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大きくなった君へ
登場人物一覧
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後2ヶ月すれば空を迎えて2年になる。
祓い屋として繋いだ縁はヴェルグリーズの生活に大きく変化をもたらした。
野良猫のように気まぐれに塒を移していた相棒は今では隣の部屋で娘である心結とともに暮らしているし、親としての責任感を持って子供には真似させられないことはできないのだと、ボロボロのまま雑魚寝をすることもなくなった(らしい)。
家族を持つだとか。子供の成長を嬉しく思うだとか。
一年前の自分に伝えたらどんな顔をするだろう。大切なひとが増えたよと。失いたくない場所があるよと。
今日は日曜日ということもあり、部屋の片付けをしていたのだけれど。
「そうか、もう小さくなったか……」
空の服の整理をしていたヴェルグリーズ。いくつか服が小さくなって破れてしまった、と行っていたけれど。この服はたしか相棒と最初に買いに行った服の一つだったか。
長く着られればいいと願っていたがしかし子供の成長は早いもの。空もすくすくと育ち、出会った当初より大きくなった。燈堂の家で友人と遊んでいる様子もしばしば、親としては嬉しいものである。
「この服はもうお別れかなあ……」
別れの精霊としては仕方ないことだとわかりきっているのだけれど、どうにも捨てがたい。
子供との思い出、というものは初めてだからかもしれない。
(星穹殿ならなんとかしてくれるかな?)
きっと事情を話せば頷いてくれるだろう。彼女は子供に甘い。空のことも心結のことも溺愛している。
それに、きっと彼女も同じように、捨てるのは勿体ないだろうと思うはずだから。
そうと決まれば善は急げ、彼女の部屋へと向かわなくては。ベランダを塞いでいた防火扉を取り外して、部屋の行き来を簡単にしておいただけのことはある。カーテンを開けばそこには愛しい家族の姿が広がっていて。
心結を膝で寝かせ、空とともに特撮ヒーローを見る彼女の姿が。
「おかえりなさい。どうしたんですか?」
「ただいま。それがね、空に昔買った服が出てきてね――」
空も心結も、きっと桜の花を見るのは初めてだろう。開花する桜を家族で見るのは初めてだから、家族写真を撮ってもいい。
巡る四季を想えば、楽しみなことが沢山だ。これからもきっと、沢山の時を共に重ねていくことだろう。
楽しげな声が響く部屋のなかで、新たに迎える春を思った。
- 大きくなった君へ完了
- NM名染
- 種別SS
- 納品日2023年03月12日
- テーマ『『春の雨降る』』
・ヴェルグリーズ(p3p008566)