PandoraPartyProject

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弾正とアーマデルの話~ミステリと言うんじゃねえ~

登場人物一覧

冬越 弾正(p3p007105)
終音
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

「つまり」
 弾正はごくりと唾をのんだ。吹雪吹き荒れる中、陸の孤島と化した温泉旅館のロビーで、容疑者たちが勢ぞろいしている。誰もが緊張する中、アーマデルは言葉を発した。
「犯人は、この中にいない」
「いないのか?」
「いない」
「ちょっと待って、じゃあ! クラインを殺したのは!?」
 長い髪の女がヒステリックな声を上げる。クラインというのは、血の海に倒れていた男の名だ。この旅館の二階の角部屋、そこで事件は起きた。
「トリックを説明しよう」
 アーマデルが女へ顔を向けおちつくよう視線で訴えた。もっとも彼の瞳は薄布で隠れているので、通じなかった。
「やっぱり、みんな殺されてしまうんだわ! わたしたちもうおしまいよぉ!」
「こ、こんなところにいられるか、俺は自分の部屋に戻らせてもらうぞ!」
「おれもれもー!」
 あっというまにロビーには弾正とアーマデルと女将だけになった。しょんぼりしているアーマデルへ弾正が詰め寄る。
「クライン殺害事件のトリックだが」
「ああ、説明しよう」
「だいじょうぶだ、わかっているぞアーマデル! この絶唱探偵冬越弾正の虹色の脳細胞にかかれば、すべての可能性を排除することなど朝飯前だ!」
「……」
 アーマデルはさらにしょんぼりしたが、元来鉄面皮なので顔には出なかった。弾正はヒートアップする。
「犯人は現場へ戻るという。つまり張り込んでいれば、犯人が捕まえられるという寸法だな? 安心してくれ。この日のために非戦を積んできた。宣言しておこう、変装、罠設置、忍び足、穴掘七箇条!」
「それは犯人が使う系スキルじゃないか? 弾正」
 心外だという顔の弾正は、変装を使用してのけた。光って回って音が出て、弾正の姿が変化する。チェック柄のスーツ、インバネスコート。いつもの光源が変化して杖とパイプに変化する。
「鹿撃ち帽もほしいな」
「光の輪と干渉するからむずかしいところだ」
「そんなこと言っていたらROOはできないぞ弾正」
 アバターにステータス付加効果がついているゲームは危ない。最強を求めると気が狂ったコーディネートをする羽目になる。全身が雑草ムシャムシャくんに包まれたりする。もしかしたら好きでやってるのかもしれないが。
「落ち着こう、弾正」
「俺は十分落ち着いているぞ。現場には練達製の監視カメラを仕掛けてついでに練達製の林檎ウォッチと同期させて、と、これでいつでも監視カメラの映像を見れるぞ」
 行動はクレバーだが俺の話を少し聞いてほしいとアーマデルは思った。
「さあアーマデル、いまのうちに容疑者たちのアリバイを調べよう!」
 三十路とは思えないほどお肌つやつやの恋人の姿に、うん、もう弾正の気が済むまでつきあうかと、アーマデルはやさしい気持ちになった。弾正は女将から旅館の宿帳を借りて、どこからともなく取り出した手帳へ転記していく。
「順番に部屋をあたっていこう。ん、順番に?」
「どうした、弾正」
「『順番』だ、アーマデル! この殺人事件は続くぞ! 危険が危ない!」
「どういうことだ弾正!」
 弾正のあとを追いかけ、アーマデルも走り出す。長い廊下にふたりの足音が響く。
「クライン氏の頭文字は『K』、呼み方はイタリアではカッパ、つまり、クライン氏の正体は河童……ところでこの温泉旅館の煽り文句を思い出してくれ」
「『座敷童に会えるかも? 幸運旅館の温泉でまったり』」
「そう、座敷童、頭文字は『Z』だ」
 関係なくないかそれ、とアーマデルは思ったが口には出さなかった。弾正がすっごく良い顔してたからだ。
「クライン氏の事件は始まりに過ぎない、KからZまで、悲劇の連鎖がつながることになる!」
 中途半端だし、クライン氏はカオスシードだったが? 宿帳にそう書いてあるし、転記したばっかりだろう弾正。死体を検分したときも、別に頭に皿はなかった。もっというと、クラインの頭文字がKになるのはドイツ語圏内の話だし、クラインはふつう「C」で始まるのでは?
 そう思ったアーマデルだったが、いちいち突っ込むのはやめにしておいた。さっさと自分が真相を話してしまえばいいことだからだ。アーマデルは弾正を押しとどめようとして、勢い余って壁ドンした。弾正が頬を染めて視線を逸らす。
「あ、アーマデル、その、約束通り俺は自分が左のつもりだが……いや、こだわりすぎるのもよくないな……アーマデルがそれを望むなら俺も男だ、覚悟を決めよう」
「いま右や左の話はしていない、いいか弾正。この事件のトリックは……」
 口を開いたアーマデルの横を、渦中の人クラインが申し訳なさそうに歩いていく。
「被害者!?」
「生きている、だと!?」
「あ、自分、予行演習で死体役をやってただけなんで……そこを発見されたうえに、お二人があれよあれよと怪事件にしてしまわれただけで……」
「なんの予行演習だ?」
「マーダーミステリーです」
「えっ、気になる、くわしく」
「俺たちも参加してかまわないか?」


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