PandoraPartyProject

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月夜に紡ぐ愛

登場人物一覧

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂

 ――ねえ、ヨハネ。あなた本当は分かっているのでしょう。
   私が、もうどうしたって戻らないことを。

 指先に伝わるぬくもりを握り返したグレイスは、夫であるヨハネ=ベルンハルトを見つめる。
 この無辜なる混沌に来る前にグレイスの命は尽きた。もう随分と前の話である。
 ヨハネにとって妻の死は身を裂く想いであっただろう。
 何としても取り返したい命だった。
 グレイスを黄泉返らせる為なら、どんな犠牲だって払ってみせた。
 非道な行いや、策略を巡らせ、他人の命など駒の一部でしかなかったのだ。
 ヨハネには世界から絶対的な権限が与えられていた。
 だからこそ、友を裏切り、妻を黄泉返らせる道筋を紡ぐ事が出来た。
 それは、ヨハネにとって不幸であったのかもしれない。
 悲願への道を永遠に追いかけなければならないのだから。
 そして、ようやく実を結んだ妻の復活は、ヨハンナとレイチェルという二つの器に分かたれてしまった。
 ヨハネはそれを自らの子供として育てたのだ。

 雪降る夜に語り部として再会したグレイスとヨハネの生活は以前のような蜜月ではなかった。
 愛を囁けども、レイチェルの身体を借りていると強く思っているからこそ、口付けすら無いのだから。
 自分が育てた『子供』に情愛を向けることは難しい。
 それを一番分かって居るのは、自らがレイチェル達を育てたヨハネなのだ。
 だからこそ、完璧な形でグレイスを迎えたいと思っているのだろう。

 本当に仕方の無い人だと、グレイスは蒼い目を細める。
 普段は論理的で冷静な男が捧げる愛の重さ。
 成し得ることなど出来ないものを、追い求めてしまう、そのヨハネの純粋な心。
 それを感じれば、愛おしい想いがグレイスの心を満たした。

 もう十分に、愛を貰っていた。
 それにグレイスは『生前』の人生において満足していたのだ。
 ヨハネと歩んだ日々は、幸せであったと胸を張って言えるのだから。
 あの日、終わってしまっても良かったのだ。

 だから、この無辜なる混沌での日々は終わる前の瞬きみたいなもの。
 愛していると、紡ぐだけの時間はたっぷりとあったから。
 これからの朝陽は子供達に降り注がれるもの。

 ――ねえ、ヨハネ。来世ももう一度、傍に居てあげるから。
   どんな険しい道でも傍に居ると誓うから。だから、一緒にいきましょう。


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