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木枯らしの揺籃

登場人物一覧

恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣

 最後の胚で作られた其れに感傷などなく。
 ただ、出来映えだけを求めていた。
 研究の過程で自分の腕すら化け物の様に変えたのだ。
 今更、試験管の中で生まれた生命体を『自分の子供』だとは思えなかった。
 最後の胚から出来た其れは実験体の一つ。
 名前なんて付けていない。
 お前だとか、おいだとか、そんな風に黒い化け物を呼んでいた。

 自我というものも、殆ど無かったのだろう。
 其れは本能のままに与えられたものを喰らった。
 手に抱えられるぐらい大きくなったそれを抱き上げてみれば、食べ疲れたのかそのまま寝てしまった。
 実験体の睡眠も重要な研究対象だ。
 だから、しばらくそのまま抱えていた。
 額の感触を頬で確かめれば、少ししっとりとしている。
 じんわりと伝わってくる温かさは、そんなに嫌いではなかった。子供の体温だ。

 研究所の中庭に出ると木枯らしが吹いてくる。
 温度差で起きるかと思えば、顔を隠すように胸へと潜り込んできた。
 仕方が無いと白衣で覆う様に抱え直す。そうすると満足したように眠りだした。
 実験体といえど生まれたばかりの子供なのだ。本能的に『親』を求めるのだろう。
 暴食の獣として存在する其れの嗅覚は人間の何倍も優れている。
 だからだろうか、遺伝子的な『親』というものを本能で嗅ぎ取るのかもしれない。

 敷き詰められた紅葉の絨毯を起こさぬようゆっくりと歩く。
 吹いてくる木枯らしが腕の中の体温のお陰で寒くない。すぅすぅと寝息が聞こえて来た。
 もし、自らが産んだ子ならば胸に止め処ない愛情が溢れるのだろうか。
 腕の中の温かさを愛おしく思うのだろうか。
 その感情は終ぞ分からなかった。

 ただ、処分するのが少しだけ惜しいと思うぐらいには愛着はあったように思う。
 きっとその愛着は不要なものなのだろう。
 面倒くさいし研究の妨げにもなる。他の実験体との格差が生まれ正常な研究が行えない。
 だから、処分することを決めた。

「もし、また来世で会えたなら。今度は親子をしてみるのも悪く無いかもね」
 そんな言葉と共に、黒い獣を森の中に捨てた。
 ちくりと刺さった棘は、きっと「もったい無い」気持ちだったのだろう。
 白衣の間から入ってきた木枯らしは妙に冷たかった。


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