PandoraPartyProject

SS詳細

朽薔薇の名のもとに

悪の果て

登場人物一覧

ベルナデット・クロエ・モンティセリ(p3n000208)
奇しき薔薇
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
極楽院 ことほぎの関係者
→ イラスト
極楽院 ことほぎの関係者
→ イラスト

 がしゃんと音が立った。幻想王国に存在する監獄島には収監されている。
 混沌世界は平和になったが、それでも世界の全ての危機が取り払われたわけではない。
 万が一のためにを囲っておきたいという者は数多くいるだろう。特に、幻想王国などという場所は様々な思惑が捻じくれた儘に溢れかえっている。
 その思惑に触れたか――もしくは日ごろの行いが故だと言われてしまえば笑ってしまうが――監獄島に収容される事となったのだ。
「出せよ」
 呻くようにそう叫んだ女をじろりと見つめたのはコルク・トゥル・モンティセリだった。
 その名の通り、モンティセリ辺境伯家の縁戚である少年だ。幻想王国の治外法権として知られている監獄島の看守にしては随分と年若い。
 モンティセリが見舞われた不幸な事件によってモンティセリの養子に入ったが義母の見舞われる不幸に対して意を唱えたままに看守として監獄島で就労しているらしい。
 ――と、言いながらも彼はと幻想王国の伝令役だ。
「静かにしてください、ことほぎ様」
 困ったようにそう言われてしまえば極楽院 ことほぎも黙りこくることしかできなかった。
 朗らかですぐにでも捻り潰して仕舞えそうなほどに穏やかな少年ではあるが、彼がモンティセリ――つまりはにとって義理の息子に当たることが問題だった。
 叱りつけるように言われてしまえばことほぎは拗ねたように座るしかない。
 があるうちは看守と囚人でなくてはならないのだ。そう、監獄島の外は敵だらけであるとコルクもことほぎもよくよく理解していた。
「そもそも、です。罪状も多く危険人物でもあることほぎ様を野放しにすることを幻想王国は望みませんとも。
 それに、モンティセリとしてもに近しい位置に存在する可能性がある縁故のイレギュラーズを野放しにはできません」
「まあ、そりゃあそうだろうな」
 淡々と告げたコルクをじっと見つめてからことほぎが鼻先で笑った。
 不満ながらも納得できる表向きの事情だ。そうともいえども、ことほぎはローザミスティカが筋書きをよく理解している。
 ローレット側には事前に書類が提出された。その相談の上ではローレットの書類上、ことほぎは監獄島に出向の形となっているらしい。
 ならば、コルクと同じようなでよかったのではないか、と思わなくもないがこれまで積み重ねてきた悪行の結果だと言われたならば納得せざるを得ない
 ゆっくりとゆっくりと監獄島へと近づいていく。ざばざばと音を立てる船が漸く監獄島にたどり着いたとき、コルクが手にしていたランタンを掲げた。
 魔法仕掛けのランタンがゆらゆらと揺れ動き、まばゆい光と共に周辺を取り囲んでいたまじないが解けていく。
 その先にぶわりと、音を立てて女主人の部屋へと続く階段が現れた。
 入り口には背筋を伸ばしたナスターシャムが立っている。衛生兵の娘は背筋をぴんと伸ばしてから「おかえりなさいませ、コルク様」と微笑んだ。
「ただいま戻りました、ナスターシャム」
 本来ならば、彼女、ナスターシャムはモンティセリの専属侍医であった。それ故に、コルクに対しても仕える立場であることには違いはない、筈だ。
 だが、今は看守と衛生兵という立場である為にこうしたやり取りは表向きには見られないはずだ。
 それだけ、ことほぎがとなったということか。ローザミスティカ、いいや。ベルナデット・クロエ・モンティセリ辺境伯夫人はの出自の女である。
 彼女が心を許し友人と呼ぶのは限られた存在であり、をイレギュラーズに与えるというのはコルクやナスターシャムにとっても意外性の溢れることであった。
 だが、それがことほぎだというのはある意味で納得だ。
 ことほぎから見て、ローザミスティカとはであり、名を蒐集することほぎにとっての上位互換でもあっただろう。
 自分と似通った存在であることもある為にことほぎは彼女の事を上位互換としても認識していた。だからだろう。もっとも分かりやすい友人関係を気付けるとローザミスティカが認識しているというのも。
 ローザミスティカが分かりやすい好感をことほぎに示してくれるとなれば面食らうことしかできない。存外に、彼女は己を買ってくれているのだろう。
 それも、としてだけではなく、こうして収監されることになることほぎを快く迎え入れてくれる程度には。
「ああ、来たか」
 椅子に腰かけていた青いドレスの女は頬杖をついて笑っていた。姿を変幻自在に変えてしまう美しき薔薇。
 フィッツバルディに名を連ねながらも名を消されてしまった不運なる女はくすりと小さく笑う。
「会いたかったと言ってやった方がいいかい?」
「さあ、どうかな」
「漸く会えたとでも言うべきかい? 外の生活は自由気ままで楽しかったか。まあ、を失うというのは手痛いが島の内部に戦力を増やしておけるというのは悪い事でもないんでね」
 くつくつと喉を鳴らして笑ったローザミスティカにことほぎが囁いた。「勿論、会いたかったと言って置いた方が良いか」とそう囁いて見せれば女はおかしそうに笑うのだ。
「アタシの出自をもう理解していてその口ぶりかい?」
「逆だろ、逆。むしろ、そうして欲しいんだろ。なんて言い出すんだからさ」
「まあね」
 ローザミスティカは肩を竦める。彼女はこの島の主でありながら、を欲している。
 フィッツバルディに連なり老竜であれど、未だ国政に目を光らせる男の姪ともなればそうした相手は存在していないだろう。
「どこの貴族に囲われたかは把握もしていないけれどね、
 アタシは伝手もたくさんある。何もことほぎ、アンタ一人だけを伝手だとは見ていない。情報源を1つ失った所でどうって事はないさ。
 それよりも。悪い話ではないと思うけれどねェ」
 ローザミスティカがくすりと笑った。じいと見つめてくるその瞳へとことほぎは「じゃあ、いくつか質問をさせてくれるか」と問うた。
 すうと女が目を細める。視線の先にいるのは監獄島の主としてのし上がった大罪人ローザミスティカではない、ベルナデット・クロエ・モンティセリ――いや、かつてベルナデット・クロエ・フィッツバルディを名乗っていた女だ。
「どうぞ?」
 蠱惑的な仕草で女はそう言った。背後にはナスターシャムが、そして傍らから歩み出たコルクがじっとことほぎを見つめている。
「じゃあ、誰がこの極楽院 ことほぎを囲い罪人として監獄に押し込んだと思う?」
「フィッツバルディ、違う?」
 女が首を傾げる。まるで取引でもしているかのような仕草だ。金の髪が、フィッツバルディ公にもよく似た美しい金糸がさらりと女の頬を撫でた。
 彼女は利口な女だ。それ故に、こんな場所に押し込まれているのだろうが。貴族殺しの大罪人とまで呼ばれた女は万が一の時にフィッツバルディに対してを誓わせねばならない罪人の世話を仰せつかったという事だ。
「では逆に問いかけましょう。は?」
「フィッツバルディ……いいや、ベルナデット・クロエ・モンティセリ辺境伯夫人」
 真っ直ぐな瞳をことほぎがローザミスティカに向けた。それこそが答えだ。
 極楽院 ことほぎという女はフィッツバルディ家にとして囲われた、が、ことほぎはフィッツバルディに忠誠を誓う気はない。
「ふふ」
 くすりと小さく笑ったベルナデットの表情がすぐまたローザミスティカのものに残った。
「アタシがいいって?」
「そう答えたって思うべきだろ。何の仕事こなしてほしい? 報酬次第だ」
 薔薇のコインは、きっとことほぎの生活を潤してくれる。女の後ろ盾はあくまでもローレットだ。つまり各国に対しての不干渉の姿勢をことほぎも貫いている。
 報酬次第で、従う。が、主として、駒として動くならばを選ぶということだ。フィッツバルディになど頭を下げてなるものか。
「護衛、それに加えて暗殺。仕事は星の数ほどある。
 アタシは素行に問題があってもアンタがアタシという存在に歯向かうなんざ思っちゃいない。なぜかわかるかい?」
「ねじ伏せられるから」
「ふは――よくわかっているねェ。いつでもアタシの所に下ればいい。そうでないならば、アンタが好きなようにアタシまでもを踏み台にすればいい」
 一歩ずつ、ローザミスティカは近寄ってからことほぎを見た。鎖につながれた女はわざとらしい忠誠を示すように膝をつく。
「靴でも舐めようか?」
「ハッ、やらせやしないさ」
 頬を掴み上げたローザミスティカは顔を近づけてから小さく笑う。
「――今日からアタシのものだよ」
 この牢獄の中にあるのは彼女の所有物だけだ。愛玩人形などではない。のこの女は時に確かな統治者としての瞳を光らせるだけ。
 牢の中でことほぎはのし上がることを選べばいいだけなのだ。女の笑う声を聴きながら「望むところだ」とことほぎは囁いた。

 外で、彼女の手を取っていたならばただのフィッツバルディ傘下にしかならない。
 だが、この治外法権の島でならば極楽院 ことほぎはおのれの思うがままに進むことが出来るだろう。
「さ、ご命令を? ――」


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