PandoraPartyProject

SS詳細

肩のぬくもり

登場人物一覧

燈堂 暁月(p3n000175)
祓い屋
深道 明煌(p3n000277)
煌浄殿の主

 パライバトルマリンの海色が目の奥に焼き付いている。
 燦々と降り注ぐシレンツィオの『本物』の夏の陽光は、身体の奥から炙られるようだった。
 それでも日陰は比較的涼しくて、明煌は浜辺の白い神殿でようやく人心地ついた。

 貸衣装のドレスルームで衣装を選んでいた暁月へと、純白のウェディングドレスを差し出す明煌。
 こてりと首を傾げる暁月は「廻の?」と問いかける。
「暁月が着たらどうなるかなって」
 少し険しい顔をしながら答える明煌に暁月は不思議そうな表情を浮かべた。
「ドレスは着ないよ? 明煌さんもドレス着ろって言われたら嫌でしょ?」
「……嫌やけど。廻は可愛いの着てくれるし」
 あからさまにしょんぼりとした顔をするものだから暁月は思わず吹きだしてしまう。
「ふふ、すごい顔。廻が着るのは、明煌さんが着せてるんだよ。廻は優しいから断れない。あと可愛いから許されるけど、私達みたいなデカイのが着るのはちょっと厳しい……サイズも合わないよ」
「まあ……せやな」
 無理強いは良く無いかと明煌はウェディングドレスを戻し別の衣装を見渡す。

 ドレスルームには様々な衣装があった。
 和装に大陸の民族衣装、婚礼儀式などに着る華やかなものが覆い。
 こういうのは女性が興味を示す方が多いのだろう。種類も女性用が豊富であった。
 明煌はゆっくりと歩きながら暁月が着られそうな男性用の衣装を探す。

 白い衣装の前に立ち手に取ってみれば、繊細な刺繍が施されたウェディングスーツだった。
 これを暁月が着ればきっと似合うに違いない。
「……暁月、これは?」
 少し言いにくそうに白いウェディングスーツを暁月の前に掲げる明煌。
 僅かに困ったような、期待するような顔が、幼い頃に見たままだと暁月は目を細める。
「そんなに着てほしいの?」
「嫌やった?」
「ううん、嫌じゃないよ。でも、私一人だけ着るのは無しだよ。明煌さんも着てね」
 暁月が着てくれるなら、自分も同じ物を着てみようかという気になってくる。



 白い神殿にある聖堂のドアを開ければ、潮の香りが鼻腔を擽った。
 石造りの床と高い天井、長椅子が並んでいる様は教会といっても差し支えないだろう。
 吹き抜ける風と、目の前に広がるパライバトルマリンの海の色。
 白いウェディングスーツに身を包み、聖堂の真ん中を歩いて行く暁月。
 その後ろからは同じ衣装を纏った明煌がついていく。
 聖堂の奥は壁が無く、海に面していた。暁月はその端の欄干まで歩いて振り返る。

「綺麗な所だね。このまま海に飛び込めそう」
「落ちるなよ」
 追いついた明煌は、もしもの時の為に支えられる位置へと寄り添った。
「まさか。衣装濡らしたら怒られちゃう」
 差し込む陽光が暁月に降り注ぎ、まるで天から舞い降りた御使いのように見える。

 美しいと思った瞬間、暁月の髪に白灯の蝶が大量に集まった。
 それは仄かに光るヴェールのようで、愛おしさがこみ上げる。
 白灯の蝶に驚いて視線を巡らせる暁月の頬に、そっと指先で触れて。
 このまま、時間が止まってしまえばいいと、唇を噛みしめた。

「ねえ、明煌さんちょっと座っていいかな。休憩」
「うん」
 長椅子に並んで座った明煌と暁月は、碧い海を見つめ潮の音に身を委ねる。
 先程まで浜辺で強い日差しの中に居たから、影になっている神殿の程よい暗さにが心地良い。
「ふぁ……」
 欠伸をした暁月は少し眠そうだった。
 無理も無い。いつも子供達を導くべく気を張っているのだ。
 こびり付いた意識というものはどうしたって剥がれやしない。
 自分が傍に居る時ぐらいは、気を抜いたって構わないのにと明煌は暁月の頭を撫でる。
「うん?」
 頭を撫でられ不思議そうに首を傾げる暁月をそのまま引き寄せた。
「ちょっと寝る? いいよ、もたれ掛かって」
「あ……うん。ちょっとだけ目つぶる、ありがと」
 余程、疲れていたのだろう。すぐに眠ってしまった暁月を確りと支える明煌。
 間近すぎて寝顔を見ることもできないが。甘えて寝てしまった暁月に明煌はむず痒い気持ちになった。

 どれだけ、こんな風に穏やかな時間を過ごしたいと願っただろう。
 随分と遠回りをしてしまった。これからだって、まだ伝えてないことも聞けてないこともある。
 根本的な話し合いはまだ先送りにしてしまっていた。
 それでも……今、この瞬間は幸せに満ち足りていると感じる。

 静かに神殿へと入ってきた廻が寝ている暁月を見つけ、それを支える明煌へと視線を上げた。
 くすりと微笑んだ廻は明煌の隣へ座り同じように頭を預ける。
 暁月と廻を両側に抱えた明煌は大きく息を吐いた。
 遠く潮騒の音が子守歌のように聞こえ、幸せな時間に明煌もそっと目を閉じる。

 来年も、こうやって過ごせたらいいなと、未来へ思いを馳せた。


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