PandoraPartyProject

SS詳細

恋と咲くなら

登場人物一覧

マナセ・セレーナ・ムーンキー(p3n000356)
魔法使い
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛

 恋の話をしよう。いつか、思う存分にそれを楽しめる毎日が来ますように。
 マナセ・セレーナ・ムーンキーは伝承の魔法使いの一人だった。そんな伝承の別の――似通った誰かでしかない幼い少女は混沌世界へとやってきて、オデット・ソレーユ・クリスタリアの友人となったのだ。
 世界が平和になったら思う存分に恋バナをしようと約束をしたならば、それを叶えに行かねばならない。
 約束を果たしにやってきたオデットに「オデット!」と嬉しそうに飛びついたマナセが明るい笑みを浮かべる。
「恋バナをするのよね! ね! もしかして、言っていた!?」

 ――マナセ、この人が私の初恋の人なのよ。

 世界が終焉を迎えそうになっていた日、あの時にオデットはマナセと共に戦った。あの時、彼女の前にはがいたのだ。
 初恋の人、彼と向き合えばオデットはどうすれば良いのかも迷ってしまう。青い春の果てにどのようにして向き合えるものか。
 それに、分かっていたのだ。この初恋は実らないことだって。だからこそ「初恋を終わらせてきたの」とオデットは笑った。
「ん、え――」
 マナセが硬直してからオデットを見る。「お、おわ、おわら……終わらせ!?」と声を荒げた魔法使いにオデットは「声が大きい」と肩を竦めただろう。
「だ、だって、だって、だって! 終わっちゃだめでしょう!? 恋は!」
「ええ、けど。初恋の相手に告白をしたの。だから、初恋を終わらせに言ってきたお話をしましょうよ」
「う、ううううう、そ、それってええ……」
 実らなかったってことでしょうとマナセは叫ぶ。困った顔をしたオデットは一先ず座るようにとマナセへと促した。
 ちょこりと座った彼女が足元に視線をやってからじいと見つめている。足をぶらぶらと揺らがせてるマナセにオデットはミルクティーを差し出してから自身も腰を下ろした。
「元から九割断られるだろうと思って告白しに行ったの」
「え、ええ……」
「けれど、なんていうんでしょうね。初恋自体は終わらせたけれど、恋は継続してるのかも」
「んえっ!?」
 またもや大きく声を荒げたマナセに「マナセ、落ち着いてね」とオデットは窘める。視線を右往左往とさせてからマナセがわざとらしい深呼吸をした。
「え、ええ」
「告白をしたらね、……その、まだオデットのことをよく知らないから、知ってから返事をって言われて……。
 まあ、なんていうか保留よね。保留になった、けれど、初恋としてなのか、普通になのか、わからないけれど継続中なの」
「えっ、そ、それで!?」
「ふふ、それでね、あの……平和になったから二人で混沌でも見て回ろうかって話をしていてね」
 言い淀むオデットにマナセの瞳がきらりと輝いた。そんな素敵なこと! マナセがそう言いながら頬を朱色に染め上げる。
 オデットは旅人だ。けれど、異世界である故郷に戻るつもりはない。彼がこの世界で過ごすというならば、自分だって――
「ねえ、オデットはずっとこの世界に居て、彼と冒険をするんでしょう?
 普通の冒険者みたいに見て回るんでしょう? 食べ歩きをしたりおしゃれしたり、時々雨に打たれたり。
 物語だったら、きっと、そうよね、危ない目にあったオデットをが守ってくれるんだわ! ああ、なんて素敵なんだろう!」
 恋物語に焦がれるようにマナセがそう言った。本当に夢見がちな少女だ。まだ幼く、物語しか知らないだろう彼女のふんわりとした桃色の髪をわしゃわしゃと撫でまわしてからオデットは笑う。
「そうね。時々雨に打たれるし、その時は傘を買うわ。ちょっとだけ大きいやつ」
「相合傘ね!」
「それもきっといいと思う。それに、食べ歩きをして好きなものの話をするの。あれが好きだとか、これが好きだとか。
 思えばね、初恋の人って言ってもあんまり知らないかもしれない。この旅が互いのことを知るきっかけになるかもしれないもの」
「素敵っ。きっとね、彼のちょっぴり変なところも見つけられるわ。ほら、靴下を左右別を履いてしまうとか……」
「ええ、なあに?」
「そういう変な癖を見つけるのも一緒にいることの醍醐味だって聞いたの。も、物語でね!?」
 マナセは恋をしたことはない。小さな小さな魔法使いだ。オデットはおかしそうにころころと笑った。
 ――きっと、伝承なら、彼女のような小さな魔法使いは勇者に焦がれて叶わないのだろう。今、目の前にいるプーレルジールの魔法使いはその道を進んじゃいない。
 ただ、真っ直ぐにについて考えてオデットの話を聞いて頬を赤く染めてからにこにこと笑っているのだ。
「物語みたいな恋をできるかもしれないし、そしたらたまにはマナセに話に来ようかな」
「いいの?」
「もちろん! マナセが聞きたいって言ってくれるならいくらでも。それで、ちょっとだけ相談をしてもいい?」
 マナセは首が千切れてしまうのではないかという勢いで大きく頷いた。ぶんぶんと首を振った彼女にオデットがそっと耳打ちをする。
「――好いてもらうには、どうしたらいいと思う?」
 顔を真っ赤に染め上げて、緊張しながら問いかけたオデットにマナセが顔を上げてから頬に手をやって「え、えー!」と戸惑ったように叫ぶ。
「ど、どうすればいいのかしら? ! だ、だって、わたしも恋をしたことないもの。わわわわ、ふふふ、どうしましょう?
 じゃあ、彼の好きなお料理を調べて頑張って作るとか? どんなお洋服とか髪型が好きなんだろう!」
「髪型? そ、そうよね。そういうの……調べないとよね……。
 ふ、服も……うん、好みのタイプの服装とかあるのよね。調べなくっちゃならない……ッ」
「探偵みたいだわ! そ、う。そうよ。きっとね、彼が好きな服装をして、彼の前で笑うの。どっきりさせなくっちゃならないわ。
 そういうことじゃない? オデットのことを良く知らないって言って居たんでしょう? ってことは、オデットを知りたいってことだもの。
 たくさん可愛いオデットを見せれば彼のハートだってゲットよ! ぎゅっとしちゃいましょうよ!」
 意気揚々に告げる魔法使いにオデットは「ゲットだなんて」と楽しげに笑った。
「たくさんの旅の中で、困ったことも、いやなこともあると思うわ。でも、それも二人の物語には大事だと思うの!
 だから、オデット。たくさんたくさんたくさんお話を聞かせて! わたし、そしたらそれをちゃんと物語にして大事にするわ!
 本にして……た~~いせつにするの。二人の思い出が素敵な一冊になって、恋として咲き誇るその時を待っているもの」
 頬を赤くしてそう笑ったマナセに「マナセになら、そうしてもらってもいいかもしれない」とリンゴのような頬のままオデットは笑った。

 恋をすれば、人はおかしくなるのだというけれど。その時間だって素晴らしいものとなるだろう。
 まだ恋を知らぬ小さな魔法使いと、恋をした妖精の秘密の話。
 もう少しだけ続くに二人の笑みが咲き誇る。どうか、この日常と平穏がずっと続きますようにと、ささやかな祈りを込めて。


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