PandoraPartyProject

SS詳細

密やかで大切な、秘密の結婚式

登場人物一覧

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペンの関係者
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ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペンの関係者
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 2024年2月某日、幻想国・エアツェールング領内。
 ヨゾラの住む館……の地下にある迷宮へ、密かに足を踏み入れる者達がいた。
 領主であり特異運命座標のヨゾラ・エアツェール・ヴァッペンと、その親友達……鉄騎種の青年ライゼンデ、縫いぐるみ姿の旅人ファゴット、そして……ヨゾラの恋人兼妻である白猫獣種令嬢のフィールホープ。

 4人それぞれが大荷物を抱え、領民達にも領地の猫達にも発見されないよう気を付けて地下迷宮に入り、進み……辿り着いた先には、地下迷宮の改築された一室。
 到着し、一息ついて……彼等は各自の準備を始める。
 その前に、この領地の主ででもあるヨゾラが、声を上げる。その号令に、他の3人も頷いた。
「無事に今日を迎えられた……さぁ、頑張るよ! 僕等の悲願、の為に!」


 彼等が地下迷宮で秘密の結婚式を挙げる事にしたのには理由がある。
 まず、2023年のシャイネンナハト……ヨゾラがフィールホープに告白し、晴れて結ばれ、結婚した。
 その事は親友達は勿論(領地の猫達……その中には一部の執政官も含まれる……経由で)執政官や領民達にも広く知られている……のだが。

 夫婦になった2人は、結婚はしたが、のである。
 来年2024年に挙式しようかと思っていたら甘かった。バグ・ホールが各地に出現し、世界崩壊待ったなし。
 幻想国内でもバグ・ホールの出現が確認されていて、物語領もいつ脅威が出現するかしないかさえわからない、という状況で大っぴらに結婚式を挙げるのは憚られた。
 世界が平和になってからの挙式も案に上がったが、その頃に全員が生き残れているとは限らない。
 親友全員、特にヨゾラは前線にも赴く特異運命座標。1ヵ月先に何か起こってもおかしくはないのだ。

 親友達4人揃って、館の屋根裏部屋で頭を悩ました結果。
 『いっそ地下でこっそり……』という案から、ヨゾラの館の地下迷宮を用いての秘密の結婚式を行う事にしたのだった。


 地下迷宮の一室……数日かけて、ヨゾラ達4人が改装し続けた部屋。
 木の扉でできた部屋の入口を、そっと開ければ……地下とは思えない、柔らかな光が照らしてくる。
 清らかで優しい明るさのある空間……に迷い込んだのでは、とも思えるような、教会に似せて作られた一部屋。
 左右の壁には、美しいステンドグラスの窓が複数。木でできた長椅子が等間隔に、真ん中の白いカーペットの通路の左右に配置され。カーペットの通路を進んだ真正面には、ひときわ大きいステンドグラスと祭壇がある。
 
「まぁ、今日は僕等4人だけだけどね! 執政官さん達まで呼ぶと猫達にばれちゃうし」
 教会(部屋)内の最終チェックと色んな準備を行いながら言うファゴット。

「そうだな……2人とも、本当は地上の教会で大々的に行いたかっただろうに」
 年始からの危機さえなければ……そう思ったかのように、ライゼンデは機械の右手をぐっと握りしめる。
 それでも、彼等は今のこの段階で結婚式を行っておくと決めたのだ。この先何があってもいいように。

 粗方の準備と確認を終えて。ファゴットとライゼンデは互いに頷き、別室へ向かう。
「ヨゾラ達、新郎新婦の待機部屋で着替え終わってるかな?」
「先日のリハーサルと同じなら、そろそろ終わっているはずだ。俺達も別部屋で着替えるか」
「だね、特にライゼは忙しいよねー! 牧師役も兼任だし」
「忙しいのはファゴットもだろう……子ども達ができる役割を1人で複数、はさすがに多すぎる」
 親友夫婦の結婚式の為に。2人もまた、それぞれの役割を担う為に着替えと支度を行うのだった。


 地下迷宮の一室、優しく清らかな結婚式場で。
 シャイネンナハトに結ばれた2人が、秘密の結婚式を行う。

 秘密の結婚式に列席者はいない。4人以外の誰にも明かしていないのだから。
 祭壇に位置する、金髪碧眼の牧師……役のライゼンデが、開式の辞を述べ。

 新郎の入場……白いタキシードに身を包んだヨゾラが祭壇の前までゆっくりと歩く。
 銀髪青眼、整った顔立ちの彼は、礼儀正しい貴族青年を思わせるようである。

 そして、新婦の入場……ベールを下ろし、白いウェディングドレスに身を包んだ獣種姿のフィールホープもまた祭壇へと歩く。
 彼女の後ろで、花嫁のドレスの裾を持って歩きつつ花びらを撒いている(トレーンベアラーと他の役を兼任している)ファゴットの姿があった。

 4人揃って讃美歌の斉唱、そして聖書の朗読と祈祷。
 幻想国の聖書って他の国のと違いはあるのかな、とファゴットは思った。

 そして、誓約と指輪の交換……なのだが。
 ここで全員が一瞬固まる。
 何たる偶然、4人揃って誓約以降の台詞を覚えきれていなかったのだ。
(あ、これまずい。とりあえず、牧師さんライゼ何か言って言って!)
 結婚指輪を載せたリングピローを持ったまま(リングボーイも兼任した状態で)待機しているファゴットが、祭壇で固まっているライゼを目配せで促し。

 本来の結婚式と細かい所が違っても良いか、と思い直して。
 牧師役のライゼが、真剣な面持ちでヨゾラとフィールホープに問う。
「新郎新婦。【星空の友達】の中で結ばれた2人よ。
 健やかなる時も、病める時も、如何なる事があろうとも……互いの可能性を信じ、支え合い、愛し合う事をここに誓うか」

 ヨゾラとフィールホープは、一度互いに目を合わせてから…同時に頷き、宣言する。
「「誓います。いつまでだって、僕達私達は親友で恋人同士で夫婦です」」

 指輪の交換……ほっとしたファゴットが、役目を果たす為に指輪を載せたリングピローを差し出し。
 ヨゾラからフィールホープへ、フィールホープからヨゾラへ、結婚指輪を嵌める。

 ヨゾラがそっと、フィールホープの白く透明なベールを上げて。
「愛してるよ、フィールさん」
「ええ、ヨゾラ様」
 互いに顔を近づけ……そっと、ウェディングキスを交わしたのであった。

 その後は結婚成立や結婚証明書等色々終えて、ライゼンデが閉式の辞を述べて。
 新郎新婦が互いに手を組み、バージンロードを歩いて退場。
 数分後、部屋の外から鳥……ヨゾラのファミリアーである……がバサバサと飛んできて。
 ファゴットが縫いぐるみの両手で丸、を作ったら。

「……お疲れ様でしたー!」
 親友4人だけの、秘密の結婚式は……概ね無事に終わったのであった。


「……という訳で! 結婚式お疲れ様でしたーかんぱーい!」
「「「乾杯!」」」
 既にはっちゃけているヨゾラが、ジュースを入れたグラスで乾杯の音頭をとっている。
 後片付けを終えた後は、地下迷宮の別室(こっちは館の一室を模した洋室風)で4人揃ってお疲れ様会を開いていたのだった。

「皆、本当にありがとう! おかげで楽しい秘密の結婚式を迎えられたよ!」
 全員にお礼を言ってから、ジュースを飲み、小さなサンドイッチを少し食べるヨゾラ。
 式の時と比べると気が抜けた、リラックスした様子だったりする。

「ええ……準備の日々も今日も、大切な思い出になりました。
 あの一室で式を挙げるのが私達だけ、というのは嬉しいけど……少し寂しいですね」
 ヨゾラの隣で、ジュースを一口飲んでからヨゾラに甘えるようにもたれかかるフィールホープ。
 今日は式の間もお疲れ様会でも白猫獣種の姿である。

「なら、今回は秘密の結婚式だったんだし、次は公式な結婚式をやろうよ!
 空の見える地上の教会で、領民や猫達等も呼んで楽しくね!」
 ジュースを飲み、サンドイッチや軽食を食べ……普通に食べられるのが不思議である……楽しそうに提案するファゴット。
 その後のパーティもぱーっと楽しもうよ、と言ってる辺り思いつきなようだ。

「やるなら次は本職の牧師を呼んでくれ。牧師役は楽しかったが、大勢の前でやるのは……。
 それに……公式な結婚式なら、今度は列席者として祝福したいからな」
 ジュースの香りや味を楽しみ、皆の話を聞いてからライゼンデが言った。普段はクールな彼だが、親友達との一時に気を許し微笑んでいる。

「公式な結婚式……良いね、やりたい! フィールさんは大丈夫?」
「大丈夫です、ヨゾラ様。その時はまた新たなドレスに身を包みたいものですわ。
 明日からは依頼も仕事も頑張ります。花嫁として、結婚式や新たなドレスの費用は稼がなければ、ね」
「待ってフィールさん、無茶しないで!? 結婚式やドレス等の費用は僕が全部払うからー!」
「いいえヨゾラ様、費用は私が全額……といきたい所ですが妥協して両者半々で分かち合いましょう。私は貴方の妻となった身、これからは夫婦の必要な話も色々と……」
 ヨゾラとフィールホープは、夫婦で新たな結婚式やこれからの事を語り合い。

「2人とも、幸せそう。次に結婚するのは誰かな、楽しみー!」
「ファゴット……ヨゾラの思い付きで始まったブーケトス、受け取ったのが俺なのは覚えてるだろうが」
「勿論、覚えてるよー! ライゼも美形だし性格良いし、素敵な人との結婚報告が楽しみだなぁって」
「言いたい事はそこではない……ブーケの受け取り、お前はわざと手加減しただろう」
「えー? そんな事ないよー?」
「親友が全力か加減したか位は動きでわかる! いいか、次の結婚式こそは全力で受け止めに……」
 夫婦2人を眺めていたファゴットとライゼンデもまた、雑談でわいわい盛り上がるのであった。


 【星空の友達】。
 ヨゾラ、ライゼンデ、フィールホープ、ファゴットの4人で組んだ、親友4人のチーム。
 その内2人が結婚しても、さらなる変化があっても、4人が大切な親友である事に変わりはない。

 地下迷宮の教会に……そして、外へ出て見上げた星空と混沌世界に約束を。
 この先何があっても、4人はずっと大切な親友で……戦い終えて混沌が平和になった後も、永遠に仲良しなのだと。

おまけSS『余談……秘密の準備と、長い長い秘密の話』

●余談1:重要で大変だった、秘密の準備
 秘密の結婚式、その準備段階には数日かかっている。

 地下迷宮の一部探索と安全確認、改築する複数の部屋の選定(地下なので換気状態も確認し調整)と間取り・仕上がり予定の確認を行い……ステンドグラス等の物理的な飾りや作成必要な材料を揃えた。

 改築において、魔術を要しない作業はライゼンデがメインで執り行い、ファゴットが高い所の作業と力仕事を手伝い、フィールホープが装飾等の細かい部分を支援。

 地下である事を感じさせない光や明かりは、ヨゾラが混沌世界で学んだ魔術を用いての作業となる。
 触媒として綺麗な石を用意し、ステンドグラスの外側や天井、ろうそく等に設置。石を星や日差しと見立てた光の魔術を行使して照明代わりとした。なお、触媒への魔力補充は大体ヨゾラが行っている。

 領民や領地の猫達に内緒で密かに迷宮に入り作業を続ける事数日、教会・新郎新婦の控室・客人の控室(ライゼ達が着替えたのがここ)と周辺の通路の改築が完了。
 その後、タキシードやドレス等の衣装や必要な道具を運び込んで着替えやリハーサルを行い、結婚式当日にお疲れ様会用の食糧等を持ち込み、そして式本番に至るのであった。

 ちなみに、今回の改築部分をその後どうするかはまだ考え中であるらしい。

●余談2:4人だけが知る秘密の話
 秘密の結婚式後、ヨゾラ達4人で行い盛り上がったお疲れ様会。
 先に記していた内容以外の、秘密の話をここに軽く記しておこう。

 会話の途中、『親友4人でずっと仲良く一緒にいる方法』の話題になった時。
 ファゴットが思い立った事がきっかけであった。
「秘密も隠しごともなしで……は難しいけど、話せることは話していくのが良いのかなぁって」

 明るく話すファゴットに、ヨゾラ達3人は……それぞれが思い悩んだ。
 フィールホープは口元に手を当て思案し、ライゼンデは一瞬思い詰めたような表情になり。
 少しの間、沈黙が訪れる。


 ファゴットが何かを言う前に、真っ先に『話せること』を切り出したのはヨゾラであった。
「実をいうと……元世界でのトラブルに巻き込まれたせいでですごめんなさーい!」

 元世界(この場合はヨゾラの出身世界を指す)では今の体……貴族青年の体を奪おうとする『禁呪紋』なる存在に襲われ追われた事。混沌世界に召喚されなければ間違いなく奴に捕まるか、高台から落ちて死ぬか処分されていた事。暗き炎のような禍々しい魔力を纏う『禁呪紋』を想起するので、明かりのない暗闇が怖かった事……。
 それらを話したヨゾラは、他の3人に慰められつつ「暗闇が怖い事は先に言え、今回の作業中も一部は暗かっただろうが」等と色々突っ込まれたのであった。


 ヨゾラが秘密を明かした後、フィールホープは何かを決意し……そして話し始める。
「私も……秘密にしていた事、話さなければなりません。過去も経緯も、本当の名前も」

 フィールホープの出自は、幻想国の下級貴族と白猫獣種の母の間に生まれた子。
 父は母と彼女を愛しているが、父の家は彼女が幻想貴族の家の一員だと名乗る事を断じて許さず。
 父が親族達と交渉した末、母ともども家を出る事・出自と本当の名を明かさない事等を条件に生存を何とか許されて。
 母と2人、父と離れて暮らし……父は小さな館を用意し、会いに来てくれるし衣食住等の支援もしてくれたが……父の娘として公に名と出自を明かせない苦しみと悲しみは何年も続き。
 それでも幻想貴族の子である誇りを胸に、母に名付けられた偽名を使い、獣種令嬢と名乗り続けたのだ。

「幻想国がこの先どうなろうと、私は胸を張って生きていくと決めているのです。
 獣種令嬢……【星空の友達】の一員であり、物語領領主の妻、フィールホープとして」
 だから、これからは公にフィールホープと……いずれは正式にヨゾラの妻として、フィールホープ・エアツェール・ヴァッペンと名乗りたいと。本当の名も一緒に明かしたが、父母と親友3人以外には語らぬ秘密の名として胸に秘めていくとも決めていた。
 明かした秘密も、名乗りたい名も、他の3人は快く受け入れた。
 いずれフィールさんのお母さんにも……お父さんにも会いに行きたいね、と告げるヨゾラに、彼女はそっと微笑んだのだった。


 「2人が秘密を明かしたのに、俺が明かさん訳にはいかないだろう。……重い話になるが構わないか」
 思い詰めた……しかし強い決意を抱いた表情で、ライゼンデは3人に話し始める。

 海洋商人の子であるライゼンデ。厳密には、海洋商人夫婦に養子として引き取られた身である。
 それ以前の真の出自は、フィールホープとも似たところがあり……彼女とはまた別の幻想下級貴族の息子として生まれ、幼少期までは幻想で育った。
 どうやって騙し続けていたのかは今となってはわからないが、実母は自身が鉄騎種である事を夫…ライゼの実の父に隠していた。
 機械の右腕を露わにして生まれた少年は母に「その腕は病気だから隠すように」と言われ、ずっと右腕を隠して離れの館の中で過ごしていたが……ある日突如訪れた父に右腕を暴かれ、鉄騎種と鉄帝国を嫌う父にある事ない事言われ罵倒され、終いには「幻想貴族に鉄騎種など要らぬ」と怒り荒ぶる父によって母共々勘当されたのだ。

 その後は幻想での地獄の日々。家とも呼べぬおんぼろに住み、周囲から蔑まれ、石を投げられ、金も食べ物も心の支えの本さえも奪われる。やっと見つけた食べ物は腐っていたのか彼を苛み、激痛の中で生死の境をさまよった。
 終いには母の手によって奴隷商人に売られ、馬車で運ばれている最中に襲撃を受け横転……投げ出され、諦めかけた時に助けてくれたのが善良な海洋の商人、後の養父だった。

 愛されて、今の名を付けられ、養父母と彼等の実子である義弟と平穏な幸せな日々を送り……しかしそれでも彼の中には常に幻想国への愛憎が渦巻いている。
 幼き日に読んだ本に書いてあった伝説への憧れ、勇者の国としての幻想国が変わってくれることへの期待と……後から知った幻想と貴族の腐敗に対する怨嗟と憤怒が。

「今でもこの国への複雑な感情は燻り続けている……だが、ヨゾラ達との日々は俺にとっては癒しであり、心の支えになっている」
 ヨゾラ達親友3人や物語領の人々や猫達との暮らしは彼にとって幸せな日々であり、ヨゾラの活躍は絵本で見たような勇者や冒険者を想起させ。ヨゾラに頼まれて手伝った依頼では驚きの出会いもあり。
 双竜宝冠事件では思う事はあったものの……結果として解決し、ヨゾラ達も無事帰ってきた。

「愛憎抱く子息の真名……秘密の名はヨゾラ達にしか明かさないし、他で口外する事もない。
 俺はヨゾラ達の親友、海洋国から幻想国に訪れ過ごす旅行客ライゼンデだからな」 

 長くなってすまん……と謝るライゼンデに、ヨゾラとファゴットは泣きながら抱き着き彼を撫でる。慌てるライゼンデに、フィールホープもまた肉球付きの手でそっと頭を撫でて「お互いに前を向いて行きましょう、ライゼ様」と微笑む。
 彼等と出会えて、本当に良かった。そう思いながら、彼は3人の前だけで涙を流したのだった。


 ライゼンデの打ち明けから少し経過し……彼を抱きしめたままのヨゾラが、そっと笑ってこう告げる。
「僕も皆と過ごせて、本当に幸せだよ。
 この体の本当の持ち主……魂だけで行方不明になった『彼』も、こんな風に幸せに過ごせてるかな」

 ヨゾラの本体は魔術紋という魔術であり、魂を失った貴族青年…『彼』の体に憑依し、その体を維持し続けている。
 『彼』の魂は身体を切り離して二度と戻らぬ旅に出て、数か月後には魂すら観測されなくなったのだという。
 それだけなら、ヨゾラが知る事として済む話……の、はずだった。

「大丈夫だよ。ずーっと幸せに過ごしてるよ。……というか、ここにいるよ!
 とっさに憑依する事になった熊の縫いぐるみごと混沌に召喚された僕がそうだからね☆」

 空中に浮いて可愛くポーズを決めるファゴットに、3人全員あっけにとられて。
「「「ーーーーーー!?」」」
 ……声を重ねて、地下迷宮に響く程に驚いたのだった。

 その後、『彼』の元世界での名を知るヨゾラとファゴットのひそひそ話で、ファゴットが『彼』本人である事を確認。
 ちなみに、ファゴットはヨゾラが自身の体に宿る魔術紋だとわかっていた(元自分の体なので見間違えなかった)が、魂だけでいなくなった『彼』と元世界で会った事がなかったヨゾラはファゴットがそうだと気付けていなかったのだった。

 元の世界でも国の貴族達は腐敗していた事。貴族の子として頑張ったけど両親も親世代も腐っていてどうしようもならなくて疲れてしまった事。館の隠し屋根裏部屋に、自身の体に宿されるであろう魔術紋への手紙と贈り物を隠してから魂だけで出奔した事。
 魂だけで一人彷徨う中で出会った人々、彼等と一緒に過ごした魂達の旅路。
 『魂食い』なる巨大な怪物に襲われ、逃げる最中で旅仲間の少女から預かった熊の縫いぐるみに憑依してしまい、直後に混沌世界に召喚された事。

 話の途中で、ファゴットはこう呟いた。
「召喚直後は悩んだ事もあったけど……ヨゾラを見た時、僕の行動は報われたんだなって思った。
 この世界で君が強くなって、領地も得て親友もできて……今日、大好きな人と結婚式も挙げたんだからね!」
 だからこれからもずっと幸せに過ごしてほしい。僕も仲良く過ごせたら嬉しいな!
 そう笑うファゴットの中に、ヨゾラに似ている銀髪青眼の青年の笑顔を見た……気がすると、他の3人は口をそろえて言うのだった。


 ファゴットの魂だけでの冒険話にも花が咲く。そこから4人での冒険にも話が広がる。
 【星空の友達】4人の会話は、地上において夕日が沈み、星空が広がる夜まで続いて……地上へ戻った後、星空に約束をしてから4人で館へ戻ったのだった。

 ……その姿を、じっと見ている目がある。近くの木々や草むらの中、暗闇に光る眼差しが、沢山。
 4人の姿が見えなくなれば、にゃあおという鳴き声と共にがさがさと出てくる、猫、猫、数多の猫!
 ヨゾラ達のこっそり行動を(木々や草むらで昼寝しながら)探っていた物語領の猫達は、思い思いの場所へと歩いて走って帰っていく。

 後日、ヨゾラ達の秘密の結婚式は、猫達経由で執政官達や領民達が知る公然の秘密になってしまったのだった。
 ヨゾラ達がそれを知るのは、どの位後になるのか……それはまた別のお話。


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