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ステラとアルムの二人旅

登場人物一覧

ステラ(p3n000355)
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星

 冒険がしたいって、言っていたよね。

 アルムのそんな言葉を切欠に、ステラとアルムの二人を乗せた馬車はゆっくりとプーレルジールの北を目指し進んでいた。
「こうして静かに進んでるだけっていうのも、なんだね。何かお話しでもしようか?」
 御者台に座っていたアルムが振り返ると、ステラは『そうね』と口元に手を当てた。
「アルムとは、沢山いろんな話をしてきたから……改まって話すコトって、そんなにない気がするわ」
「そうかなあ?」
「たとえば……そうね……」
 ステラはかたかたと揺れる馬車の上で、うーんと暫く考えてから空を仰いだ。
 北の大地を目指しているせいだろうか、それとも季節がそうさせるのか。ぱらぱらと雪が降り始め、ステラはコートの裾を掴んで首をすぼめる。
「わたし、アルムの話が聞きたいわ」
「俺の?」
「うん。わたしの話ばかりしてきた気がするから、アルムのことをもっと知りたい」
 たしか……と指折り数え始めるステラ。
「アルムは食事とかお酒とか、地域の特色が出るものが好きなのよね。
 それにお菓子とか、ケーキとか、甘いものも。
 読書のお供のコーヒーも好きって言ってたわね」
「よく覚えてるね」
「わたしと話す時間も好きって言ってくれた」
 再び振り返るアルム。
 ステラは微笑みを向ける。
「わたしも好き。アルムとこうして話している時間」
「そ、そうかな」
 照れくさくなって前を向くアルム。
 そして暫くの時間が流れたところで、アルムはぽつりと言葉を漏らし始めた。
「そうだなあ……最近、気付いたことがあってね。俺自身のことなんだけれど」
「気付いたことってなあに?」
 背中越しに聞こえるステラの声に、頷く。
「俺には、使命があるのかもしれない。信仰を集めるっていう、そんな使命が。ひとや世界を守るっていう使命もね」
「それは……」
 ステラはどうやら何かを考えているようだった。
 暫く馬の歩く音と馬車の車輪の音が続く。
 どれくらい経っただろうか。ほんの僅かな時間だったようにも、アルムには思えた。
「それは、素敵な使命ね」
「そうかな。そうかも……」
 ええとね、とアルムは空に手をかざした。
 降り続ける淡雪が、手のひらに落ちて溶ける。
「ステラには、親近感があったんだ。『大いなるもの』の観測端末だったステラに出会って、似た存在だなって……そんなふうに思えてさ」
 使命を思い出し神を目指すアルム。
 使命から外れる勇気をもったステラ。
 その対比に、尊敬の気持ちを持ったこともある。
「わたし」
 ふと、ステラが声をあげた。
「わたしはね、この世界を守りたいって思ったとき……本当はとても不安だったの。
 わたしはこの世界のことをよく知らない。滅びを観測するための端末として地に降りて、それだけが使命だった私にとって、この世界はわからないことだらけだったの。
 『救うべき世界』なのかどうかも、本当はわからなかった」
「ステラ……」
 振り返るアルムに、ステラは微笑みを向けた。
「でもね、一緒に旅をして分かった。空が美しいこと。人が美しいこと。生きていることの素晴らしさ……。
 世界が滅んだら、そのすべてが失われちゃうって思ったら、それに抗いたくなったのよ」
 ステラは両手を組んで、祈るように額に当てる。
「今はね、そうして……本当に良かったと思っているの。アルムとこうして、冒険ができるしね」
「冒険ってほど、冒険かなあ」
 モンスターもさほど出てこないし、平和になったプーレルジールを北へ北へと旅しているだけだ。
 ステラにとっての初めての風景を見せてあげられたという意味では、とても有意義な冒険なのだけれど。
「ステラ、このまま……どこまで行こうか」
「そうね。もう少し。もう少しこのままでいたいわ」

 淡雪は馬車の幌を滑っておちて、轍が長く伸びていく。
 二人の旅は長く、そして静かだった。
 それが、幸せだというように。


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