PandoraPartyProject

SS詳細

いつか、きっと

登場人物一覧

ロニ・スタークラフト(p3n000317)
星の弾丸
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

 さくさくと新雪を踏む音が耳朶を打つ。
 日が昇る前の早朝は一層昏く、底知れぬ恐怖を覚えるものだ。
 ロニはまだ星が見える早朝の空を見上げていた。
 しばらくすると次第に空が淡い色を帯びてくる。
 紺青でも青でもない、薄紫とオレンジが混ざるこの暁の光がロニは好きだった。
 はぁ、と白い息を指先に吹きかける。
 流石に早起きをしすぎただろうか。鍛錬をしようにもまだ皆、夢の中だ。起こしてしまっては非番の奴らが可哀想である。もう少し、庁舎の訓練場をあるいてみるかと、ロニは身体を捻った。

「おはよう、ロニ」
 振り向いた瞬間、思ったよりも近くで人の声がしてロニは跳ねる。
 声を出さなかったのは行幸といえよう。
 ロニは視線を上げて声の主、ライアンを見つめた。
「おはよう。悪い、起こしたか?」
「問題無いさ。それより、何かあったのか?」
 ライアンはグランヴィル小隊のまとめ役である。指揮官はティナリスだが、彼女が来るまで隊を仕切っていたのはライアンなのだ。だから、人の気配にも敏感で、同室のロニがこっそりと部屋を抜け出したのにも気付いていたのだろう。
 心配するような瞳がロニを写す。ライアンとは幼馴染みで、昔からこんな風に心配をしてくれていた。
 だから、ライアンには隠し事なんて出来なくて、それが少し気恥ずかしい部分もある。
 感情や考えを強引に踏み荒らされるわけではない。
 ただ、知られていることがむず痒いのだ。同時に安心でもある。

「……色々考えてた。でも、纏まらなくて」
「そうか。お前は昔から小難しく考えるからな。無鉄砲そうに見えるのに」
「おい、一言余計だろ? まあでも、俺はライアンみたいに強くなれないし、賢くもないからな。あ、卑屈になってるとかじゃなくて。その、冷静に分析した結果だから」
 ライアンはロニの言葉に耳を傾けた。
 誰かの意見を聞き入れるには、自分を見つめ直し、己が今どうあるのかを知る必要がある。他者から見た否定は簡単だがロニの心を傷つけてしまう刃でもあるのだ。
「俺はさ、昔っからくよくよしてて。考え込んでしまうだろ? 今回の戦いでもそうだ。ティナリスはきちんと終わらせたのに、俺はまだ彼女に掛ける言葉に迷っているんだ」
 ロニは手をぎゅっと握り眉を寄せる。
「終わって良かったな、なんて言えるわけがない。俺が父親を殺したんだ。済まなかったと謝った所で、ティナリスの絶望や悲しみは無くならない。どんな風に言葉を紡げばいい……」
 ロニが考えた末に出した答えをティナリスは否定などしない。真正面から受け止めるだろう。
 だからこそ、何を伝えればいいのか、どんな言葉を尽くせばいいのか分からなくなるのだ。

 心を預けられるライアンにだって、上手く伝えられないのに。
 どうしてティナリスに言葉を掛けられようか。

「……っくし」
 長く外に居たロニは耳や鼻が赤くなっていた。
 ふっと笑みを零したライアンは「とりあえず」とロニを庁舎の中へと引っ張る。
「部屋へもどるぞ。そのまま風邪を引かれても困るからな」
「ああ」
 身震いをしながら腕を擦ったロニはライアンと共に部屋へと戻った。

 ぱちりと部屋の灯りがつく。同時に温かな風が部屋の中に広がった。
 ライアンの魔法である。長く温めるにはストーブの方が良いが、こうやって一瞬だけ温かくするのにはライアンの魔法が丁度よかった。
「ほら、朝食までにはもう少し時間があるから、寝た方が良い。寒い中で考え事をしていると良くない方向へどんどん進んでいってしまうからな」
 ロニをベッドに寝かしつけたライアンは上から布団を被せる。
 そのままライアンはベッドに腰掛け、ロニの頭を撫でた。
「お前が出す答えを、俺は否定しない。ティナリスがどのような答えを返そうとも、お前はその言葉を受け止めるだろう? それは決別ではない。前へ進むための道なんだよ。だから大丈夫だ」
 ライアンの言葉を聞いて、ロニは目頭に熱いものがこみ上げる。
 寒い所から急に温かい場所へ移動したのもあって、涙腺が緩んでしまったのだろう。
「そう、いう……とこだぞ。お前」
 ライアンの優しさが胸に染みこんでいく。彼の前では虚勢を張ることも出来ないのだ。

 ロニの為に部隊を裏切るような真似をした。結果、ロニは助かり隊長であるパーセヴァルが死んだ。
 その責をロニが負うのなら、自分とて同罪であるとライアンは考えていた。
 ライアン自身はこの戦いで区切りを付けた。
 だから、未だ懺悔の中にある幼馴染みが、自らの答えを出すまでライアンは見守ると決めてる。
 ロニが心からの笑顔で、歩んで行けるように、その背を守りたいと願うのだ。
 ライアンは聞こえてきた寝息に、ふっと目を細めた。


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