PandoraPartyProject

SS詳細

番外編:おてんばメープルと、宝玉の迷宮!

登場人物一覧

メープル・ツリー(p3n000199)
秋雫の妖精
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー

●4月某日、妖精郷にて
 それは鉄帝を揺るがせた動乱の冬が過ぎ去って数日経った時のこと――
 命奪い合う諍いからも少し外界へと踏み出せば傷跡残る深い森からも切り離された広大な花畑、雲ひとつない真昼のぽかぽか陽気に包まれ妖精鎌のサイズはうつらうつらとしてしまうのでした。鉄帝から戻ったあとサイズは任された妖精郷の領地オータムシェルへと向かって自分が居ない間に問題がなかったとか、鉄帝に支援物資を送ったことで生活に不備が出ていないかとか、執政官と話したり妖精たちから手厚い歓迎いたずらを受けたり。気がつけば休憩がてら立ち寄った花畑の良い香りとふかふかの土の誘惑に負けて仰向けに寝そべってしまったのです。厳密には、花を鎌で傷つけない様にど真ん中にあった大きな切り株の上で、ですが。
 サイズはなぜ自分がこうしているのか、どうして瞼が重いのか虚ろな瞳の中考えます。生真面目な彼だからこそ日々の生活や戦いの中で溜まった疲労を癒やす機会もなく、ただぼんやりと無意味に時間が過ぎていく事にも違和感を持ち続け色々と良くない後悔やもしかしてを堂々巡りに。何もしなくても良い時もあるのですが、ただただ罪悪感だけが降り積もって行く、そんな時でした。
 空で何かが光り輝いたかと思った次の瞬間、ほうき星が彼の領地へと墜ちてきたのは!
「なんで!?」

 大きな地響き、眠りに水をさされ思わず物理的に浮き上がるサイズの体。鎌を構え呼吸を整えても聞こえるのは遠くの森から飛び立つ鳥と花畑をざわめかせる虫の羽音ばかり。サイズは一つ大きなため息を付き、首を横にふる。妖精郷アルヴィオンでは今でもいくつもの迷宮が眠っている。空にあるソレがなにかのきっかけで墜ちてくるのは珍しくても見つかること事態はありえない話ではない、妖精たちも一度は驚くがすぐに好奇心をむき出しにして調べに行くだろう。特にサイズの領地では、出現したダンジョンの安全性をすぐに確かめる組織や装備は備えているのだから急ぎ向かう必要もない。だが、自分がこうして妖精郷にいる間に騒ぎがあったという事はきっと対処しなければならない、そう考えてサイズは深い溜息をつきながら遺跡へと向かうのでした。
 きっとそうしないと、自分のモヤモヤを晴らせない、そんな事をまだ考えながら。

●おーぷにんぐ
「領主サマ! 待ってたよー!」
 ほうき星が落ちてきたのは、広い草原の中であった。あたりの草やコケ、キノコが焼け焦げ、黒い煙が上がっている。
 来ることがわかっていたかのように両腕を振って歓迎した妖精達の声にサイズは寝ぼけ眼をキッと見開くと、伝えたくて仕方ないといった様子の妖精達に状況をたずねるのであった。
「領主なんてガラじゃないよ……ところで、みんな被害は無かったか?」
「ウン、大丈夫、振ってきたのも玉みたいなものだったし!」
 ……確かに、言われてみればそれは直径が4メートルほどの脱出ポッドのような丸い玉であった。やけに機械じみたハッチが開き白い煙がもくもくと吹き上がっている。ポッドを取り囲むように備えられた大きなバリスタを見るに既に警戒と調査は始まっているようだ、だが、肝心の調査隊の姿が見当たらない。
「調査隊は――」
「それは僕が話すよ、問題があってね……あの玉の中はブラックホールみたいになってて、別の異空間に飛ばされる、だから見た目より広いんだ」
 ヤママユガの翅の中性的な妖精、妖精探検隊の副隊長と名乗る彼は慣れた様子で内部の情報について語ってくれた。幸い入り口にたどり着けば戻ってこられるため妖精たちは何度も往復して深く深くと探索してはいるもののいくつもの罠や番人が待ち受けており、怪我をしかけた妖精もいるのだと。
「番人や魔物が出てくる様子はないんだな?」
「ああ、彼らは最奥の何かを守る仕事に熱中している。そこで2つ目の問題が浮上した」
 ヤママユガの妖精は頭を抱え、こうつぶやいた。
「『その何かは間違いなく宝物に違いない』とが酷く興奮していらっしゃる――」
「え、まさか……ぎゃっ!?」
 サイズの背に突き刺さるチョップ、思わず背を逸してうずくまったサイズに聞き覚えのある上機嫌な笑いが飛んでくる。嫌な予感があたってしまった。
「よっ、サイズ、一人で調査しようだなんて思ってないよねー?」
「め、メープル……いたのか?!」
 橙色の秋の香、サイズの伴侶である楓の木の精がいつになく息を荒くして満面の笑みを浮かべている。その背後にはどこか身を隠すようにメープルの背中にくっついたもう一人の伴侶も――
「サイズさんったら水臭いぞっ! 私たちを置いて一人でダンジョン探検なんて!」
「ハッピーさんも!? なんで!?」
 ハッピーのタックルで今度は地面に転がされたサイズを覗き込みながらハッピーはウインク&サムズアップ。
「お祭り騒ぎあるところハッピーちゃんありさミ☆」
「いや、お祭りじゃないんだが……」
「妖精郷でダンジョンが見つかるなんてしょっちゅーだからお祭りでいいのさ! ね、次に調査隊が戻ってきたら代わりに私達3人で調査してもいいかな?!」
「メープル!?」
「いいじゃんいいじゃん、どうせキミもこうなったら3人で行くつもりだったんだろ? ハッピーもいいよね!」
「もちろんもちろん、こんな機会なかなかありませんからっ!」
「ハッピーさん!?!?」
 転ばされる間に勝手に事が進んでしまいましたサイズさん。周りの妖精もこれにはすっかり困り顔といった様子でサイズに頼み込んでしまうのです。
「連れて行ってあげてもいいんじゃないかい? こう見えてメープルは探検隊長だ、足は引っ張らないさ」
(……二人の実力は疑ってないけどさ……ああ)
「……わかった、でもメープルは回復役しかさせないからな」
 サイズもこうなれば折れるしかない。こうして妖精鎌とその仲間二人の迷宮探索が始まったのであった。

●りぷれい
 それから数分の手短な準備の後、疲れ果てた調査隊と入れ替わる形で飛び込んだ三人を待ち受けていたのは、どこまでも深い深い闇であった。
「暗いな――思ったより長いぞ、ここ」
「焦らない焦らない、報告がないってことは大したことないさ」
「えっと、電気とか落ちてるのかな?」
 そう、外形からは考えられない高さを落下した彼らが着地――といっても全員浮遊しているのだが――して見えるものは闇ばかり、互いの気配を感じとるのが精一杯であったのだ。
 幸い、見えない壁のような物が彼らの周囲三方にある事は察知でき向かうべき道はわかる。調査隊もそうやってこの迷宮を探索したに違いない。サイズはそう考えながら、自然と気遣う様に後方に両腕を伸ばしていた。メープルが勢いよく掴みハッピーも遅れてぎゅっと掴んだその瞬間、彼らの体は重力に引かれ勢いよく落下した。眩しさと肌寒さに身構えた瞬間、靴が硬い地面に吸い付き長い坂を駆け下りながら加速していく、それは冷気が生み出した天然の長い氷の床であった。
「わ、わわわわ!」
 振りほどかれないように慌ててサイズの腕にしがみつくハッピー、手は添えるだけで高い声をあげて愉しく滑り落ちるメープル、そして眼前には今度こそ生きて帰れ無さそうな巨大な穴――
「落ち……!」
「ジャンプだよ、サイズ!」
 直前で飛び立った三人の体を大穴からの突風が浮かび上がらせ対岸の鉄板じみた地面へと運ぶ。まるでアクション・ゲームじみたアトラクションにサイズが片膝をつくと、ハッピーとメープルが更にひときわ強く大声をあげて笑うのであった。
「今のすっごく楽しかった! もっかいやりたい!」
「このハラハラがダンジョンの楽しみだよね! うんうん、思い出してきた!」
(二人とも、いまのに危機感を覚えなかったのか……? メープルさんはともかくハッピーさんもなんだかはしゃいでるし……)
 それが場数を踏んでいるということなのだろうか。サイズが立ち上がった頃には既にメープル達が周囲の機械を弄って帰り道であろうワープ・ポータルらしきものの具合を確かめていた。見渡せばなるほど、あちらこちらが凍りついていたり苔むしてはいるがどこかSFの宇宙戦艦みたいな趣を感じるダンジョンである。入り口が脱出用ポッドの様な見た目であったこともうなずけるというものだ。となれば中にいる敵や罠も防衛システムの様な物であろう。サイズは本体である鎌を両手で握りしめ、二人を呼びつけた。
「えっと、先に行った人たちは大きな通路を歩いたんだよね」
「ああ、目の前に見える大空洞の様な通路がそれだろう」
 妖精郷にあるとは思えない……といえば今更だが、白く清潔で不思議と柔らかい金属剤で覆われた通路には電気が通り埋め込まれた細長い照明がこの迷宮を照らしている。思わず堂々と練り歩きたくなる気分にさせられるがそれ自体が罠な気がしてならない。
「ハッピーさん、済まないが……先頭を任せてもいいか?」
「よしきたっ! ハッピーさんのしぶとさをメープルに見せる出番だね!」
「え!? さ、サイズ、危なくない?!」
「大丈夫だメープル、ハッピーさんは……信用できる」
 ためらう気持ちが無い訳では無いが迷宮の中では互いに冒険者、お互いの能力を利用し合う方が良いだろう。
「メープルだって、私の体力は知ってるっしょ?」
「そ、それは……まあ、ははは……か、回復は頑張るね」
 ハッピーのウインクに何故か冷や汗を流すメープルを不思議に思いながらも、サイズ達はいよいよ迷宮探索へと乗り出す形となった。とは言えども非常に気楽なものである。罠の位置は概ねハッピーの霊的センスでわかるし、機械戦艦に覚えがなくとも仕掛けのありそうな部位はサイズも推測できる。加えてこの不可思議な迷宮をいくつもリーダーとして攻略してきたメープルだ。妖精達も問題なく進めるこの程度の冒険ならば鍛錬を重ねた3人のイレギュラーズであれば問題はない。
「あいた!?」「ぎゃー!? ハッピー大丈夫ー!?」「……ぶい☆」「なんで無事なの!?」
 それでも時々見つからなかったレーザーの罠に真っ二つになっても無事なハッピーにメープルが悲鳴をあげたり騒がしくなかったかと言えばそんな事はないのだが。
「無事な方がいいだろ……大丈夫か? ハッピーさん」
「二人とも気にしない、これくらいへっちゃらだか、らっ!」
 ハッピーの霊体は心が折れぬ限りその霊力が尽きることはない、そのため必然的に罠が読み取れぬ場所では最前列で進むことになるわけだが――わかっていても心臓に悪いとはこの事か。
「大丈夫、すぐ治すからね」
 暖かな光が青白いメープルの杖から放たれボロボロになったハッピーの服やドレスを修復していく。はだけた素肌が小っ恥ずかしいのか、ハッピーは照れ隠しの様に笑いサイズたちに微笑むのであった。
「いやいや、愉しくてついつい先走っちゃうね、あはは」
「痛かったら無理しなくていいからな、ハッピーさん――」
 そうサイズが声をかけ暖かい空気が流れたのも束の間、辺りは赤色照明に変わり警報が鳴り響く。通路の奥より現れるのはハーピィやオーガの様な邪なマナのオーラを放つ邪妖精アンシリーコート。機械じみた迷宮ではあるもののどうやらそこは妖精郷の魔物らしい。
「そうも言ってられないみたいだね……大丈夫、こんなところで死ぬもんですか!」
 オッドアイの片目を閉じ、歯を見せて笑ったハッピーは服を軽く払うと魔物の群れへと飛び込んでいく。
「やあやあ、ハッピーさんのお通りだ!!! 魔物のみんな全力で私に集中しろー!!」
 賢明に敵視を取り、飛び回るハッピーの華麗な姿にサイズは思わず笑みを零す。自分はこうも心強い伴に恵まれたものだと。
「メープル」
「うん」
 隣に寄り添っていた橙色の翅の精もその姿に思うところがあったのだろう。彼女の周りにはどこからともなく淡い光の様な小さな精霊が集い、ぐっと杖を力強く握りしめていた。
ちょっと私も頑張って、いいかな私にも戦わせて、サイズ
 サイズはその言葉に、少しばかり呆れた様に息を吐いて……
「回復、忘れすぎるんじゃないぞ!」
「了解ーっ!」
 ハッピーを援護するべく、鎌に氷の魔力を込めてその翅をはためかせた!

 飛び交う魔弾、ちょこまかと逃げながら放たれるハッピーの音撃、そして死角から放たれるサイズの強烈な氷の魔力の一撃。ケルピーの尾を切り落とし、ハーピーの翼を打抜き、オーガをすっ転ばせていく。倒れた魔物は皆、サイズの鎌から放たれるオーラが喰らいつくしていった。
「ふー、一丁上がりっ! お疲れだー!」
 サイズの放つ氷の獣の口、その顎にかみ砕かれ最後の魔物が文字通り砕け散ったのを確認するとハッピーがくるりと両腕をあげてアピールをする。小型の敵の群れからあれほど攻撃を受けて埃塗れになってもなお満面の笑みを崩さないのは流石の余裕といったところか。最も、この程度の敵は3人の敵ではなかったのだろう。それは静かに呼吸を整えるサイズからも冷静なメープルの振る舞いからもわかることであった。
「二人とも、すぐに治療するから一旦集まってー」
「はいはーい、ほら、サイズさんも!」
「ああ……」
 メープルは少し咳払いをすると、空間に響き渡る詞を込め歌を重ねる。力強くも美しい樹木、そして実りをもたらす豊穣、その言葉にサイズは彼女の2つの側面を思いながら……
「なあ、メープル、どう思う? 敵の数もかなり増えてきた」
 戦闘の数を減らすため、3人が魔力を回復する休憩時間でも会話を欠かさない。経験則を頼りにしたサイズの質問に対しメープルは顎を手に当てしばらく熟考する。
「うーん、調査隊の手がまだ入ってないってのも有ると思うけど、ただ縄張りを守る為に襲いかかったって感じには見えなかったなー」
「それってことは、つまり!」
「うん、ハッピーの言う通りお宝は近い!」
 目を煌めかせブイ★をする女子二人に浮足立つ気持ちを感じつつも、サイズはゆっくり立ち上がり迷宮の先の暗がりを見据える。いざとなれば、一番魔力の強い自身が二人をかばわなければならないのだから――
「なら、皆を待たせないようにしないとな」
「「はーい!」」
 結果から言えば、二人の推測は当たっていた。その迷路の奥へ進めば進むほど機械じみた外壁はまるで風化をするように朽ち果て、不思議な光を放つ茨やコケに覆われた退廃的であり幻想的でもある摩訶不思議な光景へとなっていく。そしてその最奥、ひときわ広い空洞に出ると3人が期待した『ソレ』があったのである――
「本当にあった……」
「宝箱だ!」「マジで!?」
 数十メートル先からでもオーラを感じるような1メートル大の金庫、そしてその傍らにいくつもある小さな箱。おそらく元は戦艦の食堂であったであろうその空間に置かれた機械仕掛けの箱は世界が妖精郷に用意したご褒美であるに違いなかった。思わず飛び出したメープルとハッピー、呆れながらも緊張が解けたようにサイズは天井を見上げて――
「二人とも、下がれ!」
「え……ふぎゃあ!?」
 黒光りの巨大な影が高い天井から落下する。サイズの言葉に思わずメープルへと飛びつき庇ったハッピーの体をかすめ地面へと激突したそれは、妖精の大きさと比べれば巨人とも言うべき巨大な防衛型ロボットであった。ただ目の位置を示すかのような光と顔の形であると認識させるためだけの黒い切込みは、侵入者への恐怖感すら煽らせる。
《シンニュウシャ、シンニュウシャ――》
「アレに見られたらまずい、逃げよう!」
 飛びだったメープル達の居た場所が爆発する、ロボットの目から飛び出た光が全てを焼き焦がし炎上させたのだ。広間を飛び去る三人が安心するまもなく、通路には直ぐに機械じみた足音が響き渡る。
「まずいな、どこまでも追ってくるつもりか……あれを止めるのは骨が折れるぞ」
「どうしよっか、一回入り口まで逃げる!?」
 ハッピーの言葉に出かけた肯定の言葉をサイズはぐっと飲み込む、ロボットが迷宮の外に出ないとは限らない。妖精でも扱える兵器群は備えてあるが、あの光線攻撃に被害が出ないとは想定し辛い、だから、逃げて一旦仕切り直すなどは考えられなかった。
「多分電源は胸元だ、光も腕も切り落としてやれば止まるはずだ!」
 光からの爆発に身をかわしながらサイズは考える、自分ならば一撃でそれができる自信がある。だが、この攻撃の最中どうやって入れる? その自問自答を逃走の中繰り返し――
「サイズサイズサイズ、5秒位止めたらいけるかなそれ!」
「え?」
 堂々巡りの疑問の解決点は、意外にも愉しそうに悪い笑みを浮かべたメープルの言葉であった。

「この通路の行き止まりを左右に分かれてばーっと角まで進んで曲がってけば合流できるよ! 串にさしたお団子みたいな形になってるのさ!」
「覚えてたのか、この道を……」
「経験則と直感!」
 手短に説明されたメープルの作戦にしたがってロボットの光を煙幕に利用するように妖精たちは二手に分かれる。サイズとメープルは右へと、少し遅れてハッピーは左へと。
 ハッピーの腕輪が作り出す光の妖精の翅が一タイミング遅れて横切ったのをロボットのセンサーは問題なく認識した。すなわち、侵入者の撃退の優先度付け。ハッピーへの攻撃。
 ハッピーの逃げる通路は間もなく火炎と爆発に覆われる。朽ちた戦艦の壁が燃え、生えていた草木や苔の焦げる良くない匂いの煙がもくもくと上がる。口を抑えながら逃げるハッピーは軽く恐れを懐きながらも、その心は冒険心に揺れ動いていた。
(流石にこれに当たって耐えるのは大変かも……でも!)

『ハッピーさんはゆーっくり逃げてね、多分あいつは地図も頭にはいってるだろうから合流も想定内だろーさ』
『ぐるーって分かれて撹乱して逃げるんだって、そうはさせないってね!』
『それを利用しちゃおう、アイツが賢い事に期待しようよ!』

(そう、メープルさんたちは今グルっと回ってるんじゃなくて、Uターンしてあのロボットの真後ろに――もういいよね!)
 まだ蔓や草が焼け焦げていない通路の部位でハッピーが立ち止まり、ロボットの目の前で両腕を広げて食い止める。ロボットは一瞬起こった計算外の動作に停止するも、直ぐに動き出し彼女の金色の髪と霊体を消滅させるべく光を集めた、その瞬間であった。
「今だメープル、やっちゃえ!」
「らじゃーっ☆」
 通路の壁にこびりついたコケや蔓が次々と蠢き――激しい轟音と共に茶色く変色、太く力強く隆起するとロボットの腕を、足を絡みとる。ロボットは顔をぐるぐると回し焼き払おうと試みようとも拘束の解除を許さない。
「私だって本気の本気、見せたるんだからなっ!」
 通路を挟んでハッピーの反対側、ロボットが首を回し見つめた先に居たものはその術者……メープルである。燃え盛る蔓を無視し、術者を焼こうと電圧をあげても不可思議な力で首を逆に回され光と炎が彼女へと辿り着くことは無い。
「どーだい、妖精のイタズラは……こんなもんじゃすまないよ!」
 次々と生える植物とハッピーの放つ魔力にロボットは悲鳴の様な快音をあげ、体の表面が負荷に耐えきれず錆びていく。だが痛みを感じぬ機械の体は更に出力をあげ、蔓を一瞬で焼き切りついにメープルの体を正面に捉えた。
時間稼ぎオッケー私たちの勝ち! でっかいの一発やったれー!」
 そう、それは時間稼ぎ、3人の中で最大火力を確実に叩き込むための――
「いい加減止まれ! この腐れポンコツ野郎!」
 メープルの背後から飛び立ったサイズにロボットが顔を向けるよりも早く振り下ろされた鎌が首を一閃、流れるように追撃する片腕も返しの振り上げで跳ね飛ばし、もう片腕も胴ごと横に切り裂かれる。
《ギ、ガガ……》
 ロボットの目から放たれる光が点滅し、錆びついた断面を顕にしながら転がると――お約束のような大爆発でその姿を消滅させるのであった。
「ひゅー! かっこいー☆」
(……今、俺なんていった?!)
「あー! お持ち帰りしたかったのにー!」
 思わず漏れ出た暴言に驚き口を抑えるサイズや欲を漏らしショックを受けているメープル、そして大騒ぎのハッピー。三者三様のリアクションはさておき、このロボットの爆発音で残った魔物たちは散り散りに迷宮の隅へと逃げ出したに違いなかった。

「……なあ、最近言葉遣いが粗雑になってないか、俺?」
「あはは、サイズったら気にし過ぎ、でも男らしくてきゅんとしちゃったよ?」
「ついに中身とご対面だねっ、何が出るか楽しみだぜっミ☆」
「……ハッピーさん、言っとくけどこの箱の中身はみんなにあげるからな、メープルもいいよな?」
「おっけーおっけー、大分戦争で使っちゃったもんね、ちょっとくらいはカンゲンしないとだね!」
「しょうがないねー……じゃああっちの小さな箱は私たちのってことでいいかな?」
「まあそれくらいなら……持ち帰っても」
「やったー!」
 箱は迷宮の様相と同じく練達式に通じる機械の箱であったが、サイズの手にかかれば開けることは容易かった。中に入っているものを調べるにはもう少し時間がかかるが、少なくとも運んで開ける分には罠があるようにも見られない。
「今日はハッピーさんの目に頼ってばかりだな……」
「ふふん、もっと頼ってくれていいんだよ!」
 帰るまでが冒険とは言ったものだが帰りの足取りは非常に軽快なもので、罠にも敵にも出くわすことなく3人は無事に大きな箱とその上に積まれた3つの小さな箱を迷宮の出口まで運ぶ事が出来た。
「帰ったらお城で1個選んでさ、中身見せあいっこしようねサイズさん」
「ああ……まあ、ある程度の金銭価値があるものか……闇市で見たような物が出るんだろうけどな」
 朽ち果てた戦艦が時を戻っていくように、歩みを進めていくと元の小綺麗な白い内装へと戻っていく。戻ってきてみると、あのワープ・ポータルと氷の床が懐かしく見えてくる。ダンジョン全体が傾いてよくわからなかったが、おそらく入り口の暗闇と氷は何らかの保冷庫と漏れ出た水が生み出したものであったのだろう。
「あーあ、この迷宮ももう終わりかー、攻略した後っていっつも寂しくなるー」
「メープルは本当に迷宮が好きなんだな……」
のためっていってもね、妖精は好きな事しかしない生き物だぜサイズー」
 メープルが念力で箱を運びポータルの上に乗せるとそれは光となって消えていく。おそらく地上では妖精たちが冒険の成功で歓喜に湧いていることだろう。そんな事を考えながら、メープルはサイズに振り返って方をすくめてみせた。
「イレギュラーズになる前は逃げるのが精一杯だって言ってたけど、随分とアグレッシブな探索してたんだな……」
「はは、あの頃よりずっとずっと強くなったしね、それにあの時はもっといっぱいいたのさ、そう、今の女王様とかも一度は誘って――」
「……それは今度聞くよ」
 ポータルの充電の間、床に座り今回の迷宮について語り合う3人。騒ぎが有るまで妖精郷で何をしていたか、この迷宮のどこが面白かったか、危険だと思ったか。そんなとりとめのない話を何分も。
「いやー、それにしてもあのビームは正直ハッピーちゃんも成仏するかと思った!」
「やっぱり!? やばかったよねあのロボットの!」「ハッピーさん、大袈裟に言わない……メープルもこだわって訂正しない」
 冒険が終われば3人の冒険者は仲の良い妖精夫婦に元通り。面白おかしく笑いながら3人の緊張感は自然と取れて笑いやジョークが増えていく。色々と大変な目にはあったけれども、こうして最後は笑って帰れれば大成功に違いない、ハッピーはそう思うのであった。

  • 番外編:おてんばメープルと、宝玉の迷宮!完了
  • GM名塩魔法使い
  • 種別SS
  • 納品日2023年04月06日
  • ・ツリー・ロド(p3p000319
    ・ハッピー・クラッカー(p3p006706
    ・メープル・ツリー(p3n000199
    ※ おまけSS『オチの様なオチではないようなもの』付き

おまけSS『オチの様なオチではないようなもの』

●カットシーン
「ねえ、二人とも」
「どうした? メープル」
「不思議だよね、ここにいるのはキミと……キミに合わせて大きくなった私くらいでみーんな背丈の同じ小さな妖精ばっかり、なのに出てくるのは6倍か10倍は大きな人間向けのダンジョンばっかりさ」
「きっと偉いカミサマが便利にしてくれてるんさっ!」
「ハッピーさんったら。あはは、そうかもしれないけど……何となく思うのさ、もしかしたらここは、本当に練達の映画で見たような宇宙戦艦で……兵士達が歩いてたんじゃないかって」
「混沌にそんな高度な文明があっただろうか……」
「どうだろうね、色んな迷宮を見てきたけどそんな統一感が有るようには見えないんだ、こんなのばっかりだったら妖精郷の雰囲気ぶち壊しだろ。むしろ……」
「……何が言いたい?」
「いんや、なんにも。わかんないさ。世界が平和になったらそういった不思議にも目を向けても面白そうだなって、案外それがファレノプシス様につながる道かもしれないだろ?」
「メープル……」
「はは、ハピハピったらそんな深刻な顔しない! こうやって迷宮を奥まで行ったらね、いつも私にもよくわからない事を思うのさ、思ったら思っただけなんにもわからなくなる、この世界のこと、私達精霊種の事、全部」

「でも、よくわかんなくなるからこそ、私は探検が大好きなんだなって、さ!」
「……久しぶりにメープルらしいところが見れた気がする」
「んあっ!? だだ、だだだだ誰が万年発情期の色ボケニンフだこのやろー!?」
「そうはいってないぞー?」
(自覚はあったんだね……)

●おわれ
「……ところで、二人はなんで妖精郷に居たんだ?」
「えっ、えっと、それはメープル、と……」
「…………」
「……メープル? ハッピーさん? ど、どうして俺から顔をそむけて顔を赤らめてるの!?」

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