PandoraPartyProject

SS詳細

大切な日の、大切な贈り物。

登場人物一覧

ステラ(p3n000355)
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星

 待ち合わせは好きだ。
 楽しい気分になれるから。
 わくわくできるから。
 そう、彼がやってくる、その瞬間まで。
「――ステラ」
 彼にしては珍しい、呼び捨ての口調。
 私服姿でやってきた彼の姿を振り返って、手を振る。
 彼もまた、手を振った。
 わくわくした気持ちが、楽しい気持ちへと変わっていく。
 その日は、彼の世界でこう呼ばれているらしい。
 グラオ・クローネ。

「この前は馬車の旅だったから、今回はショッピングやカフェ巡りなんかどうかと思って」
 照れ笑いをしながら頭をくしゃりと撫でる。アルムは目の前の少女にそっと手を出した。
 出された手の意味を一瞬だけ考えてきょとんとしたステラは、ややあってからその手をとった。
 そして二人は歩き出す。
 ゼロ・クールたちの商店街。『プリエの回廊(ギャルリ・ド・プリエ)』に敷かれた石畳の道を。
 穏やかなオレンジ色の街灯で影を作りながら。
「どこか行きたい場所はある? わたし、この辺りのお店なら分かるわ」
「そんな」
 アルムはハッとして首を振った。
「今日はステラの……じゃなかった、ええっと、ステラが行きたい場所はないかな。一緒に行きたいんだ」
「ん」
 ステラはアルムの顔を見て微笑むと、通りの先を指さした。
「この先に雰囲気のいいお店があるの。そこへ一緒に行きましょう?」

 からんからん――というウェルカムベルの音がした。
 ゼロ・クールの店員が慇懃に頭を下げて、ステラとアルムを出迎える。
 奥の窓辺のお席へどうぞ。そう案内された二人は席へと歩いて行く。
 店内には変わった音楽がながれていて、どこかアルムの気分を落ち着かせた。音楽の種類に詳しくないアルムでも、金管楽器の音なのだなということくらいはわかる。
「ステラ、この店に入ったことは?」
「ううん。まだないの。初めてよ。一緒に来たかったの」
 その言葉にどきりとする。
(僕と……ってこと……かな……?)
 尋ねる勇気は湧かなくて、けれどどこかくすぐったい。
 そんなアルムの顔をみて、ステラはまた微笑んだ。
 二人そろって席に座る。大きなソファに、二人並ぶようにして。
 そして二人して、コーヒーを注文した。
 やがて運ばれてくるコーヒーの落ち着く香り。
 アルムがややうっとりとしていると、ステラが声をかけてきた。
「ねえ、アルム。その手に持っているもの……」
「あっ、いや……そうだよね、さすがにわかるか」
 あはは、と待ち合わせの時からずっと手にしていた花束を軽く掲げた。
 いくつもの花が集まった、フラワーアレンジメントだ。
「グラオ・クローネの日には、大切なひとにプレゼントを渡す習慣があるんだ。だから……どうぞ、ステラ」
「わあ」
 ステラは花束を抱き寄せるように手元へやると、『良い香り』と小さく呟いた。
 その姿に、またどきりとする。
 アルムのなかで、もう彼女は友人以上の、旅の仲間以上の存在になっていた。
 けれどそれを伝えるより先に、彼女にはもっともっと、沢山の経験をして欲しい……そう思っていた。
「ねえ、アルム。私からもいいかしら」
 だから、そんな風に言われると思っていなくて、アルムはきょとんとしてしまった。
 ステラは小さな鞄から箱を取り出す。これまたちいさな箱だ。それをアルムにそっと差し出してくる。
「私からも」
「え……」
「大切な人に、贈り物をする日……でしょう?」
 まさか自分に贈り物をされるとは思っていなかったのか、アルムはしばらくめをぱちくりとさせた。
 そして箱を受け取り、そっと開いて見る。
 そこに入っていたのは、ひとセットのピアスだった。
「どう、かしら」
 顔を上げてみれば――探るような、どこか不安そうな眼差しがある。
「誰かにプレゼントをするのは、初めてなの。だから……」
 その言葉にまた、どきりとした。
 そして言うべきことを、頭の中から引っ張り出す。
「ありがとうステラ! う、うれしいよ! ええと、それから……」
 それから、何だろう?
 沢山ある言葉の中から、慌てていくつかを取り出した。
「ピアス、大切にするよ。それとステラのこと、僕も――大切に思ってる」
 言ってしまった、という気持ちと共に、後には退けないぞという気持ちがわき上がった。
 だから、言うのだ。
「世界を救ったら、また戻ってくるよ。そして、一緒にいよう。約束だ」
「うん……」
 そっと手を出したステラが、小指を立てる。
「やくそく。生きて、帰ってきてね」
 その小指に、アルムは自分の小指を絡めた。

 帰ってきたらすべて伝えよう。
 自分の、この想いを。


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