PandoraPartyProject

SS詳細

だらだらと横になって過ごす時間

登場人物一覧

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!

 キドーというラベルの瓶が割れちゃった。
 道具をちょっとぶつけただけなのに、小さなヒビが入って液体がいっぱい漏れちゃった。
 瓶の中の液体が少しずつ白い紙の上に広がって。

 中身が無くなった瓶は、戻らなくなっちゃった。




 真っ黒な空の下、はらはらと雪が降っては大地を白く染め上げる。
 積もり積もった空からの贈り物、普段であれば良いものだと思うかもしれない。

 ……だが、今は。今だけは。
 キドーにとっては、最悪のタイミングの降雪。
 彼の懐を狙った賊からの一撃を受けて倒れた今、雪が降るのは少々……否、最悪としか言いようがない。
 しかも手練の一撃だった。通りすがりに、しかも殺気もなく一瞬のうちに胸をナイフで貫いて抜いているのだから。

(……あー……死ぬな、これ)

 黒の空を見上げ、動かぬ身体に雪が少しずつ降り注ぐ。
 まだ体温が残っているからか、雪はキドーの肌に触れればすぐに溶けて水となり、流れ出た血と混ざり合っていく。
 普段なら起き上がってすぐに止血するところだが、賊はいくつかの薬を混ぜた刃で刺してくれたものだから、身体が麻痺して起き上がることが出来ない。
 倒れてたった5分。たった5分の間だというのに、キドーは死を覚悟していた。

(まだ、頭が回るのが救いか。いや、言い方を変えれば死ぬ瞬間まで頭回るのか)

 急いで血を止めなければ死ぬことも解っているし、起き上がらないと雪に埋もれてしまうのも解っている。
 どうにか身体を動かしたいと思っていても、神経を狂わされては動かすものも動かせない。
 じわじわと流れる血で雪が溶けているのもわかっている。そのせいで血が固まらず、余計に血が流れていくことも。
 ただ、時間と共に身体が冷たくなっていく様子を感じ取り、最後の最後まで『考える』以外が出来ない。

 だらだらと横になって過ごす時間。
 言葉に、文字にすればふざけているのかと言われてしまいそうだと、思わず頭の中で笑う。

 確かにだらだらだ。血がだらだらと流れて。
 確かに横になっている。神経麻痺して動かないだけで。
 確かに過ごしている。動けず、何も出来ないだけで。

(……あー……)

 色々と頭の中で考えて、考えた。
 この状況をどうにか出来ないものかと、この状況をひっくり返せないかと。
 けれど無常にも時間というのは過ぎていくもので、血が止まることがなく追加で5分が経ってしまった。

(…………)

 少しずつ、考えることをやめたキドー。
 出血多量ゆえに酸素が脳に回らず、考えることもしんどくなってきた。
 それまで呼吸が出来ていた身体も脳からの信号が途絶えて、少しずつ止まる。
 やがて、大きく息を吐いたかと思えば……それから彼は息をしなくなった。


 ――真っ赤に濡れた冷たい雪のぬくもりに包まれて、強欲で狡猾な男は死んだ。

おまけSS『その後』

 瓶を割った道具は、廃棄処分。
 だって、大切な瓶を割っちゃったんだもの。

 危ない道具はちゃんと折って、曲げて、粉々にして。
 使える材料と使えない材料にちゃんと分けて。

 分別つけて、片付けた。


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