PandoraPartyProject

SS詳細

橙色の魔法

登場人物一覧

ロニ・スタークラフト(p3n000317)
星の弾丸
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

 紅く染まる山の風景が好きだった。
 緑の木々の合間を縫って染まる赤と黄色の色彩を山の中腹で見つける。
 それを追いかけて登って行けば意外と広範囲に紅葉が広がっているのが分かった。
 視界を覆う紅葉の色彩に幼い少年ロニ・スタークラフトは目を輝かせた。
「おい、ロニ上ばっか見てないで足下気を付けろよ」
「分かってるよライアン」
 幼馴染みのライアンの忠告も聞かず紅葉の空ばかり見ているロニは、案の定石に躓いて転ぶ。
 突っ伏したまま仰向けになったロニは痛がるどころか笑っていた。
「すごいよ、ライアン! 寝転がったら紅葉がもっと見える!」
「……ふむ」
 ロニの嬉しそうな声にライアンも並んで寝転がる。
 ライアンが視線を上げれば、視界いっぱいに赤と黄色と空の青さが広がった。
「本当だ。すごいな……」
「だろー? 落ち葉のクッションもあるし、このまま寝てしまいそうだな!」
 少年達は笑い合いながら、しばらく青空と紅葉を見つめていた。

「なあ、ライアン知ってるか?」
「また何か見つけたのか?」
 ロニは変な知識を見つけてきてはライアンにお披露目をする。
 親しい友達とは秘密の共有をしたいという純粋な気持ちなのだろう。
「秋になると、何処かの山ではオレンジ色のまあるい妖精が現れるそうなんだ」
「何だそれ? モンスターか?」
 見た目のフォルムを聞き及ぶに、愛らしい少女の姿の妖精ではなく、ぬいぐるみのようなものらしい。
「それが秋になると、山の上からこう転がってくるんだって」
「山の上から……転がってくる」
 ライアンとロニは同時に山の斜面を見上げる。
 木々の間に薄らとオレンジ色の何かが見えたような気がした。
 少しずつ枝から枝へ飛び乗って、あるいは幹から幹へ駆け抜けて二人へ近づいてくるではないか。
「おい……あれは何だよ。ロニそのオレンジ色のまあるい妖精に出くわしたらどうなるんだ」
「幸運が訪れる……」
「すごい不気味に近づいて来るんだが、本当に幸運だけか?」
 しかも転がり方が顔の部分を時計回りに回転させながら滑ってくるタイプのやつだった。
「絶対にヤバいやつだろ、あれは!」
「うわあああ!」
 飛び起きたロニとライアンは我先にと来た道を全力疾走する。
 後ろを振り返ることすら怖くて、泣きながら二人は家に帰ったのだ。

 ――――
 ――

「そんな事もあったな」
 くすりと笑ったライアンにロニも「懐かしいだろ?」と目を細める。
 隣を歩くライアンはあの頃より随分と身長が伸びて頭一つ分以上の差が出来てしまった。
 ロニはというと成人男性にしては小柄な方で、未だに少年と間違われることが多い。
「子供の頃は二人して妖精を怖がってたって母さんも言ってたしな」
 懐かしい思い出話をしながら二人が向かうのはオレンジ色の妖精が出た山だ。
 あの頃は大きな山だと思って居たのに、大人になって来てみれば丁度良い散策コースだ。
「この辺を歩いたんだったか?」
「そうだな。この道を上に登っていったんだっけ」
 いつもの天義騎士団黒衣ではない。休日のラフな恰好で二人は山へと来ていた。

 子供の頃寝転がっていたと思われる場所へ座り込む二人。
 そこはあの頃と何も変わっていなくて、二人して童心に返ったような気持ちになる。
 だからふと見上げてしまったのだ。山の斜面を。
 そこにはあの時と同じようにオレンジ色のまあるい妖精が佇んでいた。
 ごくりと喉を鳴らすロニとライアン。
「本当に幸運が訪れるのか試して見るか?」
「まあ、危険なモンスターなら倒せばいいだけの話しか」
 ぐるぐると顔を回転させながら近づいて来る妖精を待ち構える。
 一匹目がロニの顔に飛びついた瞬間、小さくなって幼子の姿に変わった。
「これが、幸運……?」
 ライアンが冷静に分析している横からもう一匹がロニへとにじり寄る。
「きゃ、ぁ!」
 妖精はロニの脇をくすぐり、別の個体があやすように頭を撫でた。
 何匹もの妖精が羊の群れのように集まり、ロニの小さな身体をころころと転がす。
「おい、遠くへ連れて行くなよ」
 きゃいきゃいとロニと妖精の笑い声がライアンの周りを動いた。
 妖精はロニを自分達と近い大きさにして楽しんでいるのだろう。
 記憶があるのかは定かでは無いが、ロニも嫌がって居るわけでは無い。
 危害を加えるつもりも無さそうだとライアンは見守ることにした。

「……なあ、途中から俺寝てた?」
「いや、楽しそうだったぞ?」
 ライアンの意地悪そうな顔にロニは頬を膨らませる。
 妖精に遭遇した所までは憶えているがその後は全く記憶になかったのだ。
 何をしでかしたのかとロニは身を震わせる。
「なあ、ライアン教えてくれ……! 俺の身に何が!?」
「もう一回行ってみるか?」
「嫌だ! 怖い!」
 ぷるぷると首を振ったロニはライアンの前へ一歩出て、足早に山道を下るのだった。


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