PandoraPartyProject

SS詳細

三年越しのディナーテーブル

登場人物一覧

Lumilia=Sherwood(p3p000381)
渡鈴鳥
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔

 その石造りの屋敷の周辺には、漆黒の水蓮が季節を問わず狂い咲く。
 故に、誰が呼んだか「黒水蓮の館」。悪魔や旅人が棲むと噂される屋敷は不気味で禍々しく――美しい。
 しかし今日の黒睡蓮の館は、人の手が入った屋敷として柔らかな夕陽を浴びていた。幻想的な灰色の影を湖に落とす姿はさながら客人を待ちわびる貴婦人だ。
 漆黒の大輪が咲いた湖の畔には若々しい、春の訪れを感じさせる薄緑の芝が広がっている。
 その上には木製のテーブルと椅子が二つ。今宵の客を迎えるディナーテーブルとして化粧を施されていた。
 夕暮れの光を浴びて薄紅に染まった純白のテーブルクロスや愛らしいビスケット色の木の椅子は、本日の主役をイメージして準備されたものだ。
「テーブルクロスよし。テーブルナプキンよし」
 鮮やかなピクルスと滑らかなチーズが宝石のように並び、季節のハーブで彩られた白身魚のマリネに薄いリボンのように重なったスモークサーモンが続く。グリルされたばかりの獣肉のソテーからは香ばしい肉汁と脂ののった煙がソースと混じりあいながら滴り落ちていた。
 今にも鼻歌を歌い出しそうな女主人は、手際よくテーブルの上に料理を並べていく。その手つきに迷いはなく、何度も繰り返された動きである事を示唆していた。
「前菜も肉の準備もよし、っと。とは言っても今日の主役は久しぶりにワインセラーから出したとっておきな訳だけれども」
 真紅の視線が硝子のワインクーラーをチラリと見た。重厚な濃紅がたっぷりと詰まった翡翠のボトルには愛らしい雪色の花リボンが結ばれている。
 三年前に購入され本日ようやくお披露目される、祝いの席に相応しい逸品だ。 
「うんうん、我ながら素晴らしい出来だね。完璧じゃないか」
 磨き抜かれた銀食器に曇り一つ無く、並んだ料理は美しく、柔らかな草の上は枯れ草ひとつ落ちていない。
 マルベート・トゥールーズの顔に隠しきれない喜びの色が浮かんだ。
「ルミリア、喜んでくれると良いなぁ」
 頬や唇を彩るマルベートの血色の良さは夕陽だけが理由ではない。彼女にしては珍しく、感情を前面に出して来客を待っていた。
「んん、待てよ。テーブルの上の華やかさが足りないか? でもルミリアと言えば新雪のように美しい純白。花を飾ってルミリアの香りの邪魔になるのだけは避けたいし……」
 ふぁさ、と。翼が風を抱く優しげな音が聞こえてマルベートは空を見上げた。途端、穏やかな花の香りに包まれる。
 まるで夢をみているような心地だった。
 向日葵色のリボンで結ばれた白銀の髪が、絹糸のように夕焼け空に流れていく。風を受けて広がった純白の羽根が速度を落とすようにゆっくりと羽搏き、白いスカートの裾から覗いた黒い靴が地面を踏みしめる。
 Lumilia=Sherwoodは雪のように天から降り立つと、月灯色の瞳にマルベートを映して微笑んだ。
 翼を背にたたむと乙女のようにワンピースの裾を持ち上げ、恭しく淑女の一礼をする。
「……こんばんは。お久しぶりです」
「おや、お久しぶりかな?」
「この場所が久しいので、何となくそんな気持ちになりました」
 Lumiliaは銀鈴を転がすようにくすくすと笑った。
「今日はお招き、ありがとうございます。覚えていてくださったのですね」
「当り前さ。私がルミリアについて忘れることなんて、何一つ無いよ」
 マルベートは冗談めかして返事をしたが事実だった。マルベートがLumiliaに関する事で妥協することは無い。
「それは困りました。今日は飲み過ぎて失態を晒さないよう気をつけます」
「おっと、余計なことを言ってしまったね。今日は酔って可愛くなったルミリアをめいっぱい堪能しようと思っていたのに」
「普段の私は可愛くないですか?」
 こてんと首を傾げたLumiliaの顔に小悪魔めいた輝きが宿ったのを見て、マルベートは思わず顔を覆いそうになった。
 かわいい。ちょっとした戯れだと分かってはいるのだが、早鐘を打つ心臓はまったく落ち着きをみせないでいる。
 余裕の微笑みを浮かべられたのは偏に、Lumiliaが自分を見ているという自覚がマルベートにあったからだ。
「まさか。ルミリアはいつだって可愛いよ。私の一番さ」
「ふふっ、ありがとうございます」
 掌を差し出せば、ほっそりとした指が添えられる。本来であればエスコートなど不要な距離。けれども大切な儀式のようにマルベートは椅子を引き、Lumiliaは賓客の面持ちを崩さないまま酒宴の席へと着く。
「そうだ。大切な酒宴ディナーには灯りが無いとね」
 マルベートが指を鳴らすと蠟燭やテーブルを囲むランタンに一斉に火が灯った。
「綺麗です」
「少しは雰囲気が出たかな」
「ええ、とても」
 乳白色に染まった魔力の炎は、空に輝き始めた銀星の色だ。マルベートの目から見ても瞳を輝かせるLumiliaは今夜を待ち望んでいたように見えた。
「時間なんて刹那に過ぎると思っていたのに、この日が来るのをずっと待っていた気もするよ。たった三年なのに」
「それは失礼を致しました」
 芝居がかった調子で頭を下げたLumiliaは目を細めた。マルベートが自分との約束をこんなにも心待ちにしているとは思ってもいなかったのだ。
 気恥ずかしいような、嬉しいような。Lumiliaは、自分の羽根で心をくすぐられているような気持ちに包まれる。
「このやりとりも懐かしいですね、まるで『あの日』に戻ったようです。いえ、あの日から様々なことがありましたので戻ったと形容するのも可笑しな話ですが」
 マルベートにとって不可侵の、それでいて大切な白い友人は三年の間に随分と成長した。
 空を飛んでも髪も服も乱れなくなったし、美しく地面に降りる術も知っている。何より、お酒が飲める素敵な大人になった。
「それじゃあ、三年前の続きといこうか」
「ええ」
 曲線の美しいグラスに二人分の真紅が注がれる。
「二十歳の誕生日、おめでとう。ルミリア」
「ありがとうございます、マルベートさん。ようやく一緒に飲めますね」
 打ち鳴らされたグラスは、澄んだ鐘の音がした。

 お肉には赤ワインを。サーモンにはあっさりとした白ワインを。時折チーズやナッツを少しずつ胃に収めながら、料理ごとに相応しい酒を楽しんでいく。
 Lumiliaが唇に含む酒の量は、マルベートから見れば蝶が花の蜜を吸う程度の量だ。
 夜が深くになるにつれ風が冷たくなり、二人は酒宴の会場を屋敷へと移した。
 デザートには箱詰めされたチョコレート。紅茶とラムがたっぷりと染みこんだサヴァラン。贅沢に添えられた生クリームからも仄かにアルコールの香りがする。
 お酒に、こんなにも種類があるとLumiliaは知らなかった。初めて経験する味と美味しさに驚きながら感謝を告げれば、マルベートはアメジスト色の瞳を大きく見開いて照れたように笑った。
「……ん」
 ふわふわとした気分のままLumiliaは白い瞼を持ち上げる。
 見覚えのある暖炉の炎を眺めながら、客間のソファで微睡んでしまったのかと思い至った。
 身体を捩ると手触りの良い毛布が肌に触れた。きっとマルベートがかけてくれたのだろう。
 Lumiliaは横になったままぼうっと部屋の中を眺めた。
 眠気に包まれた身体は蜂蜜のように蕩け動くという意思が欠如しているようだ。
 蜂蜜、そう蜂蜜酒。
 美しいロックグラスに僅かに注がれた琥珀色の液体。温かい部屋と、とろりとしたお菓子のような甘い喉越しにつられて飲み過ぎたらしい。身体は温かく、多幸感に揺れている。
「ルミリア? 寝てしまったかな」
 柔らかな手がLumiliaの頭や頬を撫でた。
 それが心地好くて、もっとと強請るようにLumiliaはマルベートの掌に頬を擦り付けた。
「ふふっ、アイリスみたいだね」
 マルベートの忍び笑いが降ってくる。
 猫の鳴き真似をしたらどんな反応をしてくれるのでしょう。Lumiliaは考えたが実行には移さなかった。優しく撫でる手が本格的な睡魔を連れてやって来たからだ。
 すぅすぅと穏やかな寝息を立てるLumiliaをマルベートは丁寧に抱えた。
「それじゃあベッドに行こうか」
 慈愛をこめた接吻を額に落とせばLumiliaが甘えるようにマルベートの胸に顔を摺り寄せる。柔らかな白い翼に指が沈み、穏やかな触れ合いにマルベートは苦笑した。
「少し飲ませ過ぎてしまったかな。でもお酒を飲むルミリアは想像以上に可愛かったから、仕方がないよねっ」
 弁明のような言葉を呟きながら二階の寝室へと運んでいく。
 血行が良くなっているのかLumiliaの身体はぽかぽかとして温かい。寝台に横たえ、皺にならないよう丁寧にワンピースを脱がしていくと、普段よりも桜色を帯びたLumiliaの肌が露わになった。
「ねえ、ルミリア。『埋め合わせ』をしてくれるって話だけれど……もう少しだけ強請ってもいいかな」
 無防備な眠り姫から返事はない。マルベートは知らず口内に溜まっていた唾液を飲み込んだ。
 花の香りが強い。いつもは優しい月夜の花香に誘うような色が混じっていると気づいた時、マルベートはLumiliaの無防備な喉や鎖骨を食い入るように見つめていた。
「あの日のルミリアは、何をしてくれるつもりだったのかな」
 桜色に染まった柔肌を撫でれば、酒精と夜の熱を孕んだ濃密な甘さが温められた部屋の空気を一層艶やかに彩った。
 ――まるで今が旬たべごろだと言わんばかりに。
 緋色が深まる。獣性を帯びた瞳孔が短剣のように鋭く尖っていく。唇が三日月を描く。
 形の良い白い腿を剥き出しながらマルベートはLumiliaに跨った。覆いかぶさるように腕の檻に捕えれば、これ以上ないほど心が安堵していくのを感じた。
 無垢だ。これ以上ないほど白く、これ以上ないほど極上。
 この屋敷は既にマルベートの胎であり、皿と同義だ。熱い息を吐く主人を止めるモノなどいない。
 遂に抑えきれなくなった唾液が唇から零れ、Lumiliaの肌に涙のように降り注ぐ。
 食欲とも獣欲とも愛欲ともいえる獰猛な感情。否、感情などと云いう理性的な呼び方など生温いなど言わんばかりの暴力的な本能を向けられてもLumiliaは瞳を閉じたままだ。


 愛したい。暴きたい。閉じ込めたい。食べたい。
 初めて酒を与えた時の快楽。初めて酒の味を覚えさせた悦楽。あの豊潤なる美酒が今はLumiliaのナカに収まっている。
「……」
 どれほどの時間が経っただろうか。Lumiliaの下腹部に添えた手を離しマルベートは身体を起こした。
 危なかったと額の汗を拭う。
 マルベートに向かって笑いかける、あの顔を。信頼ごと粉々に噛み砕く所であった。
 眠るLumiliaに白い寝間着を着せると、するりと甘えるように夜花の香りがマルベートを抱く。
「こらこら。ダメだよ。次は止められないかもしれないんだから」
 そう告げるマルベートの顔に、先ほどまでの獣は残っていない。只管に穏やかな慈母のような微笑みで立ち上がる。
「おやすみ、ルミリア。良い夢を」


 窓から射しこむ朝日、小鳥の囀り、森の風。
 階段を降りて行けば、そこにバターとパン、それから林檎と紅茶の香りが加わる。
「やあ、おはよう。ルミリア。二日酔いにはなっていないかな? 一応酔い覚ましを作っておいたのだけれども」
 鍋を片手に現れたエプロン姿のマルベートにLumiliaは一瞬、虚をつかれたように目を丸くした。
「おはようございます。幸い、二日酔いとやらにはならなかったようです」
「それは残念。二日酔いのルミリアの介抱をしてみたかったのになあ」
「あ」
 ソファで眠ってしまったことを思い出したのかLumiliaは頬を赤く染め、子兎のようにぺこりと頭をさげた。
「昨晩はご迷惑をおかけしました。私、途中から寝てしまったようです。ベッドまで運んだり、着替えさせたりするのは大変だったでしょう?」
「いやいや、役得だったよ。それに謝らないといけないのは私の方だ。一緒に飲めるのが嬉しくて、つい止め時を見失ってしまった。さあ、謝るのは此処迄にして朝食にしよう。丁度出来たところなんだ」
 たっぷりの熱い紅茶とミルク。 瑞々しいサラダとリンゴ。それからこんがりと焼かれたベーコンと卵。
 トースト立てには数種類のパンが並び、用意されたバターやジャムは鮮やかなパレットのようだ。
「それで、あの、マルベートさん」
「ん?」
 白い朝日が燦々と降り注ぐ食堂でルミリアはマルベートに問いかけた。
 恥ずかし気に逸らされるLumiliaの視線に、マルベートは僅かな不穏を感じ取る。
「どうしたんだい。不都合でもあったかな」
 マルベートは柔らかく、しかし心配をこめて問い返した。
 昨日は何も無かったはずだ。そう、何もなかった。根性と親愛の力でねじ伏せた。
「いえ。不都合なんてありません。昨日の酒宴もですが今朝のご飯も凄く美味しいです」
「それは良かった。でも心配ごとがあるなら相談して欲しいんだ。ほら、私とルミリアの仲だろう?」
 それでもLumiliaは自らの悩みを……言葉をマルベートに告げるか逡巡していた。
「……マルベートさん。これは夢の話なので怒らないで聞いて欲しいのですが」
「私がルミリアに怒ることなんて無いから安心して」
「昨晩、マルベートさんに襲われる夢を見ました」
「んぐっ」
 マルベートの座っている方角から妙に愛らしい悲鳴が聞こえたがLumiliaは続ける。
「マルベートさんが寝台に眠っている私の上に覆い被さって私を食べようとしている夢です。……マルベートさん?」
 返事がない事を不思議に思ったLumiliaが顔をあげると、そこには下手な笑顔を浮かべたマルベートがいた。
「あ、あのね……あー、その、実はね……」
 冷や汗や赤く染まった頬は普段見ることの出来ないマルベートの人間らしい一面だった。
 Lumiliaの様子を伺いながらもじもじと言葉を紡ぐ。
「昨日、つまみに出したチーズがあったよね。あの中に悪夢を見るって噂がある物も混じっていたんだ。私は悪夢なんて見ないから信じていなかったんだけど、もしかしたらそれが原因かも……ごめんね。私はルミリアに素晴らしい誕生日と完璧な酒宴を贈ると言っておきながら、失敗してしまった」
「ふふ、ふふっ」
「ルミリア?」
 突然笑い出したルミリアにマルベートは首を傾げた。
「それなら成功してますよ。マルベートさんは、とても素敵な酒宴を贈ってくださいました」
 ルミリアは晴々とした顔で笑っていた。
「そ、そう?」
「そうですよ。マルベートさんでも間違えることがあると、照れたり落ち込んだりするのだと分かりました。可愛いお顔も間近で拝見出来ました。ですので最高の誕生日です」
「……ん?」
 マルベートは少しだけ狼狽え、渡鈴鳥は満足げに笑っていた。

  • 三年越しのディナーテーブル完了
  • NM名駒米
  • 種別SS
  • 納品日2023年02月25日
  • ・Lumilia=Sherwood(p3p000381
    ・マルベート・トゥールーズ(p3p000736
    ※ おまけSS『埋め合わせ』付き

おまけSS『埋め合わせ』

「これがお酒。赤ワインですね」
「そうだよ。どう? 気に入ったかな」
「とても香りが良いです。それに舌触りや喉越しも。葡萄の酸味や甘味をしっかりと感じますし、林檎や苺、春の土の味、色んな味が混ざって調和しています」
「お見事。ルミリアは良いソムリエになれそうだね」
「これが、マルベートさんが好きなお酒なんですね」
 熱くなった息を吐きながらLumiliaしみじみと言った。どこか感慨深げですらあった。
「また一つ、マルベートさんの好きなものを知ることが出来て嬉しいです」
「ふふっ、これからいっぱい好きなものを共有していこうね」
「はい。……でも、あまり美味しいものを食べさせないで下さいね。旅する時の食事が味気なく感じてしまいますから」
「美味しいものが食べたくなったらいつでもおいで。私も三年前から随分成長したからね。主に料理の腕が」
 グラスを揺らし、ワインに空気を含ませながらマルベートは得意げに微笑んだ。
「ところで、アイリスは?」
「朝は鞄に入っていたのですが、お昼過ぎにはふらっと居なくなってしまいました。マルベートさんの屋敷に行くとは伝えてあるので心配はしていないのですが。そうだ、鞄で思い出しました、マルベートさんにお渡ししたい物があります」
 今夜のLumiliaは饒舌だ。ほんのり薔薇色に染まった目元から見るに、少し酔い始めているらしい。
 心地よいLumiliaの声をずっと聴いていたいマルベートであったが、流れるように鞄から取り出され、真剣な眼差しと共に渡された箱を不思議そうに見やった。
「埋め合わせの約束を、覚えていらっしゃいますか」
「勿論だよ」
「埋め合わせに、何かあの日の記念となるものを贈りたいと考えたんです。何にしようかと考えている時間はとてもワクワクしました。相対性理論というお話を御存知ですか? 苦しい時間は長く感じて、楽しい時間はあっという間に過ぎて行くという考え方だそうです。私にとって、三年という月日はあっという間に感じられました。マルベートさんはどんなものが好きなんだろう。どんなものなら喜んでくれるだろうと考えながら旅をする時間は、とても楽しいものでした。マルベートさんは私が何を渡しても喜んでくれるでしょう。林檎の紅茶も干した果物も一緒に楽しめますが消えてしまいます。だから残るものが良いと考えました。また私が来ても許される。そんな口実を探しました。アイリスもそれなら喜んでもらえるだろうとお墨付きをくれたんですよ。どうぞ受け取ってください」
 ふにゃりとLumiliaは微笑んだ。
 饒舌だ。だが無邪気にさらりと告げられた言葉の一つ一つには、途方も無い力が秘められている。
「あ、開けてみても良いかな」
「どうぞ」
 赤子を抱くように繊細な手つきでマルベートが箱を開けると、中には大胆なカットが美しい、硝子のロックグラスが二つ並んでいた。
「水晶みたいで綺麗でしょう。中に入れた液体や光の反射で色が変わるそうですよ。大人っぽくて、落ち着いていて、でも色んな顔を見せてくれるんです。骨董店のショーケースに飾られているのを見て真っ先にマルベートさんのことを思い出しました。このグラスで一緒にお酒を飲みたい。そう思ったら買っていました」
 Lumiliaは清楚に、そして少女のように笑った。
「新しい約束を、しましょう。一緒に食事をして、お酒を飲む。そんな未来の約束を」
「ああ、そうだね」
 マルベートの白い肌が、耳が、月灯りでも分かるほど真っ赤に染まっているのが見えたから。

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