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足も汚して

登場人物一覧

尹 瑠藍(p3p010402)

 降り始めた雨が、身体に触れる。すっかり姿の変わった足を伝い、蹄を伝い地面に流れていくそれを眺め、瑠藍は一歩踏み出した。ぬかるみだした地面は蹄に合わせて形を変え、蹄を、足を汚していく。

 足跡を残したところで、咎める者は誰もいない。泥だらけになっても、誰も瑠藍を叱らない。ああ、なんて自由。

 瑠藍の持つ尻尾は美しいけれど、目立ちすぎる。だから幼い頃は滅多に外に出してもらえなくて、それがどうしようもなく退屈だった。しかし一度外へ出てしまえば、自由に外に出たいという願いは渇望に変わる。だから、瑠藍を誘う声に耳を傾けた。それ以来瑠藍の身体は鮮やかな色の尻尾を残したまま馬に変わり、大地を駆け抜け、水の中を泳ぎ回り、奪い取った自由を謳歌している。

 湖に飛び込むと、泥だらけの足が綺麗になっていく。身体を洗うようにしてしばらく泳いでいると、近くを魚の群れが泳いでいることに気が付いた。魚の群れに紛れて、そのうち一匹を食べてしまおうか。そう思って鮮やかな色の尻尾を振って泳ぎ出すと、瑠藍の鮮やかな色に惹かれたのだろう、魚の姿を模したモンスターが近づいてきた。
 尻尾を振るう。その動きはモンスターの腹を叩き、水底へとふるい落とした。魚で遊ぶ邪魔をするのだから、そのままにしてはおけない。

 魚の群れに紛れると、こちらを敵と認識した魚が逃げ回る。魚たちと同じように、瑠藍もまたくるりくるりと踊るように泳いで、一匹にかぶりついた。
 皮が裂ける感触。骨を噛み砕いた音。それらが牙を伝って響き、それからじわりと赤色が滲んだ。

 赤い。紅い。

 故郷も赤くなった。瑠藍が歩いた道は紅くなった。故郷から出ようとした瑠藍を止めた者は蹄で蹴り飛ばした。行く先々で瑠藍を留めおこうとした者は、この牙で噛み千切った。そうして歩いてきたから、瑠藍が歩いてきた道は赤く染まっていく。

 そしてこの湖も、赤く染まる。
 尻尾の色や血の匂いに釣られたモンスターを、一匹一匹殺していく。殺されてしまえばもう外を見ることができない。だからここに群がるモンスターは邪魔だ。

 楽しい。愉しい。

 咎める者はもういない。現れたのなら排除する。許された自由を手離すことなど、できるはずがないのだから。


 望んでいた世界は自然の世界のみ。そこに他のものはない。
 瑠藍は知らない。人里にある楽しみも、街で出会う誰かのことも。知らないまま、紅い世界を歩いていく。



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