルドは長らく団員を募集し、長く続いた戦いの中で様々な人が出入りし、幾多の戦術、色々なスキル、歴史、文化について語り合われた場所だ。
 だが、今はエマとイーリンの2人だけだ。
 エマは依然とさほど変わらぬようには見えるが、イーリンは異なる。
 魔力蓄積体質が解消したことで、普通の人間に戻ったイーリン。
 この1年で急成長した彼女は170センチを超え、女性としては高身長と言えるほどに。
 加えて、出るところも出てグラマラスな姿に成長し、以前とは違った理由で人々の視線を浴びていたようだ。
「静かですね、イーリンさん」
 エマはお酒を用意するイーリンにそう呼びかける。
 元々、初対面の取り決めの時に、エマはイーリンの事を『馬の骨』と呼ぶのことにしていたのだが。
 今は聞いての通り、二人で話すときには素直に名前に敬称で呼ぶことにしている。
「ええ、そうね」
 二人は杯を突き合わせ、酒で喉を潤し始める。
 少しまだ寒さも残る時期だ。
 多少冷えた酒でも、エマは喜んでそれを口にして身体を火照らせていく。
 イレギュラーズとして様々な経験をしたエマだが、今なお物品を貰う時にやや卑屈な態度をとってしまう。
 その身に沁みついた所作というのはなかなか変わることがないと、彼女は苦笑してしまう。
「えひ、えひひ」
「ふふふ、ふふふふ」
 エマのぎこちない笑いもなかなか変わらないことに、イーリンもまた笑う。
「これからどうするの?」
 イーリンがエマに問う。
 すでに、ギルドメンバーの中にはそれぞれの生活を歩み出している者も多いが、やはり親友であるエマがどうするのかが気になったのだ。
「そうですね……」
 遠い目をするエマは、これまで受けた依頼でお金も稼ぐことができた。
 もはやわざわざ悪いことをする必要もなくなり、盗賊稼業は廃業することにしたのだと言う。
「旅に出ようかと思いまして」
 これまで、依頼で混沌各地を巡ってきたエマだが、ゲートなど使うことなく自らの足でこの混沌世界を歩いてみたいのだ。
 ……かつて、自身や友が命を懸けて守ったこの世界を。
 まずは、海洋を目指す。
 ネオフロンティア王国でもいろいろあったが、印象強いのは海に出てからだ。
 とりわけ、静寂の青……以前は絶望の青と呼ばれていた海域。
 そこは混沌人類にとって未踏の地とすら呼ばれていた。
 荒れ狂う天候、襲るべくモンスター、奇病を跳ねのけ、熾烈な戦いを乗り越え、イレギュラーズはこの海を踏破することが叶った。
 知っての通り、その先には豊穣の地がある。
 それすら、当時は初めて知ったというものが多かった。
 エマはそうした海を、島々を、海を渡った先の豊穣を、のんびりと船で巡ってみたいのだ。
「そういえば……、プーレルジールという世界」
 エマがふと思い出したのは、プリエの回廊(ギャルリ・ド・プリエ)を中心に広がる平野ばかりの世界。
 混沌に似てはいるが、レガド・イルシオン、王都以外は混沌にある国は存在しない。
 一応、多少の集落はあるが、混沌の歩んだ歴史とは一切異なる別世界である。
「そのプーレルジールにも友達が出来ていた。そこにも行ってみたいんですよね」
 イレギュラーズの戦いは混沌だけではなかった。
 これまでの戦いの地を巡る候補として、エマはそのプーレルジールも含めていたのだ。
「敢えて人に会いに行くなんて、意外ね」
「それだけ、護った世界を見たいのですよ、ひひ」
 大きな目を細めるエマは本当に楽しみなようだ。


 一通り、エマのこれからを聞き、今度はイーリンの番だ。
「そうね、身辺整理しようって思っているのよ」
 例えば、その戦いぶりから勇者と謳われたこともある彼女だが、その位を返上しようと考えている。
 貴族から貸与されていた領地や屋敷……そうした財産もまた処分しようと考えていた。
「もったいないですねえ」
 今はお金に困らなくなったエマであっても、さすがにそれは惜しいと感じて。
「残しておくと、問題になるのよ」
 争いの火種となりそうだというのもそうだが。
 イーリンは自身が時代の徒花だとよく理解しているからだ。
 彼女の名声は非常に高く、とりわけ幻想ではかなりの知名度を誇る。
 その活躍は誰もが知るところであるが、本人は静かに表舞台から去る心算である。
 そうして身辺整理を済ました後、イーリンは散っていった仲間達の墓参りや遺族への謝罪に回ろうと考えていることを告げた。
「……やることは多いのよ」
「しがらみがあると大変だねえ、ひひ」
 苦笑するイーリンにつられ、エマも笑う。
 それらを全て終わらせたなら、今度は世界中を旅しようとイーリンは話す。
「目的……最終目標は何ですか?」
 その、イーリンは頭上を見上げて、あそこだと笑って指差したのは……太陽だ。
 まだまだ、彼女は叶えたい夢があると輝く日の光に負けぬほどギラついているようにも思える。
 表舞台から去ろうとも、彼女はイーリン・ジョーンズであり続けるのだろう。
「あなたらしいですね」
 ひひと笑い、エマは杯を空ける。
 すると、イーリンはそこにまた酒を注いでいく。
 気付けば、彼女自身もまた一度は飲み干した杯を満たしていた。
 酔いが回り出し、2人は微笑み合いながら、互いの杯を突きあい、またその液体を口に中へと流し込む。
 ほろ酔いの彼女達にとっては、それがまた心地良い。
 これも長らく混沌の地を駆け回り、戦い抜いたからこそだ。
 だからこそ、その戦いで守り抜いたもの、そして犠牲になったものに焦点を当てようとする互いの想いを理解できる。
「それぞれやりたいことがある中でも、時々こうして時期を決めて逢いましょう」
 その時の互いの近況について語り合いたいとエマは望む。
「もちろんよ」
 イーリンもそれを快く了承する。
 自分のやりたいことには一生懸命になるイーリンではあるが……、今は。
「でもまずは、一緒に貴方と酒を飲んで、気が済むまでお喋りを続けたい」
 ――だって、それくらいは許されるでしょう?
 頬を赤らめて顔を突き出すイーリン。
 エマは笑みを浮かべたままだったが、相手が本気なこともあって普段のおしゃべりな口を一時だけ噤み、最後までその言葉を待つ。
「ね、私のこの世界の最初の親友、エマ」
「そう言ってくれて嬉しいですよ、イーリン」
 戦いが終わっても、お互いの道が違えることになっても、仲睦まじい2人の友情はいつまでも。
 その日は2人が酔い潰れるまで、たわいない話で盛り上がり、夜を明かすのであった。


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