PandoraPartyProject

SS詳細

君と手をつないで

登場人物一覧

リヴィエール・ルメス(p3n000038)
パサジールルメスの少女
ニア・ルヴァリエ(p3p004394)
太陽の隣

 手を繋げば暖かい。笑い声がいつだって響いている。次はどこへ行こうかと、その手を引いて走り出せば、街から街へと飛び回るようには進んでいくのだろう。
 そんな彼女だからこそニア・ルヴァリエは愛おしかった。大切なのようで、愛おしいのようで。何よりも失いたくはない友情と幸運の形だった。
 ヘルメースのギフトは彼女を迷わせることはない。地図を読み解くことが得意な彼女は案内人として適している。
 鰭耳に、鱗の肌を持った明るいパサジール・ルメスの少女は次の場所へと向かうのだとニアへと告げた。
「どうするっすか? ニア」
「どうって、言われてもなあ」
 ニアの前に立っているリヴィエール――リヴィエール・ルメスはぱちくりと瞬いた。
 混沌の少数勢力の一つであるパサジール・ルメスは町から街を移動するキャラバンである。パカダクラのクロエと共に次の街へと移る用意をしているという彼女を前にニアは「うーん」と呟いた。
「……リヴィがどうしたいか聞いてもいい?」
「そりゃあ、あたしは旅人っすから、次の場所に行きたいなあって思うっすよ。
 まだ見ぬ場所、なんてのは混沌にはごまんとござれ。あちらこちらに沢山のがあるんだと思えば、言ってみたいっす。
 まあ、世界が平和になったなら突拍子もないことは起こりにくいんすけど。
 これからも冒険は続くってなりゃ情報屋は必要っすから。風の向くまま、気の向くままっすかね」
 へらりと笑ったリヴィエールにニアは「ん、そっか」とぽつねんと呟いた。少しだけ、ほんの少しだけ唇から飛び出しかけた言葉を飲み込んだのは秘密だ。
 本当は行かないでほしいだとか、一緒にい機体だとか、それから、キャラバンの一員になりたいだとか、そんなことを言いたかった。
 とても仲良しだと笑ってくれる彼女が家族を大事にしていることは知っている。様々な場所を目指すのだってパサジール・ルメスの家族と共に行きたいからだということも。
「リヴィが、どこかに行きたいなって願うならもちろんあたしもそれでいいと思うよ。
 リヴィにとって冒険も、旅も、それからも何よりも大事だって知っているからね。
 だからさ、どこかにたどり着いたらまたお土産話でもちょうだいよ。頼りでもいいからさ。あたしは――」
「……ニアは?」
「あたしは、ここでずっとリヴィを待ってる。そういうやつが居たっていいだろ?」
 へらりと笑ったニアにリヴィエールは少しばかり不服そうな顔をした。
「リヴィ」と困ったように笑うニアはその表情の意味をなんとなく理解していたのだろう。彼女がこうやって拗ねたのにはきっと理由ワケがあるのだから。
 ラサの隠れ里で愛し子と呼ばれ、精霊に好かれて生きてきたニアは里長の娘であった。
 故に、家族とも一線を引いた特別な存在として育ったのだ。そんなニアとは大きく違う生き方をする家族を大事にするパサジール・ルメス達。
 それは血のつながりというわけではなくその部族すべてを家族として大切にしているのだ。毎日の生活で、実の家族でなくともを慈しんでいる。その結束を感じればこそ、ニアは憧憬を抱いてやってきたのだ。
「あたしはさ、ラサで生きていく使命が――」
「でも、そんな指名からニアを連れ出したのが特異運命座標っていう……運命パンドラっすよ?
 あたしはニアがそうならなかったら出会えなかった。こんなに大事な友達を得られたんすから、運命に大感謝しているんすよ」
「ありがと、リヴィ」
「で、ここで相談なんすけど。ニアはどうしたいかなあって思ったんすよ。
 あたしたちと一緒に旅をしてみるのはどうっすか? キャラバンの一員として、まだ知らない、見たことのない場所に行ってみるんすよ!」
「そ、それは……」
 ニアはじっとリヴィエールを見た。もちろん、そう、あこがれたことはある。
 ――リヴィと一緒に旅をして、キャラバンの皆と家族になって、リヴィともそうなって、何時までも楽しい旅をしたい。
 あこがれたことはあった、けれど。そのあこがれを叶えるときにどうしたって自分のが後ろ髪を引く。
「里長になるかどうかって話っすか?」
「まあ、そうだね。やぱpり、あたしは……あの里を捨てられない。
 だって、生まれてこの方ずっとその使命があったんだもの。それを遂行するのが必要だと、思うんだけれどね」
「じゃあ、里長になる為に旅をするっすよ! その中でたくさんのことを思い出にして持って帰るんすよ。
 それでね、もしニアが継がなくていいよってなったら、そのままあたし達と旅をしましょう。
 ニアのやりたいことが見つかるかもしれませんし、もし、今決まってるならその目標に向かうっすよ」
 明るく笑ったリヴィエールにニアは小さく頷いた。もしも、可能なら――みんなの家族になりたい、なんていえば彼女はどんな顔をするだろうか。
 今はまだその途上。ニアは一度故郷に戻ることになるだろう。それから、パサジール・ルメスと共に各所を旅して見分を広げると告げるのだ。
 その許諾はきっと容易だ。何せ彼女は世界を救った英雄の一人、特異運命座標なのだから。
 行く先に何が待ち受けているかはきっとわからないけれど、ニアはリヴィエールとならば大丈夫だとそう実感している。
「ねえ、リヴィ。あたしには夢があるんだけどさ」
「はい、何すか?」
「……ちゃんと、家族が欲しい。大切な家族がさ。
 そんなものを見つけるたびに出てもいいかな。パサジール・ルメスのみんなと一緒に、キャラバンとして町から街を移って」
 精霊と寄り添って共に進むのだ。荷台に腰かけていたリヴィエールは「いいじゃないすか!」と瞳を煌めかせた。
 彼女は家族に恵まれている。大切なパサジール・ルメスの家族たちと共に街から街へと移動して、そうしてたくさんの家族を得てきたのだから。
「じゃあ、ニアはこれからパサジール・ルメスの家族として一緒に行きましょう!
 それで、ニアが定めた本当に大事な家族を見つけられるように旅を続けるんすよ! その家族と故郷に戻って、それから、隠里をもっと素晴らしくするんすよ。
 あっ、今でも勿論素晴らしいっすよ? そういうことじゃなくって、えっと……ニアが幸せであるのためにって感じで!」
 そう慌ただしく言ったリヴィエールに「うん、わかるよ」とニアは笑った。
「そうだね、じゃあ、あたしもそうしようかな。リヴィ、かりそめかもしれないけれどパサジール・ルメスの一員としてよろしく」
「はいっす!」
 ――これからがある。
 未来はまだ続いている。だから、と家族になれる未来がどこかにあるかもしれない。
 そんな未来に辿り着くまでは一緒に旅を続けよう。どんな困難であったって、手を繋いでいれば何も恐れることはないから。
「じゃあ、はい、ニア。こっち!」
 荷台の上に立っていたリヴィエールが手を差し伸べる。ぎゅっと手を繋げばそのまま持ち上げられるようにニアは荷台へと引きずりあげられた。
「んへへ、じゃあ、未来へ向かって出発っすよ!」
「ほら、リヴィ。慌てたら落ちるよ」
「ニアが支えてくれるっすよね?」
 勿論、とそう肩を竦めてからニアは笑う。これから旅を続けよう。途方もない旅を――


PAGETOPPAGEBOTTOM