PandoraPartyProject

SS詳細

ポルックスとカストルの絆

登場人物一覧

辻岡 真(p3p004665)
旅慣れた
夜剣 舞(p3p007316)
慈悲深き宵色

●双子の団欒
「姉さん、昼ご飯は何にする?」
 漆黒の髪に綺麗な顔つきの真は不釣り合いなエプロンの紐を後ろ手で結びながら、瓜二つの長い髪をした舞を振り返る。舞は真の双子の姉であり、ここは深緑の舞の家だ。
 今は収穫祭。旅人である真は深緑の収穫祭を堪能すべく、姉の自宅に長期滞在予定なのだ。
 だが、舞はうわの空で窓際の安楽椅子に揺られながら、机上のチェス盤に並ぶチェスの駒を弄って、思い悩んでいる。
(どうして昨日は負けたのかしら……)
 昨日のチェスの敗因を考え込んでいるようだ。一体何手目のどこを間違えたのか。答えはいくら考えても思いつかない。
「姉さんは深読みし過ぎなんだよ」
 真は苦笑を浮かべながら、姉の思考を読んで、ぽつりとそう言う。
「昨日は実は姉さんが勝ってた」
 舞は怒ったように、白駒のルークを盤に放る。
「嘘つき。あなたはいつもそうやって私を立てるけれど、昨日はあなたが勝ったわ」
 真は大袈裟に肩を竦めて、やれやれといった風に手を振る。
「本当なのにね~」
 舞は拗ねたように唇を少し尖らせ、真を睨みつける。
「だって嘘よ。あなたが勝ってた。あなたが勝った。それが事実じゃないの」
 真は心底可笑しそうに、クスクス笑いながら言う。
「負けず嫌い」
「あなたこそ」
「姉さんほどじゃないさ。それより昼ご飯は何がいい?」
「……フワトロオムライス……。……デザートにアップルパイ……」
 舞は頬を膨らませて唇を尖らせながら、注文を真にぶつける。
「はいはい、御姉様の仰る通りに」
 真は悪戯めかして恭しく一礼し、昼ご飯の準備を始める。舞はますます不機嫌だ。
 舞は気分を変えようと、占いを始めることにした。舞は魔女だ。それも大規模な魔女の集団『ナハト』の一員で、『宵闇の魔女』と呼ばれ、この深緑で余所者であるにも関わらず周囲の人々に敬われている。
 舞は手早く机上のチェスセットを片付け星読み盤を広げ、決められた場所に蝋燭や髑髏、花冠などを置く。そうして魔力を込め、星読み盤の上にルーンが刻まれた小石を放る。
 占いの卦は外出せよと出た。舞はそれを読み、湖の中にある小島で珍しい収穫祭が執り行われていることを思い出した。
「真、日が落ちたら、収穫祭に向かうわよ」
「それってデートのお誘いかな?」
「そうよ、悪い?」
「いやいや、あなたの頼みなら、どこでもお付きあいしますよ? 御姉様?」
 真は定住という言葉が無縁の根っからの旅人気質だ。舞が勧める収穫祭に興味が尽きず、思わず頬が緩んだ。

●双子の収穫祭
 収穫祭は、豊穣を祝い、子供達の成長を願う祭だ。そして願う姿に変化できる特別な魔法がかかる期間でもある。
 真は背中に大烏の黒い翼の旅人姿に、舞は腰に繊細な白い烏の翼が生えた魔女の姿に変化していた。
 舞に連れてこられた湖には巨大な樹が一本すくっと生えた小島があり、小島から温かな光が無数に流れてくる。島近くの湖畔には、この辺りの夜にしか現れないという夜光蝶が不思議な光を放っている。そのさまは、さながら湖面に映る星と輝きを競い合うかのような光の共演だ。
「姉さん、こんな綺麗で幻想的な風景は初めて見るよ! 島の中が楽しみだ」
 小舟で小島へと船頭しながら、真が興奮した様子で言う。
「真、この島『ヤク』の収穫祭は、混沌の収穫祭とは趣が違うのよ。姿が変化するのは、帰ってきた死者達が冥界へと誘うために生者が望む姿に変えているからだと言われてるの。冥界へ誘われないように、ああやって生者の代わりとして灯籠を流して、死者の寂しさを紛らわせているのよ」
「へぇ、まるで地球のハロウィンみたいだね」
「だから、気をつけなさい。死者に気に入られないようにね」
 魔女である舞に言われると、冗談に聞こえず、真の背筋に冷たいものが走った。
「もし気に入られたときは『夜光蝶に乗ってお帰り下さい』ってお願いするの。夜光蝶が死者の乗り物だと言われているのよ」
 対処方法があることに、真はホッとする。その様子に舞はチェスの腹いせとばかりにクスクス笑う。
「姉さんも人が悪いよ」
「ちゃんと忠告してあげてるんだけ親切でしょう?」
 こう言われてしまえば、真はぐうの音もでない。一方、舞の機嫌は直ったようだが。
 そうこうしているうちに、ヤクの入り口へと辿り着く。ヤクの収穫祭は深緑の中でも有名なようだ。その証拠に門番は手慣れた様子で、何艘もの舟に説明し、速やかにヤクの内側へと通している。門番は、ヤクには水路が巡らされていて、舟で行き交うことができる通行用の水路と、灯籠を流すための水路とに分かれていることを注意し、ヤクの地図を渡す。さらに、夜光蝶が描かれた提灯が人数分渡されて、送り出される。これも死者に連れていかれないように、という想いだろう。
 広い水路の片側には露天をしている舟が止まっていて、華やかな灯りに商人達の売り言葉が死者達を寄せ付けないような明るさで響く。珍しい食べ物もあれば、古道具や水煙草のガラス容器など、まるでなんでもありなラサのバザールのような様相だ。その中でも目立つのは夜光蝶をモチーフにした商品だ。夜光蝶はこの辺りでしか群生しないらしく、深緑でも珍しいのだ。
「姉さん、寄りたいところがあったら言ってね」
「ええ、わかったわ。でも、珍しいものが多くて目移りしてしまうわね」
 同じように品定めをしている舟も多く、その舟の流れに合わせて、ゆっくり舟を進めていく。舟のゆったりした揺れがそうさせるのか、時もいつもよりゆっくり流れている気すらした。
「姉さん、あの飴細工、細かいし凄く綺麗だ。ちょっと買いに寄るね」
「分かったわ」
 真が飴細工屋で飴を買っている途中、舞へ下卑た声で「そこの黒髪の綺麗なお姉さん、俺達と一緒に遊ぼうよ」、「美味しいモノ、ご馳走してあげるからさー」などと喚き散らしながら、真達の舟に横付けしてくる舟が一艘あった。その舟に乗る男は五人ほど。いずれも酒でも呑んだのか、赤ら顔だ。姿だけは無駄にいいのは、こんな姿になりたいと願った結果なのかもしれない。
 真は飴を持ったまま、笑顔で舞を後ろから抱きしめる。
「姉さんは俺の姉さんだよ。奪っちゃやーだ❤︎」
 言葉と表情とは裏腹に目は笑ってない。男達は「シスコンかよ」、「いくちゅでちゅかー?」などと野次ってくる。
 真は気にした素振りもなく、横付けしてきた舟の縁を思いっきり下へと踏み込む。舟は大きく揺れて、酔った男達はなすすべもなく、川へと落ちていく。真は男達に怒気と狂気を孕んだ瞳で言い放つ。
「奪うなら、俺の屍を越えていけよ」
 男達は威圧されて、青ざめた顔をして舟に戻り、真達に道を開けるだけが精一杯だった。舞は呆れた声で「いつもやりすぎなのよ」と小さな声でため息をつく。そんな舞の声が聞こえていたのかどうか、真は舞に抱きつくのを止めて、見事な細工がされた夜光蝶の形をした黄金色の飴を、笑顔で渡す。
「変な人達。これ、綺麗な飴だよね。舐めるのが勿体ないくらいだよ」
 その様子を見ていた若い女の子達が「キャー、カッコイイ!」、「彼氏になったら、あんな風に守ってくれるかなー」などと、黄色い声を上げる。それは舞の逆鱗に触れた。真の袖口をきゅっと握って控え目に主張する。
「真は私の弟よ」
 女の子達も負けじと「真さんにも恋する権利はあります!」、「真さんは、お姉さん一人だけのものじゃないです!」などと主張する。
「あんた達、弟は私のなの! 今日は私のなの! 私と弟はデート中なの! 邪魔しないで!」
 舞が肩を怒らせて、精一杯威嚇する。真も一蹴する。
「僕は君等に興味がないんだ。邪魔すると何が起こるか保証しないよ?」
 女の子達がまだ何やら言っていたが、真は早々に舟を漕いで逃げる。舞はどこか浮かない顔だ。
 真は暫く黙って漕いでいたが、アクセサリーの露天を見つけて、そこへ寄る。目についたイヤリングを舞の耳に合わせ、鏡を見せる。
「姉さん、この夜光蝶のイヤリングなんてどう?」
 それは小さな夜光蝶が耳に止まったようなデザインで羽根に透かし細工が施された繊細なイヤリングだった。
「うん、やっぱり思った通り姉さんに似合ってるよ」
「そうかしら。ちょっと派手すぎないかしら」
「そんなことないよ。店員さん、これと同じイヤリングもう1セットある?」
 ありますよ、と返す店員に、真は2セットのイヤリングをすぐに購入して、イヤリングの片方を交換してから舞に渡す。怪訝そうな舞に真はしれっと言う。
「これで僕等の心は離れていても何時でも一緒だね」
「生意気」
「それはお互い様だよ」
 舞に笑顔が戻って、真は破顔する。この後、露天をぶらぶらと見て回りながら、目的の場所へと向かうのだった。

●双子の願い
 目的の場所は中央にある巨木の下にある洞で、ヤクの聖地と言われる場所だ。近づくにつれ、雑音が消え、川を漕ぐ音だけが響く。
 洞の中に入ると、そこは蒼で犇いていた。泉の水は蒼く澄みわたり、壁は天井に至るまで蒼色の鉱石で埋めつくされていた。それを照らすのは、夜光蝶の群れと提灯の灯りのみ。あまりの神秘的な美しさに、ため息がほぅと思わず出てしまう。
 中央に止まっている舟に横付ける。ここでは、夜光蝶に魔法の紙を結ぶことで願いが叶うと言われているのだ。この舟は魔法の紙とペンを取り扱っている神官の舟。舞と真は早速二セットずつ購入して、祈りを込め、願いを書き入れる。
 その紙を神官に渡すと、神官はおもむろに虫籠から夜光蝶を二匹取り出す。そして紙を近づけると、蝶の翅を傷つけないように、紙は蝶の体にひとりでに巻きついていった。神官はそれを見届けると蝶を放つ。蝶は天高く羽ばたく。そのさまは願いが叶うように踊る巫女の舞のようであった。
 二人の願いが叶うかどうかは、夜光蝶のみが知っていることだろう。ただ、二人の絆がまた一段と高まったのは間違いない。

  • ポルックスとカストルの絆完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2019年12月28日
  • ・辻岡 真(p3p004665
    ・夜剣 舞(p3p007316

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