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登場人物一覧

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

 海洋王国にも冬がやってくる。比較的温暖な気候の港町も、雪がちらつく時期になった。屋内で本ばかり読んでいる妹の事は気には掛かるが、彼女にばかり構っては居られない。
 冬が来れば近海は安全ではあるが、遠方は凍り付くために、それなりの物資の動きがあるのだとは義父に教わった。
 将来は商人だろうと揶揄うような声音で言う彼にアリアは「無理かも」と唇を尖らせるのだ。町医者の父と補佐の母に育てられた事である程度の医学と薬学の知識はあったが、商いに関しては素人だ。
「学べばアリアなら何だって出来るよ」
「本当?」
「本当」
 アリアは義父の顔を見て「本当かなあ」と呟いた。彼の商品を確認し、買い出しの手伝いに行くのだ。羽織ったケープは義父が幻想王国で購入してきてくれた代物だった。
 アリアの柔らかな紫色の髪に良く似合う深いベルベッドのケープには可愛らしいブローチが付けられている。綺麗なブローチだと喜ぶアリアに「アパタイトという石だよ」と彼は告げた。
「宝石言葉というのがあるだろう? これにも願いが思って居る」
「何て言うの?」
「秘密」
「どうして」
 唇を尖らせたアリアに「恥ずかしいだろう」と彼は笑った。その顔に不覚にも胸が跳ねるのだ。ああ、なんて――なんて、愛おしい人だろう。
 アリアにとっては母親の再婚相手だ。それでも、恋心は膨れ上がった。幼い恋心は恋のいろはも何も知らない、ただの憧憬が混ざり合っているからこそ途轍もなく綺麗なものに思えたのだ。
 その榛色の髪も、穏やかで優しげな瞳も。大きな翼を揺らすその姿も、何もかもがアリアにとっては愛おしく、素晴らしいものにみえていた。
 リッツパークにまで連れてきてくれた彼のお陰でも何もかものない幸せな時間が過ごせたことも恋心が膨らむ理由だったのかもしれない。
「石の意味が知りたいなら、アリアが自分で調べてご覧」
「ええ、それで嫌な言葉だったらどうしよう」
「それだけはないと、誓ってあげる」
 彼は揶揄いながらアリアの頭を撫でた。大きな掌が心地良い。
 この恋心は仕舞わなくてはならないと分かって居るのに次第に大きくなっていく。
 その時にと呼ぶ事は出来なかった。いつまで経っても名前で呼んでいた。彼を義父であると認めることが嫌だったのは幼い恋する乙女の反抗心だったのかもしれない。
「アリア」
 呼ぶ声にはいと小さく応えてから、アリアは胸の痛みを隠して笑った。


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