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    モブから見た夜乃 幻
  
登場人物一覧
●はじめに 
 こんにちは。世界を救う『イレギュラーズ』に密着するこの企画。
 今回は、幻想一とも噂される奇術師である夜乃 幻さんについて密着取材です。
 ──と言っても、ご本人の取材だけでは得られない情報やモノがあるのも事実。
 そこで、今回は幻さんに詳しいという方にお話を伺いました。
 それでは、ご覧下さい。
●マジシャンのたまご・フライヤの話
 フライヤ氏は10代前半の女性である。
 シルクハットにスーツといった出で立ちだが、あまり着慣れていないようだ。
 ──こんにちは。今回はよろしくお願いいたしま……!?
 突如、フライヤ氏がおもむろにかぶっていたシルクハットを取った。中から現れた白い鳩が騒がしく翼を動かす。
「ああっと! 暴れないで! ああっ!」
 暴れに暴れた鳩はそのまま大空へと羽ばたき、すぐに見えなくなった。
 彼女はそれを眺めていたが、咳ばらいをひとつするとインタビュアーに向きなおり、大仰な身振りをしてみせた。
「レディース・アンド・じぇんとるめん! 初めまして。私は奇術師フライヤ。今宵はわたくしのミラクルステージ……」
 ──あのう。ここには私一人しか居ませんし、今は昼なのですが。
「野暮なことは置いといて。こういうのは雰囲気を味わうものですよ。こと、奇術に関しては」
 ──またヘンな人枠かこれ……?
「最初のツカミはバッチリ。次のマジックはコレ! マイザー……うわっ!」
 手を滑らせ、バケツを取りこぼすフライヤ氏。
 通貨であるゴールドに似せたコインを、辺り一面にざらりと撒き散らした。
 ──手伝いますか?
「……ハイ」
 後片付けを行うインタビュアーとフライヤ氏。
「手伝わせてすみません……」
 ──いえ。
「実は、幻さんに憧れて奇術師を目指してるんです」
 ──そうなのですか。
「蝶の翅を持つ男装の麗人っていうだけで性癖刺さりまくりなのに、披露する奇術もヤバいんですよ。蝶をからめる事が多いんですけど、これがスゴい!」
 話始めると止まらない、まさにマシンガントークである。
「あたしもちょっとかじってるから分かるんですけど、蝶なんて鳩以上に繊細だから絶対使えっこないんですよ。それをですね! あんなに!」
 ──はあ。
「ねっ。ねっ。あなたも見てきた方がいいですよ! 幻さんの公演を!」
 ──ええと。
「あっ、すみません。つい興奮しちゃって……」
 ──はは……では、幻さんの人となりなど、知っていることはありますか?
「……そういえばあたし、幻さんのサインが欲しすぎて、いけないってわかってるけど、テントの裏まで忍び込んだことがあるんですよ」
 ──えっ……。
「あっ、やっぱりマズいです……?」
 ──うーん。続けてください。
「ハイ。えと、そこでちょうど幻さんが休憩中だったのかな。いらっしゃって。近すぎてヤバくて思わず声出しちゃったんですよ」
 ──で、気付かれたと。
「ハイ……でもですね。そのとき、幻さんに話しかけて貰えたんです」
『奇術師たるもの常にミステリアスであれ。サーカスの裏側を覗くのはご法度でありますよ。
 ……ですが、折角僕のファンを公言してくれた方をただ突き返すのはあまりに不憫。ここはひとつ──』
 そう言った幻さんがステッキで地を叩くと、ひらりと蝶が現れたらしい。
 フライヤ氏が右に左に羽ばたく蝶に思わず目を奪われていると、ふと、今立っている場所がテントの裏側でないことに気付いたという。
 ──何処に立っていたんです?
「分かりません。夜のように真っ暗で。でも木々が光を放っていて辺りは明るくて。青色の蝶が吸い寄せられるように、辺り一面に咲く光る花を転々と飛ぶんです。そんな場所はこの国には無いけど──幻想的な場所でした」
 ──何と。
「気付いたら、幕の下りたサーカスの中に一人で居ました。幻さんは『ご満足いただけましたか? では、また』って言って、居なくなりました」
 ほう、と感嘆の息を漏らすフレイヤ氏。
「奇跡だったんです。あたしのためだけに見せてくれた奇跡……もっと好きになりました。
 あたしは何やってもダメダメでした。今やってるのも、あの人の後追いだし成功だってしないかもしれない。でも、それでもあたしは
 ──素晴らしい。ぜひ応援させてください。
「ありがとうございます! 今度、街角でショーをやるんです。よかったら観に来てください!」
 彼女の笑顔はとても眩しいものだった。これが幻さんが与えた、
●おわりに
 いかがでしたか?
 夜乃 幻さんについての詳しい情報は知ることができたでしょうか?
 今後も彼女の活躍に目が離せませんね。
 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
 
 (編集後記)
 フレイヤ氏のマジックショーはお世辞にも成功したとは言い難いものでした。
 それでもひたむきに努力している彼女は、周囲の方々から受け入れられている様子でした。

