PandoraPartyProject

SS詳細

お茶会へいこう

登場人物一覧

ステラ(p3n000355)
ステラ(p3n000367)
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星

 町から町へ、馬車がことこととならされた道を進んでいく。
 高級な馬車ゆえに揺れが無く快適とはいえど、御者がひとりと乗員がひとりではさすがに持て余す。
 だから、ということなのだろうか。
 ステラ (p3n000355)が御者台につながる窓をひらきっぱなしにして、細長く切った干し肉をぐいっと突き出してきた。
「ん、たべて」
「え、いやでも……」
「一人で食べるのは、さみしいわ」
 座席に膝をのせ、本来とは逆向きに座るステラ。昨今では同じ名前の存在と区別するために白きステラなどとよばれる彼女は、幼い顔を窓から突き出すことで身を乗り出すと、アルム・カンフローレル (p3p007874)の頬に干し肉をぐいっとおしつけてきた。
「わ、わかったよ。食べるって。けど手綱はもってないとだから……」
 もたもた(?)するアルムに、ステラは「んー」と小さく唸ってから口を開いた。
「じゃあ、こっちをむいて」
「え?」
 言われたとおりにするアルムの口に、干し肉がぐいっと差し込まれる。
(多分これって、世の男の子とかが喜ぶシチュエーションなのかもしれないけど……)
 なんかむりやり干し肉を口に突っ込まれるのは、『あーんして』のシチュエーションとだいぶ遠い気がする。
「ちゃんと噛まないと、だめよ」
「わふぁっへふ……」
「お水ものんでね」
 そう言って出してくる水筒が、またもアルムの口にねじ込まれた。
「ぷはっ……! も、もう大丈夫だから。自分でできるから!」
「そう……?」
 窓から顔を突き出したステラがアルムの顔を見上げている。悪戯心など微塵もない、純粋100%のの真心だとひとめで分かる顔だった。
(これをとがめたら男じゃないよな)
 別に男らしさを目指してはいないけど。
 アルムの中で、なんとなくこれは黙って許すコースに定められた。
「今日は、黒ステラのところに、行くのよね」
 自分も小さく切り取った干し肉をもぐもぐとやってから、ステラがアルムへ問いかける。
「そうだね。どれくらいぶりだろう……結構経ってるなあ」
 星から降りた滅びの怪物を打ち倒し、世界の平和を勝ち取ってから……結構な時が過ぎた。
 知り合って間もない当時はお互いに距離感を計り合っていたようなところのあったアルムとステラだが、今ではなんだか一緒にいてあたりまえのようにすら思える。
 実際干し肉ねじ込んでくるし。
(人との関わり方も、時間が変えてくれるってことなのかな……?)
 そういう経験がないわけじゃないアルムである。
 ひとはしらの神としていくつもの世界を見て、時に支え時に壊し、それらを覚えてはいないけれど、『なるべき神様』の形はもう持っている。
 とはいえ、神様というのは遠い道のりだ。
 誰だってそう。今すぐ誰も永遠に悲しまず幸福な世界を作れと言われてもうまくいかないだろうし、物理的に世界を作るだけの力をもったとしてもそれを適切に管理しきるなんてことは不可能に等しい。それを永遠に近い年月をかけて学び不可能を可能に限りなく近づけていくのが神……なのかもしれない。
 実際、完璧なアクアリウム作りには一生モノの年月が必要なんて話も聞くし、世界規模となれば常人何回分の人生が必要かわからない。
 けれど。
(目の前の女の子を泣かせない世界なら、作れる気はするんだ)
 神を名乗るにはまだ遠くとも、世界を救った英雄である。
 彼の杖のひとふりは涙を拭うことだろう。
 星を象った耳飾りにそっと触れて、アルムはほっこりと笑った。
「それに、しても……」
 御者台に首を突き出す姿勢を維持することに決めたらしいステラが、肘をついて頬に手を当てる。
「わたしたち、いろんな所へ行ったわね」
 世界の広さを教えるよと、そんなことを言った気がするが。
 実際に教えるとなるととんでもなく時間がかかると知ったのは、アルムがカムイグラと覇竜領域の往復チケットを手配した時だった。
 ポータルを使っていけばすぐなのだが、それはただ『違う場所』が見えるだけだ。
 遠い場所へ馬車を進め、船で旅をし、時には危険な荒野を抜けることも、世界の広さを知るには必要なことであった。
 まあ実際。海の底の町だとか空の上の古代遺跡だとか、長らく前人未踏とされていたような場所があちこちにあって、アルムたちがそれを全て巡りきるのはまだまだずっと先になるのだろうけれど。
 けれどこの旅が必ず、自分が『神様らしい神様』になるために役立つことだけは実感としてわかっていた。
 知って、感じて、考えて。触れて、交えて、また考えて。魔種を倒してまわるよりずっとずっと難しいことが世界中にあると知れたし、解決という言葉が最後を意味していないことも知れた。
 もしかしたら神様ってやつになるのは、世界を救うより大変なんじゃないだろうか。
(けど、大丈夫だよね……)
 時間はきっと、沢山ある。ステラも自分も。気の遠くなるような『先』の話なんて、考えなくたっていいだろう。
「もしかして、だけれど……」
 ステラがアルムの顔を覗き込んでいる。
 馬車の中から御者窓を使って乗り出して身をよじっているので結構たいへんな姿勢なのだが。
「難しいことを、考えていたの?」
「……そうかも」
 『あなたの世界を私にきっと見せて』と、いつかステラは彼に言った。
 それはともすれば、永遠のような未来を約束してという意味だったのかもしれないが。
 同時に、アルムなりの『世界への答え』を求められてもいる。だから、ずっとずっと、考え続けるのだ。
 良いことも、悪いことも、そして、悪いことをしたひとのことも。

「遅い!」
 腕組みをして仁王立ちをしていた少女が、開口一番声を張った。
 ステラ (p3n000367)。区別して黒きステラと呼ばれている存在である。
 彼女はアルムたちとは違って、ひとつの場所に家を建ててのんびり暮らすというまさにスローライフ的な毎日を送っていた。
 いくつもの星をわたっては滅ぼしてきた少女なので、また星々を巡ったりあるいはアルムたちのように世界中を回ったりするのかと思いきや、案外ひとつところに留まるタイプであったらしい。
「三人でお茶会をするっていうから待っていたのに。あの庭園からすぐに飛んでくるんじゃなかったの?」
 つんとすました顔で顎をあげるその態度は、白ステラとはまったくの真逆だ。
 背丈はアルムのほうが高いはずだし、御者台からなので物理的に高所なはずなのに、なんだか見下ろされている気分にすらなってくる。
 帽子を脱いで台に置くと、アルムはひょいと馬車から降りた。
 そして扉を開いて白ステラに手を貸しつつ、黒ステラのほうを見る。
「頼めば使わせてくれるだろうけど、俺たちのいまのスタイルはこうなんだよ」
 馬車を顎でしめすアルムに、ステラはふうんと声をあげた。なんだか納得したらしい。
「ま、いいわ。わたし、待つのは苦手じゃないほうだから。準備もできてるのよ。こっち」
 くるりをきびすを返して歩いて行く黒ステラ。
 手をかりて馬車から降りた白ステラが、アルムの顔を見上げる。
「ねえ、怒らせちゃったかな」
「大丈夫。あれ、嬉しいんだとおもう。照れ隠しなのよ」
 さすが『同じ存在』どうし、よくわかっている。
 二人は手を取り合ったまま、お茶会の庭へと歩き出すのだった。


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