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夢、あるいは現。もしくはそのどちらでもないもの

登場人物一覧

ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)
指切りげんまん
ヴィルメイズ・サズ・ブロートの関係者
→ イラスト

 亜竜集落ウェスタ。歴史の古いその場所には、それらを忘却しないために資料館のようなものが存在する。
 資料館、と言ってしまうと凄いものにも思えるが、実際には倉庫じみた埃臭い場所である。
 適度に管理はされているが本当に適度であり、しかしそれはウェスタが別に観光地ではないことを思えば当然であるのかもしれなかった。
「ふえっくしょん! うー、こんな所にあまり長居はしたくないものですが……いえ、しかしこんな所で私が咲き誇っているというのは、ある意味で芸術なのでは?」
 そんな冗談をとばしているのは『未来を託す』ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)だ。
 ヴィルメイズがこんな所にいるのには、それなりの理由というものがあったりした。
 それは先日ヴィルメイズが仲間たちと共に向かった『閻家』の隠れ里がきっかけであった。
 皆殺しにされたと思われた『閻家』。しかしながらそこには逃げ延びた跡があり、それは何処かに『閻家』の生き残りがいることを示していた。
 しかし今のところ『閻家』の手がかりは途切れていて、ヴィルメイズは自分のルーツかもしれない『閻家』を知るためにかつて『閻家』が居たというウェスタのこの資料館に手がかりを求めたのだ。
「これは……違いますね。雑草を食べて始める美容術……気にはなりますけども」
 雑多なものを詰め込んだせいか、何処に何があるか誰も把握していないのは困りものだ。
 今もヴィルメイズは適当な本の山にフッと息を吹きかけて、舞った誇りに「へくしょん!」とくしゃみをする。
「お、ウェスタの住人名簿? これは……んー……ダメですね。結構新しそうです」
 閻家がウェスタから消えたのはそれなりに前のことだ。少なくともそれ以前のものが見つからなければ意味がないし、見つけたところで閻家の手がかりになるかは疑問ではある。
 もっと何か、手がかりのようなものがあればいいのだが……。そう考えながらヴィルメイズは資料館の中を歩く。
「ん? これは……」
 閻家に関する記録。そう書かれた本を手に取り、ヴィルメイズは捲り始める。
 それはウェスタの一部に伝わる御伽噺である。
 昔々、『閻家』という舞踊で死者をあの世に送る役目を持つ家元に四本角の生えた男児が生まれたという。
 閻 魁命(えん かいめい)……魁(さきがけ)の命という意味を込めて名付けられた赤子はやがて美しい青年に成長するが
 その舞はあまりに強すぎる妖力が故に、生者さえ死の国に送ってしまったという。
 魁命はやがて心を悪に染め、罪のない多くの命を奪ったがため閻家の者達に討たれたと『伝えられている』。
 魁命は死の間際、遠い未来再び自身が生まれ変わることを予言し、絶命したという。
 ただし、この話は事実かどうかは確認されていない。
「これは……閻家にまつわる話ですね。以前調べて頂いた話とも一致します」
 恐ろしい話ではある。ヴィルメイズは拾われる前の記録など一切ないが、以前出会ったあの4本角のこと、そして隠れ里のこと……どれもお伽噺がある程度正しいのではと思わせてくる。
 しかし、この本にはそれ以上は記載されていない……まあ、記載されていても恐ろしいことではあるが、ひとまず本を置いて別の場所へ歩いてみる。
 ドアを開けた先。そこは白い壁の美しい、博物館じみた場所であった。
 本の置かれた場所とは違い絵の飾られたこの場所は、もしかするとなんだかんだ言いながらも博物館として運営しようとしていたのでは……と思わせるものがある。
 そんな場所を歩きながら眺める絵には、色々なものがある。竜種のようなものを描いたと思われる絵。昔の偉い人か何かと思われる絵。
 なんらかの想いの籠ったそれらを眺めているうちに、ヴィルメイズは「とある絵」に気付く。
「これは……まさか、閻・魁命……?」
 そう、それは4本角。記されたタイトルにもそう記されており、ヴィルメイズは絵という形ではあるが『忌み子の魁』閻・魁命に出会うことになった。
「……なんとなくではありますけども。私に似ている気がしますねぇ」
 そう、それは本当になんとなく出てきた言葉だった。けれど、あるいはそれがきっかけだったのか。絵の中の魁命が正気の無い瞳でほくそ笑んだ気がしたのだ。
 いや、気がした……ではない。笑っている……? しかし、これは絵だ。ならば、これは?
 ただの絵であるはずの魁命は、絵の中からその上半身を出しているようにもヴィルメイズには見えた。
 その恐ろしい光景に、しかし何かを感じるようにヴィルメイズはそっと手を伸ばす。しかし、その手は魁命には触れることは出来ずに。


「貴方は……貴方が、魁命様なのですか?」
「それを聞いてなんとする」
 魁命は、怪しげに……けれど愉しそうに笑う。その笑みには確かな深い闇が内包されていて、ヴィルメイズは答えがなくともこの人物こそが魁命であるのだと、そう気付く。
 しかし何故絵の中から魁命が? 先程から妙に静かで魁命の声がやけに響く気がする。
 何もかもが普通ではないのに、疑問に思っていないことをヴィルメイズは疑問に思う。
 ならばこれは夢なのか。そうではないような気も、そうであるような気もする。
 あるいはどちらでもないのかも。けれど、聞こえてくる魁命の声は鮮明だ。
「己はいずれ消えゆく運命よ。吾は……」
 ガタン、と。何か別の絵が傾くような音がしてヴィルメイズはハッとする。
 伸ばした手はそのままに、しかし魁命はそこにはいない。
 そこにあるのは、ただの絵。魁命が描かれている、ただそれだけの絵だ。
「夢、だったのでしょうか……?」
 しかし、振り返りそこにあった鏡を見たヴィルメイズは気付く。自分の着ていた服が絵の中の魁命と同じものになっていることに。
「夢、ではない……? なら、今のは……?」
 いや、幻か現かでいえば幻には属するものであったのだろう。
 しかし、しかしだ。ヴィルメイズは……何処か薄気味悪く暗い何かを、感じていた。
 それはもしかすると、ヴィルメイズの足元にわだかまる闇が……その姿を見せたものであるのかもしれなかった。

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