PandoraPartyProject

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Please,Don't say goodbye.

登場人物一覧

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!

●Ever has it been that love knows not its own depth until the hour of separation.
 貴方って、狡獪ずるヒトだわ。

 彼の人が私の元を訪れるのは、櫻の蕾が綻んだ、未だ底冷ゆる春に。向日葵が太陽に咲い掛ける、暑い夏に。竜胆がほろほろ崩れる、晩秋に。冬は決まっていらっしゃらないのは何でなのかしらって心がかゆくて其のくびに齧り付いたら、『冬にゃ贈れる様な花が無ぇ』なんて仰るから可笑しいの。まるで花束を貰えば女が機嫌を良くすると思っているらしいけれど、花瓶を用意しておかなきゃいけないし、枯れてしまえば唯のゴミだもの。宵越しの金を持たない様な男が花束を拵えて貰ってる所をを瞑って脳裡に浮かべると依然やっぱり可笑しくて、悪い気はしなかったし、花が嫌いな訳では無いのですけれどね。

 私が本当に欲しいのは、まさぐり合った脣から伝って臓腑がかっと熱く灼ける様な。指が触れた先からどろどろと蕩けて思考すら儘ならない獣に成り下がるかの様な愛を貪れる一夜、其れ丈なの。『そういうこと』を覚え立ての若い男女がする感覚で、朝から晩まで睦言を囁いてひとつに繋がって、優しく、荒々しく抱かれて、突かれて。聲がからっからに渇く迄喘いで、たった其れ丈で良い。
 そうして悉皆すっかりと全てを吐き出した後は腕を貸せ、って強請って来る貴方が好きよ。赤ん坊みたいに気紛れに、柔らかな肉房に顔を埋めて吸い付いたり離したりして、軈て昏々すやすやと私の腕の中で睡り出すのを眺めているのが好きだわ。

 お別れさようならをするのは朝早く。何故か何時も決まって美しい朝焼けが東の空に滲んでいて、汗で乱れ切った橙色の髪が其れに溶け合って行くのを見えなくなる迄、時に手を振ったり、一寸ちょっと退屈で欠伸を溢したりし乍ら見送る事にしている。
 『次は何時逢えるかしら』なんて戀する乙女みたいな台詞は此の関係には無粋な代物。私達は愛し合っている、執着もしている、焦がれる程に大好き。でも、決して『唯一』では無い、其れはお互い様の事。彼が他の女も慈しむ様に、私は他の男の下で裸體はだかを曝しているもの。

 何処かで野垂れ死んで無ければ――亦、次の季節の花が咲く頃に訪れてくれるのでしょう。
 単にわたしが此処を引っ越さない理由は、此れに尽きるのだから。
 あゝ、本当に狡獪い男!


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