PandoraPartyProject

SS詳細

世界は興奮でできていた

登場人物一覧

コンバルグ・コング(p3n000122)
野生解放
シラス(p3p004421)
超える者

 鉄帝の首都。ラド・バウへ続く大通り。
 ここはいつも賑やかで、華やかで、そして派手だ。
 『シラス VS コンバルク・コング』
 その巨大なタイトルが踊る上には、いつどうやって撮影されたのかシラスのキリッとした表情の写真とコングのドラミングする写真が大きく映し出され並んでいる。
 道行く人々はそのポスターと――その前を歩くシラスを交互に見てぎょっとした表情をしていた。
 女性などに至っては口に手を当て、黄色い声を押し殺している。
 そう。もはや彼は、シラスは、鉄帝のスター――A級闘士となったのだった。

 シラスがどこから始まったのかと言えば、ランク外ゆえに門前払いされた頃からだ。
 誰も知らぬ、誰にも知られぬ無名の闘士であったシラスは、ランクを徐々に徐々に上っていき、ついにはB級の最後の壁とも言える闘士を倒しA級資格を獲得するほどの変化を遂げた。
 その頃にはもう、彼を知らぬ者はそういないと言ってよくなった。
 ラド・バウまで続く道を歩けば、彼にサインを求める子供や大人が次々と現れる。
 それを適当にさばきながら、シラスはいつものようにラド・バウの控え室へと入っていく。
 が、そこで、思わぬ人物と鉢合わせた。
「…………シラス。来たか」
 部屋全体が圧迫されるかのような存在感。全身から燃え上がるようなオーラを感じ、思わずシラスの額に汗が滲む。
 それはA級闘士のひとり、コンバルク・コングであった。
「オマエ、ツヨクナル。ソウ、ワカッテイタ……」
 言葉少なく、しかし力強く、コングはシラスへと振り返る。
 ここは俺の控え室だぞと言っている場合ではもはやなかった。
 座っていた椅子からコングは立ち上がり、今だ入り口に立ったままのシラスのもとまでゆっくりとだが歩いてくる。
 そして、瞳に賢者の知性を宿し手を出した。その手は、シラスの肩にそっと置かれる。
「オマエと戦う日を待っていた。オマエの瞳の中にある強さへの執着を、今日は見せてくれると信じている」
 そしてコングはシラスとすれ違い扉から出て行こうとした。
「コング」
 その背に、振り返らずに呼びかける。
「安心しろ。見せてやるさ。俺がこれまで培った……手に入れた、すべてをな」

 観客席は満員御礼。それぞれがコングとシラスのグッズを掲げ、時にシャツを誇示している。
 そんな会場にアナウンサーの声が響く。
『夢のカードがついに実現しました! ローレット・イレギュラーズ屈指の実力者にして新世代の勇者筆頭! シラス――!』
 その声に会場がドッと声をあげる。
 歓声であり、興奮の声だ。
『対しましては――野生解放、大自然の覇者! コンバルク・コング!』
 ほぼ同時にシラスとコングは会場に姿を荒らした。
 それぞれを呼ぶ声が観客席から混ざり合って響き渡り、ひとつの巨大な音楽の如く渦を巻いている。
 熱狂だ。熱狂している。
 誰もが振り向かず、誰もが通り過ぎたスラムのガキが今、まるで世界の中心にいるかのように。
 会場の緊張が高まり、興奮が高まり、それらが絶頂を迎えようとした時――ゴングが、ついに鳴らされた。

 速攻をかけたのはシラスの方だった。
 魔力を込めた身体で地面を蹴り、コングへと一気に距離を詰める。
 対するコングは超高速で接近してきたシラスを確実にとらえ、巨大な平手で撃ち弾いた。まるでテニスボールでも弾くような速度で吹き飛ばされたシラスは闘技場の壁に激突。クレーター状に壁を破壊すると思わず血を吐いた。
 その姿に会場の悲鳴と興奮が混ざり合った声があがる。
(パワーもスピードもB級とは段違いだ。けど――)
 シラスの目に炎が宿る。
 壁にめり込んだ身体を無理矢理剥がし、そして再び蹴った。
 今度は直線ではない。ジグザグに走りコングの目を欺き、そして振り込まれた拳を紙一重で回避する。
 直撃すれば常人が死ぬような拳を、だ。
 そして今度は、シラスが攻撃を撃ち込む番だった。
 防御姿勢を取ったコングを四方八方から殴り、蹴りつけ、手数を増やし攻撃を重ねていく。
 その動きは常人には見えないほどに洗練され、魔法的に加速されていたが、A級闘士の試合を見慣れたコアな観客たちには見えている。
 そう、シラスが必殺の一撃を打ち込もうとし――それをコングがカウンターしようと拳を握ったさまを。
「そこだ――!」
 ドゴンという爆発ともとれるような音と共に、コングの拳がシラスの顔面にめり込む。
 と同時に、コングの顔面にもシラスの蹴りが打ち込まれていた。
 ゆらり――と動く二つの影。
 倒れたのは。
 なんと。
 コンバルク・コングの側であった。

『勝者! シラス――!』
 アナウンサーの叫びと共に、会場は興奮に包まれた。
 満足そうに倒れたコングが、笑い始める。
 シラスもつられて笑ってしまった。
 世界は、まだまだやれそうだ。そう思える、一瞬だった。


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