PandoraPartyProject

SS詳細

紅葉拾う舞人の君

登場人物一覧

雨紅(p3p008287)
愛星

●紅葉の錦 篝火の心
 夏が終わり、秋が進んで冷え込み始めた『再現性京都』。
 小さな社を訪れた雨紅の元に、風に巻かれながら落ちてくる紅葉があった。
 鮮やかな黄色と緋色に染まった、大きくて華やかな葉だ。
 何となく、以前に拾った血塗れの葉とは違うものが見られそうな気がしてそれを拾ってみる。

 温かい記憶だった。機械に過ぎなかった身体に、篝火のように『心』が宿った時の記憶。
 その芸人が踊れば、項垂れた人々が徐々に顔を上げ、最後には皆笑顔になっていく。
 その様子に。その芸人に。雨紅はかつても今も憧れ続けているのだ。

『なんや、ええもん見えた?』
 いつしか現れていた狐面の主『はづきさん』。雨紅の今日の目的の人でもあった。
「はづきさんは、他人の葉から記憶を見ることはできますか?」
『できるよ。元々うちのお務めやからなぁ』
「では、これを。私もはづきさん達の過去を見ましたからね」
 元気そうな狐面に雨紅が拾った葉を渡すと、『はづきさん』は少しの間を置いて興味深そうに頷いていた。
「この時宿ったものは、私に『楽しさ』も『苦しみ』も齎した。この出来事がなければ、思い悩むこともなかったでしょう……それでも、大切な思い出には違いないのです」
『せやねえ、こないに鮮やかやもん。大切で、忘れられへんのやろね』
 感想と共に、『はづきさん』は紅葉を返す。
 この葉は今でも、『はづきさん』にとっては『罪』なのかもしれない。しかし。
「はづきさんもチャンドラ様も、感情を罪だ、執着どくだとは言いますが。そればかりではきっとないはず。毒にも薬にもなると、私は思いたいです。良薬とは苦いものでしょう?」
『ええ薬は、毒を消すこともできる。ええ思い出は、ええ行いに繋がって、罪を購える。雨紅にとっては、これがそうなん?』
 『はづきさん』に訊ねられた雨紅は、自信を持って「はい」と肯定する。
 その答えに、狐面も満足そうだった。
『そっか。それは、ええねえ』
「はづきさんたちにも、大切にしたい思い出が増えればいいなと思います。お二人にとって薬となるような、支えとなるような……そういう思い出が」
『せやねえ。少なくともひとつは、皆がくれたんとちゃうかな』
 今、生きたいと思えて。美しいかんじょうを見られる時間があること。
 尊いものを貰っていると、狐面の口許は笑っていた。

おまけSS『罪なき者のありや否や』

●『生きる』とは
「しかし、ですよ」
 今日はいいものが見えたとご機嫌な『はづきさん』に、苦言を呈する手伝いの男がいた。
「良い感情とは、負の感情と同じくらいに強い執着となり得ます。現に貴方様も忘れられないではないですか」
『けどなぁ。全く、なぁんも執着せんと生きるって、できると思う?』
「貴方様がそれを仰るので?」
 『はづきさん』――ヤマは、以前の世界では感情つみを重ねた死者を輪廻へ送る役を担っていた。輪廻から外れるには『感情つみを抱かず全て精算してから死ぬこと』が理想であるが、現実的に不可能だろうと言い切ってしまったのだ。
『例えばやけど。なんも興味持てんくて、生きるんもしんどいわー、死ぬんもめんどいわー、ゆう人間がおったとして。それは執着から外れた解脱とはちゃう、ゆうんはわかるやろ?』
「『さんさあら』であれば、前世の罪の精算をしない怠惰、という扱いでしたか」
『せやねえ』
 怠惰に生きること無く、それでいて感情を抱くことも無く生を終えられるとしたら、『生まれる前に』死者となってしまう赤子くらいだと『はづきさん』は言う。しかし、そのような赤子はやはり前世の罪を償えない。だからこそ、かつてのあの世界は――『さんさあら』は終わること無く廻り続けていたのではないかと。
『せやから、罪のない人間なんておれへんのよ。うちにとっては……やっぱり感情は、執着は、精算すべき罪やわ』
 けど、と。狐面を僅かにずらした『はづきさん』は、仮面の下の金眼を細めた。
「罪を犯し、償いながら、また次の罪を犯す。感情が毒にも薬にもなる、『生きる』とはそういうことだと学びを得たが、どうか」
「……学びは結構ですが、あまり毒には触れないで頂きたいものです」
「それは難しい」
「ヤマ様」
 再び狐面を被ると、『はづきさん』は足取りも軽く舞い落ちる葉を拾いに行く。
 これは誰の執着か。薬なのか毒なのか。
 誰かが生きた一片の証を、狐面は以前よりも興味を持って見つめていた。


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