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それぞれの道へ

登場人物一覧

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
チャロロ・コレシピ・アシタの関係者
→ イラスト

「ずいぶん小さくなったな、チャロロ赤いの
 深い紫色の髪をわしゃわしゃとやりながら、イペタムはチャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
を見下ろしていた。
 この混沌世界を救う戦いの中で、お互い『少年』であったイペタムとチャロロ。
 イペタムの外見は、当時と随分変わっていた。
 時が経てば肉体も成長するものであるが、それ以上に、全てを出し切った各国の復興という波の中でいくつもの経験を経たのだろう。
 魔種が消えても悪そのものが消えたわけでないからと目つきの鋭さはそのままに、常に剥き出しだった魔獣特性としての角や爪をひっこめ物理的にも精神的にもと言っていい。
 一見すれば、ラサあたりで傭兵業を営むごく普通の青年にみえる。
 実際彼が暮らしているのは魔獣の隠里であるのだが、それを維持するために傭兵めいた活動をしていないわけでもないので、表現自体は間違っていない。
 つまりは、彼の変化はこの世界の変化とおなじもの……であった。
 対して。
 チャロロはあの時となにも変わらない。
 小柄で子供っぽい、けれど夢見る瞳の光をいつまでも絶やさないまっすぐな少年のまま。
 この世界にやってきて冒険者となった頃も、あちこちの世界で魔種や悪党たちに立ち向かった頃も、全ての世界の滅亡そのものと戦った頃も。そして、今も。
 機械の身体ゆえボディパーツを交換しなければ変化しないといえばそうなのだが、仮にまるごと交換したとしても彼は彼のままだろうと……イペタムは瞳の奥で想った。
 そう。
 彼は、ずっとずっと、まっすぐなままなのだ。
 きっとこれからも。
「オイラが小さくなったんじゃないよ。イペタムがでかくなったんだろ。それよりほら、差し入れ!」
 背負っていたリュックサックを下ろし、チャロロは中身をひろげていく。
 丸い缶詰をつまみあげ、イペタムが顔を左右非対称にしかめた。
「って、オイ。これペットフードじゃねえか!」
「塩分少なめで健康にいいって言うからさ」
「フツーの犬じゃねえんだから、そんなの関係ないんだよ。つーか、犬基準で考えるなら大型犬で考えろよ。これ小型犬用だろ」
「でかい缶詰ってこと?」
「ちげーよ、馬車いっぱいのキャベツとかニンジンとか、野菜をひたすらごろごろ食わせるんだよ」
「へー、詳しいんだなイペタム」
 本当に感心したという顔で頷くチャロロに、イペタムは調子が狂ったという顔でほほをかく。
 他に並べられたのは防寒具だとか遠い国のお土産だとか……。
「ったく、余計なお世話なんだよ。ガキから施されてるみたいじゃねえか」
「え? けどオイラたちって、たしか同じくらいの年齢だろ?」
「見た目の話だよ」
 そう言いながら受け取るだけ受け取るあたり、イペタムも色々と経験を重ねたのだろう。
「ま、とりあえず来いよ。こんなところで立ち話もナンだからな」

 はじめはまだ空の明るかったチャロロの訪問も、あれやこれやと話しているうちに気付けば日が暮れ、空の月がくっきりと見えるほどになっていた。
 世界を救う戦いが終わってからの話。もっと昔の話。故郷の話。未来の話。
 実際に交わしてみれば、二人の間には沢山の話題があった。
 刃と爪ばかりを交わしてきた彼らも、もしかしたら最初からこうしていた道があったのかも……なんて思えるくらいには。
 物珍しそうに、そして遠巻きに眺めていた魔獣たちも徐々に近づき、気付けばイペタムとチャロロを囲むようにしてリラックスした姿勢をとっている。
 焚き火を囲む二人と、それを更に囲む魔獣達。
 不思議な光景だが、チャロロは何も臆することがない。そう、彼は世界の何処へ行ってもこうだ。
「で、どうするんだ。元の世界に帰るのか?」
 話題は次第に、ウォーカーたちの帰還の話へと移っていた。
「オイラは元いた世界が心配だし会いたい人もたくさんいるから帰るつもりだけど……この混沌世界にも会いたい人はたくさんいるし、行き来できたらいいな」
「贅沢言うんじゃねえよ。ま、一度はこっちに来たんだから、そのうち二度目もあるんじゃねえのか?」
 しらねーけどと、大雑把に言うイペタム。
「けど、『カミサマ』とやらはそんなに甘くねぇぞ。オレにもお前にも、苦労ばっかり与えやがった」
「どうかな。おかげでこうやって話せる。『カミサマ』がどう関わったか分からないけど、いまのオイラたちは、信じて進んできた結果だって思う」
焚火で燃える炎のように、チャロロはまっすぐだ。
「だろうな……。オレは、向こうの世界より大事なものができたからな。ここに残ることにするぜ」
 魔獣達を見回すイペタム。チャロロも『そうだろうと思ったよ』と頷いた。

 そして日が昇り、別れがやってくる。
、イペタム! 次に会う時はイペタムよりもでっかくなってやるからな!」
「どうだかな。オマエは変わらないと思うぜ、赤いのチャロロ
 二人は手を振り、背を向け合った。


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