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『晴』

登場人物一覧

澄原 水夜子(p3n000214)
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣

 ――澄原 水夜子は轟々と音鳴らす風と激しく降り荒む雨の気配に気付いてから「そういえば」と口を開いた。

 てるてるぼうずってあるじゃないですか。
 ほら、天気が悪いなあって時に、願掛けで作るでしょう。小さな子供とか、そういうの好きですよね。
 紙をぐしゃぐしゃに丸めて輪ゴムとか、そうそう。それでね、形を作ってからお顔を書くのですけれど結構不格好になるんですよ。
 私ですか? 私も、絵心は余りなかったのかな。いえ、ペンが悪かったんだと思います。今は結構な画伯であるとも自負していますし……。
 まあ、兎も角、てるてるぼうずですよ。ね、てるてるぼうず。あれって、普段からよく作る子供って居ますよね。幼稚園なんかでして居るのかな。
 それの話なんですけどね。あれって、気味が悪いと思いませんか?
 そもそも、人の形をしているのですよ。頭を作って、顔を描いていますから。きちんと眼や鼻、口を用意して人間を作り出しているのですよね。
 何らかの依代のようなものだって? いいえ、そうじゃないんですよ。そうじゃなくって……何だか新しく人柱のようなものを用意している気になりませんか。
 だって、依代って言うのはその中に入れ込むではないですか。そうではないんですよね、てるてるぼうずって宙ぶらりんではないですか。
 頚の部分で宙に縛り付けてぶらぶらと揺れている……それって、生きては居ませんから依代の形にもなりませんよね。
 何だか、無邪気に作るにしては恐ろしいなあって想ったりしませんか。真逆、願掛けのための人柱を作り上げているだなんて。
 そんなことを想ってルーツを調べるようになったのは最近なのですけど、幼心でそうした事を考えて居る時点で私ったら何も変化をしていないんだなあと思って。
 いえいえ、本当になんとなくそんな事を思っただけだったのですよ。これって、希死念慮とかでもなくスレた事もだっただけだとも言えるのですけれど。
 人柱と言えば、他にもありますよね。神にその身を捧げるだとか、そういうの。まあ、人間が死ぬというのはタブーですから、それを正当化するためだったのかもしれませんけれど。
 え? てるてるぼうずの話をしたかったわけじゃないんですよ。ちょっとした話を聞いたので、それの前置きだったというか……。
 聞いて下さいます? 聞いて下さいね。愛無さんなら屹度「面白かったよ」なんて簡単に返してくれると思って言うんですから、ちゃんと聞いてくれなきゃイヤですよ。
 ヤケに念を押すって? ふふ、当たり前じゃないですか。だって、お話って言うのは聞いたら駄目なパターンもあるんですよ。
 そういうものだった時に恨まれちゃ困りますから念を押す事にしているんです。愛無さんは私と一緒に呪われてくれるかも知れませんけど、怪異にとっては順番とかどうでもいいでしょうし……。
 ええ、では、話しますね。
 都会から、田舎への引っ越しというのは大体は何らかの事情が付き物です。スローライフを求めてだなんて口では言いますが、大体が都会の喧噪に飽き飽きしただとか自然の中で暮らす必要性が出た、はたまた田舎に連れ戻されたというものでしょう。
 それでもその事情が存在するのは大体の場合は養育者です。何せ職歴への変更が生じますから。ですから、子供からすれば何だかいきなり何もないような場所に引っ張り出されて引っ越しをさせられたとなるわけです。
 はい、そうですよ。愛無さんに花丸です。子供からすればどうして引っ越してきたのかも分かりませんし、その村に存在するしきたりや暗黙のルールなんてもの、全く関係ありません。
 ですから、そう言う子供って見てしまうんでしょうね。
 学校で明日は雨が降ると再三言われたそうです。転校したてであった子供は余所者扱いですから誰も口を利いてくれません。
 翌日、本当に雨が降りました。如何した事か皆が赤い傘を差すんです。
 おや、可笑しいな。傘は指定だったのかな。子供は不思議に思いながらキャラクターものの傘を差して家路を辿ります。勿論、一人です。
 赤い傘の行列はひとつひとつ減っていきますが、その子はその背中を追掛けるように歩くのです。皆、何故か固まって歩き、家の前でさようならと挨拶をして去って行くのです。
 明日も雨だと担任は言っていたなあと子供は考えました。もしも、傘が指定の品であるならば母親にお願いをしておかねばならないと。子供は聡明ですね、そんなことを思ったのだそうです。
 ですが、まあまあ、子供というものはどうして赤色でなくてはならないのか、などと気になってくるのですよ。不思議ですしね。
 ですから、赤い傘の最後の一人についていくことにしました。その子供の家は学校に近かった筈ですが、どうしてか全員を送り届けるようにぐるりと村を回っていたのだそうです。
 子供が着いてきていることに気付いたのでしょう。その子、仮にAさんとしましょう。Aさんは「どうして着いてくるの?」と聞いたそうです。
「だって、皆が赤い傘を差しているし、Aさんの家は学校の近くでしょう。どうして回るの?」
「お当番だからだよ」
「お当番?」
 その子供が聞き返せばAさんは「何も知らないなら教えてあげるから、その傘を閉じて赤い傘を使って頂戴」と言いました。
 どうやら彼女は予備の赤い傘を持っていたのですね。
 勿論ね、恐いですよね。怪しいですし、ですが、好奇心に負けてしまってから傘を受け取りました。ぽつぽつと降る雨の中を、子供はAさんと一緒に歩きます。
 どうやら引っ越してきたばかりの子供の家に向かっているのですね、Aさんは送り届けてくれる予定だったのでしょう。
「お家に連れて行ってくれるの?」
「そうよ。お当番だからね」
 お当番とは何でしょうか。子供はそんなことを思って彼女に問いました。途中で、傘を忘れたという村人と出会いました。
 Aさんはその村人を無視しました。村人はAさんの姿に気付いてから「どうして傘を持っていない」と怒ったのだそうです。いいえ、二人は傘を差してましたよ?
 だからね、予備の傘が無い事を怒ったのでしょう。……家に送り届けられてから傘をそうとした子供にAさんは明日もそれを使って頂戴と言いました。
 子供は分かったと頷いてから、家の中に入りました。屋内では泣いていた母親が「赤い傘を借りれて良かった」と言うのです。
「赤い傘は予備を貰ったの?」
「うん、予備だって。Aさんが、お当番だったから」
「そう。よかったよかった。明日、赤い傘をお当番さんに返しに行きましょうね。
 だから、約束してね。雨の日は必ず赤い傘を差してお外を歩くのよ。絶対に約束して頂戴ね」
 赤い傘を買ってきたという母親はキャラクターの傘を納屋の中に仕舞い込んでからそう言いました。母が泣いていた理由も分からず、不気味でしょう。
 翌日ね、学校に行くと昨日擦れ違った村人が死体で見つかったという話が囁かれていたんですって。
 真っ赤な布に包まれて、てれてるぼうずみたいに軒からつるされていたのだそうです。
 ……んふふ、良く分からないって。ええ、そうでしょう。だって、普通に伝聞ですもの。
 でも、思いませんか? 赤い傘って、てるてるぼうずのスカートみたいでひらひらで美しいでしょう。
 もしかして、赤い傘のようになぁれって吊されてしまったのでしょうか。雨の中を走るだなんて、悪い人。


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