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君にまた会えたら

登場人物一覧

恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣

 君にとって、佐智子の子は孫であり、弟の曾孫でもあった。
 だから晃一が生まれた時、病床の君が大層嬉しそうにしたのを覚えている。

 僕にとっては養女の子が生まれた以外の感情は持っていなかったのだけれど。
 君が嬉しそうにするから、きっと少し共感をしてしまったのかもしれない。
 何かが生まれるとき、こんなにも心を動かされることは初めてだったように思う。
 君との生活に感化されていたのもあるけれど、自分なりに手塩に育てた養女が、結婚して子供を成すことはそれなりの時間と労力が掛かったし、何だか感慨深かったんだ。

 命を作り出すことは今まで沢山やってきたし、何度も失敗して始末してきた。
 たまに生き残っているヤツもいるけれど。ああいうのは例外なんだ。また研究しようかな。一度捨てたとはいえ何かに使えるなら、それはそれで成果が在ったというものだからね。

 それは置いておいて、君ってば病床の布団の上で段々弱って行ったね。
 僕と渡り合えるぐらい強かった君が、皺くちゃの爺になってしまって、人間って儚いなと思ったよ。
 骨と皮だけみたいな手に手を重ねてみても、全然力も入って無くて。
 もうすぐ死ぬんだなって分かったよ。

 随分と傾いた夕焼けが障子越しに畳に落ちてきてた。
 物悲しいとは、こういう時間をいうのかなと珍しく感傷に浸ってしまったけど。
 数えるのも止めてしまうほど沢山の死を見送った僕が、君の死を前にあんなにも逃げ出したくなるなんて思ってもみなかったよ。

 孫の顔が見られて嬉しいなんて、涙を流しながら言うものだから少し笑ってしまった。
 君は佐智子も貴昭も可愛がってたから尚更だったんだろうね。
 それでもさ、遺言というものはもう少し考慮してくれてもいいんじゃないか。
 まるで呪いみたいじゃないか。
 そう思うのは僕だけなのかもしれないけれど。

「……ああ、本当に嫌な男だよ、君は」

 夏の夕暮れに笑う、君の言葉を思い返しながら。
 僕は君との約束を守らなければならないことに、少しだけ、嫌な気持ちになったんだ。
 それでも、それを遂げたときは、少しだけ褒めて欲しいと思う。
 無事にそっちに行けたらでいいからさ。

 そんなこと、無理に決まっているのだけれど。


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