PandoraPartyProject

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IF.ひとひらの蝶

登場人物一覧

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
キドー・ルンペルシュティルツの関係者
→ イラスト

 星が浮かぶ夜に、キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)は死んだ。。用心棒の男を騙し、キドーを一人にして。出会ってから、二十年の月日が経っていた。スキンクはグレイのダブルスーツを着こなし、ダイヤモンドが埋め込まれた銀色の高級腕時計を愛用するようになっていた。

 真夜中、作業部屋にスキンクはいる。ソファに腰かけ、口元をにやけさせ、天井に煙草をふかし続けた。今から、キドーの皮を鞣す。この瞬間を夢みていた。甘ったるい煙草を灰皿に押し付け、スキンクは勢いよく立ち上がった。時計を外し、ジャケットを脱ぎ捨て、シャツの袖をまくる。スキンクは踊るように歩き、練達製の冷蔵庫を開いた。冷気に白い皿。皿にはキドーの生皮がのっている。瞳に生皮を映した途端、欲望が跳ね、痛いほどに昂ぶる。スキンクは皮に触れ、目を細めた。スキンクが彫った、キドーの刺青。生皮からぽたぽたと青黒い血が流れ、手首を濡らす。
「もう……おれのもんですから」
 スキンクは唇の端を赤いゴムのように伸ばし、笑う。大鴉お気に入りの刺青がスキンクを睨んだのだ。そう、感じるほど刺青はキドーの肌に馴染んでいた。スキンクは刺青を見つめる。刀傷に銃痕や火傷、凍傷の痕。刻まれた傷が刺青に物語を、光を与える。
「ああ、奇麗ですよ。社長……」
 長い年月を経て、生み出された芸術。作業台に生皮を置き、刃物を掴んだ。身体が、手が震えていた。
「おれは、生きていてよかった……」
 スキンクは叫び、えずいた。でも、吐かなかった。スキンクは唇を拭った。キドーに刺青を彫って、本当に良かったと思った。喉が鳴った。生皮にキスがしたくなった。舌先で刺青をなぞり、頬を寄せたいと思った。それほどまでに、この刺青を愛していた。
「社長、おれがどんなに欲しかったか、知っていましたか?」
 スキンクはキドーを思い浮かべた。サングラスの奥の瞳は、いつだって好意的で、楽しそうだった。そんな男の皮を、特別な刺青をスキンクは奪ったのだコレクションに加えられる
「だから、嬉しいです」
 スキンクは微笑し、刃物をゆっくりと動かす。表皮や肉、脂肪を削ぎ落していくのである。涙がうっすらと眼球を覆い、スキンクは鼻をすする。

 嬉しくて。嬉しくて。泣いてしまう。でも、少しだけ寂しいと思った。

 スキンクは泣きながら、手を動かした。美しいものが出来る。美しいものを作りたいと強く願った。ふと、脂肪を削ぎながら、父の背を思い出す。波間で揺らめく天女の刺青水死体となった父のことを。あの日、死と刺青が強く結びついたのだ。スキンクは同時にキドーのことを考えた。スキンクの拘りを受け入れてくれた男。キドーがいたからこそ、スキンクは自由だったのかもしれない。父とキドー、彼らはスキンクを
「ありがとうございます」
 スキンクは頭を下げた。すべてに感謝している。額から滲む汗が顎を流れ、喉を濡らす。刃物を置き、無意識に掛け時計を見上げる。静かだ。三時間ほど時間が経っていた。スキンクは冷蔵庫から瓶ビールを取り出し、ラッパ飲みをする。空っぽの胃の腑が瞬く間に熱を帯びた。スキンクは空になった瓶をごみ箱に投げ入れた。揺れるゴミ箱を一瞥し、生皮をタンニンと水が入ったバケツに滑らせる。忽ち、茶のような香りが鼻に触れる。別れの匂いがした。
「社長。今、どんな気持ちですか?」
 スキンクはタンニンに浸かった生皮に問う。キドーなら答えてくれると思った。
「おれは夢のようです」
 スキンクは言った。この作業を何度、思い浮かべたことか。
「だけど、本当は夢なんじゃないかって。目が覚めたら社長がいて、スキンクって呼ばれるんじゃないかって怖くなります。だから、正直、寝たくないです。だって、もう一度、社長を殺せるか、おれには分かりませんから」
 スキンクはくすりと笑った。二十代のスキンクには出来なかった表情だ。キドーが教えてくれた。
「でも、もう一度、殺すのも楽しいのかもしれません。社長、おれはずっと、あんたが欲しかった……! それは社長が想像する以上に、ですよ」
 スキンクは血走った目を擦る。この執着は蛇だ。欲望を喰らう痩せ細った蛇だ。
「おれは幸せ者です……」
 息を長く吐きだし、スキンクは皮を乾かす。
 
 その間、シャワーを浴びる。冷水がスキンクの身体と心を冷やした。肉体には斬傷が浮かぶ。スキンクは笑い、傷を確かめるようになぞる。キドーと生きた証だった。
「……」
 そして、スキンクはバスローブに身を包む。もう、朝と呼べる時間だった。スキンクは鳥の声を聞きながら、革に魚の油を塗り、キドーをぼんやりと眺めた。まだ、夢を見ているようだった。それでも、目の前には宝物があった。それが嬉しくて、スキンクは涙を浮かべる。

 今日も、明後日も、ずっとずっと──この宝物によって、


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