PandoraPartyProject

SS詳細

離魂

登場人物一覧

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛

 影が重なっている。
 棄てられたケダモノの如くに閉幕していた。
 知らない果実の膨らんだ姿に何を思うのかは人次第だ、惰性で観察しているといずれ、破滅的なまでの臭気を孕みながら落下するもの。ぐちゅりと拉げて広がった結果、スサマジク汚らしい色を晒してしまうのか。ああ、今となっては開花していたあの頃の思い出も夢幻の如くで、勘違いするのも仕方のない事か。ことことと音を立てていた大きな大きな鍋の底に赦し難いほどの塊の、まっくろいものが沈んでいく、これは大切に残しておいた『僕等』の羊羹なのだろう。飛び散らかしたアルコールの惨たらしさが頭の中へと浸透わずらわしい。ええ、もちろん、僕が謂いたい事は理解していますね、そうでなければ、きっとあなたは、生まれた時からの白痴なのでしょう。唐突に切り刻まれたかのような、不意に殴られたかのような、把握し難い、把握したくない絶望への予感、それは誰かの期待通りの夢中を歩行するが如きただの暴力。何がいけなかったのか。何が駄目だったのか。何度も何度も、過去を掘り返したところでようやく気付く。悉くは最初からこの為に存在していたのではないか。昂揚している、いや、紅葉をしている、ジンジンと、ジクジクと、トニックウォーターの彼方側を改めながら、また、訊ねてみる。お、おいおい、冗談はそのへんにしてくれ。冷汗を拡大したのか、べったりと執着していた遊び方の拙さにため息がかかる。僕は……はい。熱病にでも罹っていたのです。冷めてしまえば案外、嘔吐するのは容易なものでした。嘘だ。きっと、数秒後には嘘だよ、と、いじわるな笑みを返してくれている筈だ。俺とカンちゃん、僕と睦月の仲ではないか。それにしても冗談が巧いなぁ、今度、ほら、再現性東京で有名な甘味処に――僕は本気だし、それに、手作りの料理だってもう要らないです。何故、そんなにも、キタナラシイものを、ニンゲンを視るような目で、俺を睨んでいるんだ。だってさ、僕はあなたの地獄を知っています。ですから、このまま往けば、ふたりで一緒に狂ってしまうんじゃないかって。いえ、そんな建前など最早、無意味ですね。一切を隠さずに告げるとしたら――冬宮・寒櫻院・睦月は、秋宮・史之の事が、大嫌いになりました。もう二度と、顔も心も、何もかもを認識したくありません。今すぐ僕の目の前から消えてください。それでは、僕からの最後の甘えです、大甘えです……あの笑い声を止めてくださいね、これ以上耳にしていると、気が触れてしまいそうです。ア……ハハハ……そう、そうなのか。俺は僕の知らない内に、そんなにイカレタ男になってしまっていたのか。これは傑作だ。これから寄稿に奔って、奇行に走るのが、お似合いだと、そう謂うワケだと睦月、君は顰めているのか。それなら、仕方がない、俺にだって手段と呼ばれるものが在るのだ。なあ……ハハ……待ってくれよ。俺の話を、いや、言葉だけでも、聞いてくれないか――ナイアガラにでも中てられたかの如くに滂沱、どろどろの沙汰を恥ずかしげもなく。この音は、清々しいほどのハナジルだ。お願いだ、お願いだから、俺の前から居なくならないでくれ。出ていくのはあなたの方ですよ、いよいよ頭がおかしくなったのですか。あ、申し訳ありません。あなたは胎児の頃から、種子の頃から、こんな性格でしたね。すがりつくのをやめてくれませんか、あなたの、醜く、けがれた体液がこびりついて――反吐が出ます。そう、そうなのか、反吐が出るのだとしたら、なおさら、俺が跪いていなければ駄目なのではないか。この今にも転がってしまいそうな後頭部で、誠心誠意、睦月のソレを受け止めるのが夫としての役目ではないのか。足が遠く遠く、誰の手も届かないところへと退いていく。おもい、重いのよ、想像していた以上の重量に目が回った――。
 人と人との関係性なんてのは一枚の紙のような脆弱性だ、縋り付かれたとして、あらゆる魅力が死んでいたなら、乞食よりもおぞましい何かに見えてきてたまらない。故の、先程の、圧し掛かるようにおぼえた眩暈なのだ。それじゃあ、僕にとっての、目の前で歪んでいる『おとこ』と謂うのは何だったと謂うのか。優しくしてくれた人、慰めてくれた人、愛し合っていた人……? 違う、違う、始末としては、あなたは、僕に集っていた何処かのその他大勢とまったく変わっていないと謂うワケです。最終的には僕が正気の儘で、あなたはどっかにイって終うのでしょう。それなら、さっさと別れるのが賢明で健全な判断なのだと、どうして解ってくれないのでしょう。それこそ、あなたが可笑しくなっている証拠、証明です。ああ、そうかい。そうだよな。俺なんてのは結局、女ひとりも救えない、莫迦みたいな※※※※なんだよな……! ずかずかと近寄ってきた『それ』は『怪物』は『殺人鬼』が、英雄みたいなヴェールを纏って……強烈な痛みとぐらつきに、ただ、火花がチリヂリ嗤っています。ああ、そう、そういうものなのですね、僕のことをそんなに、脳天までぶん殴って、そうして、所有物なのだと、主張したいのですね――お、俺は間違ってなんかいない。俺は、アヤマチを犯してなんかいない。全部、全部、睦月が、悪いんだ……! もしかして僕は、あなたの事を理解出来ていなかったのかもしれない。だって、ふるえて、涙を流していながらも、どうして、そんな顔が出来るのです。今度こそ本気で、マジメに、マトモに、胸の奥が焼けてきた。げほげほと外へ外へ、唯一残された同情と一緒に、内容物を――もう限界です。わかりました。僕が出ていきますので、ついてこないでください。嫌だ、厭だ、イヤだ。殴った事は謝るから、もう、正気に戻ったから、いかないでくれ、俺の傍を、僕の隣から、別のところにいかないでくれ――呆れ果てたその貌には神様が貼り付いていた。
 不明のおしらせに名を書き加える。
 最後――最後なんだ、せっかくだ、お茶だけでも飲んでくれないか。今から手作りの料理なんて出来ないし、そもそも、もう、俺の手料理なんて、口にしたくもないだろう。インスタントの類だったら、まあ、カンちゃんも付き合ってくれるよね。……それなら付き合います。ですが、ほんの少しだけですよ。ぐつぐつ、くつくつ、湯が沸くまでの時間をしっかりと味わい、芯のシッカリした脳髄に染み込ませる。これは、睦月が好んでいた甘いものだ。湯を半分、ミルクを半分、それにテキトウな粉末を――混ぜ合わせる。さあ、出来たぞ。これがふたりでいる最後の時間だ。付け合わせに羊羹……マシュマロ、マシュマロが残っていた筈です。それにしましょう。俺に『渡せ』と、そう謂う事なのか。唇をかむ、この、にじむような味がむにゅむにゅに這入りこんで、マズい、くるしい……。じゃあ、サヨナラ、あなた。とってもいい時間をありがとう。此方こそだよ、カンちゃん、サヨウナラ……。
 頭が痛い、吐き気がする、自分が自分で無くなるような、滅茶苦茶な回転の具合……迫る、迫ってくる、あなたの身体が、オマエの身体が、重力には逆らえないのだと、重なっている。カンちゃんが、睦月が、僕から離れるなんて、考えられない、だから――もう、冬宮・寒櫻院・睦月を殺して、秋宮・史之を殺したなら、何もかもがおんなじで……。
 お別れだ、でも、二度と、最早、僕が君を殴る事なんてない……!


PAGETOPPAGEBOTTOM