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朝陽とミネストローネ

登場人物一覧

ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣

 指先に感じるあたたかな光で、ゆっくりと意識が浮上する。
 カーテンの隙間から零れた朝陽は紅葉の彩りを乗せて、ベッドの上まで差し込んで来たのだろう。
 そのぬくもりを確かめる様に緩く指先を動かしてみる。そうすると次第に身体に熱が周り、起きようという気になってくるものだ。
 剣であった頃はそうした目覚めも少なかったけれど、世界が精霊種を人として認めた頃には己の意識は既に其方へ寄って居たのだろう。
 人と同じように眠り、朝になれば目覚める。
 それは人の社会で生きて行くのには都合が良かった。
 夜半の暗闇の中で語り合うのも悪くは無いけれど、人はそれを幾夜も続けていられないのだから。

 ゆっくりと顔を隣へ向けて、まだ寝入っている彼女の髪を撫でる。
 死と隣り合わせの戦いから帰還した彼女の身体には未だ傷跡が残っていた。
 普段なら髪を撫でようものなら直ぐに目を覚ますというのに今日ばかりは深い眠りについている。
 小さな寝息と共に上下する胸に、生きていることを実感した。
 彼女の心の内というものは実際の所、想像する事がしか出来ない。
 何を考えているのか、彼女自身が語ってくれるまで待つしかないのだ。

 ともあれ語りやすさというものは存在していて。
 例えば、疲れた身体に優しい朝ご飯である。
 野菜をくたくたに似たミネストローネや柔らかめのポトフは寒い朝に染みるだろう。
 深い眠りについている彼女が目覚める頃には出来上がるに違いない。
 起こさぬ様にそっとベッドを抜け出して、キッチンへ続くドアを開けた。

 しばらく準備をしていると、別室から空が目を擦りながら出てくる。
 生まれてから何年も経っていない空は、謂わば赤子のようなもので、『人間』としての目覚めは苦手であるらしい。ゆめうつつで着替えて顔を洗う頃には目も覚めるだろう。
 空より後に生まれた心結はまだすやすやと眠っている頃合いだ。

 キッチンへ入って来た空が手伝ってくれるというので、料理の過程で出てくる洗い物を任せる。
 腕を捲り一生懸命洗ってくれる姿に、思わず笑みがこぼれた。
 空が此処へ来たばかりの頃は感情の表現すら難しく、伝わらない気持ちに苛立ちを発することもあった。
 けれど今は感情豊かに話しかけてくれる。子供の成長には驚かされてばかりだ。
 鍋の中から良い匂いが立ち上がるのを見つめながら、幸せな日常を噛みしめるばかりだった。


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