PandoraPartyProject

SS詳細

得てして子供は危険に興味を持つもので

登場人物一覧

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん

 ある、よく晴れた昼下がり、幻想内のとある町にて。
 『緑色の隙間風』キドー(p3p000244)と 『雲水不住』清水 洸汰(p3p000845)の二人は、家々の立ち並ぶ薄暗い路地の最中にいた。
 人気は無い。むしろ意図的に遠ざけられているようにも感じる。
 この街の子供たちに話を聞いた限りでは、この路地の奥に佇む家に、目当てのターゲットらしき人物がいるはずだ。
 キドーも洸汰も、その表情は硬い。だがそれは、目的地がすぐ近くにあるから、と言うだけではなく。
「キドー」
「分かってる……くそっ、面倒くせーな」
 洸汰が短く呼びかけると、キドーはその後頭部をがしがしと掻いた。
 ちら、と後方に視線を向けると、すぐさまに路地の角に身を隠す小さい影が、二つか三つ。追跡にしてはあまりにもお粗末だ。
 察するに、情報を提供してくれた子供たちが、二人の後を付いてきてしまったらしい。何とも面倒なことである。
「おい、お前が何とかしろよ。お前のギフト、そういうの得意だろ」
「へへっ、まーな!このコータ様に任せろ!」
「なんだってそんな元気ハツラツなんだよ……俺は鍵開けっからな、邪魔すんじゃねーぞ」
 吐き捨てるように述べたキドーの言葉に、洸汰は随分と機嫌よく答えてみせた。
 体よく子供たちの相手を洸汰に押し付け、自分は仕事に専念しよう、と考えたキドーだが、対して洸汰はそのことに気付いているのかいないのか。
 確かに、彼のギフトは子供相手に特に効果を発揮するから、こういう場面において具合が良い。とはいえ、こうも明るく返されると逆に不安だ。
 ともあれ、洸汰がくるりと振り向いて。視線の先、曲がり角に潜む影に向かって声を飛ばす。
「なあお前達、そこにいるんだろ?」
 張りのある声に、そこに隠れる影がびくりと身を強張らせ。そっと顔を出したのは確かに、先程二人が声をかけたこの街の子供たちだ。
 いずれも、怯えと驚きの表情を隠そうともしない。何故気付かれたのか、という表情をしていた。
「何で気付かれた……!?」
「ほら、だから危ないって言ったじゃんか!」
 少年たちが顔を見せるや、互いを小突き始めて。
 キドーは焦った。この子供たちを追い返すにしても、説明が難しい。『危ないから帰れ』なんて単純な文句じゃ、『自分たちだってその危ない場所にいるじゃん!』と返されて仕舞いだ。
 ゴブリンが小さく舌打ちをする中で、少年らしい風貌の青年はまた一歩前に進み出る。
 そして洸汰は朗らかな笑みを浮かべて子供たちへと呼びかけた。
「なあなあ、お前達」
「っ!?」
 洸汰の声に、身を竦ませる子供たち。だが、次いで洸汰の発した言葉は彼らの予想を超えていた。
「遊ぼうぜ!でもここは危ないし、あっちでな!」
「えっ……」
 遊ぼう、という彼の言葉に一瞬だけ、子供たちがキョトンとした表情になるものの。
 すぐさま一様に明るい笑顔で頷いた。
「う、うんっ!」
 そうして始まる、洸汰と子供たちの競走。一緒に逃げて、追いかけて、捕まえてはまた離して追いかけて。時折洸汰がその身体で路地に仁王立ちすれば、子供たちが笑いながら進路を変える。
「ハハハ、ほらほらこっちは通さないぞ!」
「わーっ、じゃあこっちだー!」
 狭く暗い路地に笑い声が響く中、キドーはその右手をかざして、ターゲットの家の鍵を開けようとしていた。彼のギフトはあまり焦ると音がうるさいから、時間をかけて、静かに、ゆっくりと。
「ホント、屈託のないヤツだよな……」
 そう小さく、口の中で零しながら、彼はすっと目を細める。自分とさして変わらない年齢だと聞いているのに、あの青年は随分と子供らしく、裏表がない。
 そして幾らかの時間が過ぎ、もうすぐ鍵を解除できるか、というところで。
「よし、もうちょい……」
「キドー!」
「あん?ンだよ、今忙しい――」
 背中にかかる洸汰の声に、キドーが扉から目を離さないまま答えた瞬間だ。
「ゴブリンさんも遊ぼー!」
「は……!?」
 一人の子供がキドーの背後から飛びついてきた。ぐらり、とその小さな身体が傾ぐ。
 その拍子に彼の右手が扉の鍵から離れた。小さく錠の下りた音がする。また、一からやり直しだ。
 忌々し気に舌打ちをしたキドーが、自分の肩に両腕を回す子供へと目を向ける。
「おいガキ、今忙しいっつったばっかだろうが。アイツと遊べアイツと」
「えー、だってー」
「わりーわりー、オレ一人じゃこいつら全員相手すんのキツくてさ。仕事はこいつら家に帰してからでもいいだろ?」
 申し訳なさなど欠片も感じられない口調で話す洸汰に目を向けると、彼も彼で子供たちにしがみつかれて大変そうだ。
 気が付けばキドーの周囲にも何人か、子供が纏わりつくようにそこにいて。いったいこの路地のどこに隠れていたのか、と言いたくなるほどの子供がこの場にいた。
 なるほど、確かにこれは、洸汰一人で相手をするには無理のある人数だ。
「……ったく」
 キドーはもう一つ舌を打った。扉の方にかざしていた右手を下ろし、自分にしがみつく子供と、その周囲にいる子供へと目を向ける。
「ちょっとだけだぞ」
「わーい!」
 態度を軟化させたキドーに、歓喜の声を上げる子供たち。
 場所は割れている。手はいつでも下せるだろう。なら、仕事の前に少し気を抜くのも悪くはない。
 そう考えてキドーは、目的の扉に背を向け、逃げる子供たちを追いかけるように走り出した。

  • 得てして子供は危険に興味を持つもので完了
  • NM名屋守保英
  • 種別SS
  • 納品日2020年01月16日
  • ・キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244
    ・清水 洸汰(p3p000845

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