PandoraPartyProject

SS詳細

ウニの季節。或いは、ホタテの生る木を探して…。

登場人物一覧

冬越 弾正(p3p007105)
終音
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

●ウニの生る季節
 秋。
 山々が赤く色付く季節。暑かった夏の気配も徐々に遠ざかり、ここ最近では夜になるとすっかり空気が冷え込むようになって来た。
 秋の気配は、山の上の方から順にやって来る。じわじわと、森の樹の葉が色を失いはじめたかと思えば、ある日を境に一斉に赤や黄色に染まるのだ。
 ここ“常山”にも秋が来た。
 赤く染まった樹々を眺めて冬越 弾正 (p3p007105)はからからとした笑い声をあげる。
「いい色に染まったものだな」
 弾正は常山の領主である。暫く前に音の精霊一族である秋永一族を引き連れて、深緑から豊穣へ移住して来て、この山を自身の領土としたのだ。
 慣れない土地での生活とあってそれなりに苦労もしたけれど、ここ最近は領地の経営もどうにか軌道に乗っていた。
「樹の葉は“普通”なんだな」
 笑う弾正を横目で見やり、アーマデル・アル・アマル (p3p008599)はそう呟いた。アーマデルの領地は常山からそう遠くない場所にある。
 弾正とアーマデルが恋人同士であることもあり、2人はよくお互いの領地を行き来している。領主同士の仲が良いこともあり、領民同士もまるで友人か親戚であるかのような付き合いをしていた。
「普通とは?」
「いや。これ……どういう理由で地面からカジキマグロが生えているんだ?」
 問い返す弾正を少し困ったように見やって、アーマデルは自分の足元へ視線を落とした。落ち葉の積もった地面から尖った何かが覗いている。
 一見すると、それは筍か何かのようにも見えただろう。だが、そうじゃない。尖った何かを手で掴み、アーマデルはそれを地面から引き抜いた。
 ずるり、と引きずり出されて来たのは、泥だらけのカジキマグロだ。まだ息があるのか、ビチビチと体をくねらせている。
「今年のカジキマグロも活きがいいな。領民や一族が飢える心配も無いだろう」
「領民たちからは“いい加減、食べ飽きる”と言われていただろう」
「それはそうだが、カジキマグロは食いでがあるからな。他と言うと、まぁウニが成る樹はあるものの……やはり量の問題がある」
 常山では、秋になるとそこら中の樹々にウニが実り始める。他所の土地ではそれを“栗”などと呼称するようだが、常山ではウニなのだ。秋の時期に獲れるウニは身が多く、濃い旨味が濃縮された高級品として取引される。
「成程、流石は弾正だ。腹が減ってはどうにもならないからな」
 それでカジキマグロの栽培(養殖?)に勢力的なのか、とアーマデルは合点がいった様子であった。
量以前にも問題と言うか疑問が山ほど積み上がっていると思うのだが、どうにもアーマデルは弾正の言動にあまり疑問を挟まない。
実のところ、弾正もカジキマグロが生えて来るという状況を不思議に思わないわけでは無いのだが、まぁ、それで誰も困っていないのだから放置しているのである。
「とはいえ、そろそろカジキマグロやウニ以外の名産も欲しいからな。それで、今回はアーマデルにも協力を頼みたいのだが」
「なんだ? 弾正の頼みなら、なんだってしてみせよう」
「あぁ、ありがとう。やはりアーマデルは頼りになるな」
 そっとアーマデルの手を握りながら、弾正はふわりと微笑んだ。

『――ホタテが実る伝説の木の下で告白したカップルは永遠の愛が約束される』

 領民たちの間で囁かれる伝説だ。
 ホタテが実る木とは何だ、とか。
 そんな木、磯臭くて近寄れないだろう、とか。
 まぁ、疑問や不思議は満載なのだが、それは一旦、横に置いておくことにする。問題があるか否かは、実際にホタテの実る木を発見してから考えればいい。
 そう言うわけで、弾正とアーマデルは揃って山を登って行った。
 登山道ではない。2人が歩くのは獣道だ。
「なぜ、こんな道なき道を進むんだ?」
 悪路をものともせずに進むアーマデルは、そんなことを問いかけた。
「いや、なに。俺はそのような木があるのを知らない。領民たちも知らないらしい。となれば、そのような木があるとするなら、それはきっと“人の近づけない場所”にあるのだろう」
「あぁ、成程な。弾正は頭がいい」
 得心がいった様子でアーマデルは頷いた。
 それから、アーマデルはふと足を止める。その形のいい鼻が、ひくひくと動いていた。
「アーマデル? どうかしたか?」
「……こっちだ。海産物の匂いがする」
 ここは山だが。
 山の頂上付近であるが。
 走り出したアーマデルの後を追いかけ、弾正は獣道を疾走する。

「見つけた」
 獣道が終わる。開けた土地に1本だけ樹が生えている。
 ホタテの実った大きな樹だ。
「危ない!」
 アーマデルの顔に向かって何かが飛来した。
 弾正は、アーマデルを抱きしめて、彼の代わりに何かの襲撃を身体で受ける。
 飛んで来た何かは鴉であった。
「……弾正」
「アーマデルが無事でよかったよ」
 常山の伝説は、まんざら嘘でも無いかも知れない。


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