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決意の朝

登場人物一覧

ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣

 冷たい朝の気配にヴェルグリーズは目を覚ます。
 毛布の中から出るのは苦労するが、今日だけは何か胸騒ぎのようなものがして起き上がった。
 リビングへと向かえば、カーテン越しの光を受けて佇む『空』の姿が見える。

「どうしたんだい? 今日は早いじゃないか」
「……父さん。何か変なんだ。すごく嫌な気持ちが膨らんでる」
 胸を押さえて眉を寄せる空へ、ヴェルグリーズは駆け寄った。
「何があったんだい?」
「あいつを、灰斗を殺さなきゃって……俺の中で何かが叫んでる」
 泣きそうな顔で嫌だと首を振る空をヴェルグリーズは抱きしめる。
 空と灰斗は対になる存在である。灰斗の抑止が空の宿命。
 つまり、灰斗側に異変が起きようとしている恐れがある。

 ヴェルグリーズは空を抱きしめる腕に力を込めた。
 彼は『友人』を殺したくないと本能に抗っているのだ。
 もしこれが仮に、ヴェルグリーズ達が空を『刀』として扱っていたのだとしたら、本能のまま友人を斬り殺していたに違いない。
 空がこんな風になるまで抗っているのは、ヴェルグリーズ達が人として育てたからだ。
 人の心を持ち、大切だと思う存在の為に空は自分の力を制御しようとしている。

「いやだ。父さん……」
 ぼろぼろと涙を零す空を落ち着かせるため、ヴェルグリーズはソファへ座った。
 まだ立っている空の手を引いて隣へ座らせる。
「大丈夫。大丈夫だよ、空。もし、君が本能に逆らえなくなったら俺が止めてあげる。君はとても大きな力を持っているけれど、俺達の子供なんだ。親というものは子供のためなら何だって出来るんだよ」
 その言葉に空はほぅと息を吐いた。それは安堵の溜息だ。
 強張っていた空の身体から力が抜ける。何よりもヴェルグリーズの言葉は安心できたのだろう。
「うん、ありがとう。父さん……」
 一気に力が抜けて眠気が襲ってきた空の身体がぐらりと傾ぐ。
 それをしっかりと抱き留めたヴェルグリーズは、空を背負い子供部屋へと運んだ。
 ベッドの上で健やかに眠る空を見つめ、ヴェルグリーズは愛おしそうに彼の頭を撫でる。
 掌に伝わるぬくもりに心の底から湧き上がる愛情が広がった。

 終焉の兆しは空のような精霊達にも影響を与えるのだろう。
「俺達が、守らなきゃ……」
 空を起こさないように小さく零れた声には、星の輝きを帯びた決意が込められていた。


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