PandoraPartyProject

SS詳細

雨の中を記憶が流れる

登場人物一覧

天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に

 さらさらと降りしきる雨の中、ミーナはゆっくりと道を歩く。
 たった1人で、歩いてきた道を振り返ることなく。

「私……は……」

 今、ミーナの頭の中はぐちゃぐちゃになっている。
 烙印を受け、更には進行を急速に進められてしまった故に混沌世界に来てから今までの記憶が、落とされたジグソーパズルのようにバラバラだ。
 まるで雨水が流れる川となって、彼女の記憶を押し流すように。

 烙印によって死神としての力が消失した彼女は今、何者なのか?
 人間でも、堕天使でも、死神でもない。何者でもない。
 ただ、天之空・ミーナという名を持つ女は、雨の中を歩く。

「……っ……」

 けれど、どんなにバラバラになった記憶の中でも残されているモノがある。
 それが大切な人達の傍にいたいという想い。
 混沌世界にやってきてからの感情という鎖が、想いを彼女に繋ぎ止めてくれている。

 どんなことをして、楽しんだか。
 何があって、悲しんだか。
 どうして、怒っていたか。
 あんなことがあって、嬉しかった。

 自分の中に残っていた様々な感情が想い人達の笑顔をミーナの記憶に繋ぎ止め、自らの想いを落とさないようにしてくれている。
 だから、ミーナ自身はまだ耐えきれると思っていた。

 ――はずだった。

「あ……」

 さらさらと降る雨の中。
 何かが違うと気づいたミーナは右手を見てしまった。

 枯れ木のような、枯れ葉のような、若々しさが消えていく自分の手を。

「…………」

 死神としての力を失い、自分が何者なのかもわからなくなった代償。
 長らく生き続けていた肉体は力という楔を失って急速に老いてしまう。
 このまま放置してしまえば、いずれは命さえも失うこととなる。

「……あとどのくらい、この雨を見れるんだろうね」

 少しだけ立ち止まり、空を見上げたミーナ。
 その視線の先には先程から変わらず降りしきる雨がある。

 どんなに立ち止まっても、時間は待ってくれないと告げるかのように。

おまけSS『けれど止まない雨はない』

「……お」

 少し歩けば、雲の流れが変わったのか雨が止む。
 差していた傘に雨が当たらないと気づいたミーナは傘を閉じ、ぱっぱと水を払ってもう一度空を見上げる。

 晴天とはいい難い、少し曇った様子の空。
 まるで、今のミーナの頭の中を指し示しているかのようだ。

 そう思えたのは、雲の隙間から差し込む太陽の光が何かを繋ぎ止める楔のようにも見えたから。
 感情という光が自分の記憶を照らして繋ぎ止めているような、そんな風景にも見えた。

「……」

 ――あと何回、こんな風景が見れるのだろうか。


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